「ちょっと進んだモノづくり」で新製品を生み出す・英田エンジニアリング

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公開日 2023.04.02

「日本でいちばん大切にしたい会社」審査委員会特別賞受賞
「ものづくり日本大賞」優秀賞受賞
「中国地域ニュービジネス大賞」受賞

など、注目を集めている岡山県内の製造業・株式会社英田エンジニアリングのNIC製造部で働く万殿さんに、大学生の馬場さんがお話を伺いました。

 

企業活動を深掘りしてみる

「ちょっと進んだモノづくり」を

――会社概要について、教えてください。

 

駐車場管理システムなどの企画・設計・製造販売をし、「ちょっと進んだモノづくり」と、その改善・改良・新商品の開発に努力をし続けています。

 

――万殿さんが働いているNIC製造部は、どんな部署ですか?

 

「New and International market creation」の頭文字をとった部署名です。N(New)、I(International market)、C(creation)、つまり「国際的な市場の創造」です。「常に新しいものを、作り続けないといけない」という創業者の考えのもと、つくられた部署です。

 

――どんな事業をされていますか?

 

一番大きい売り上げ比率は、駐車場事業です。コインパーキングのロック版装置を製造販売しています。日本の駐車場業界で最大手のお客さまが、弊社製品を採用してくださっています。国内シェアは40%を超えています。要望を形にし、コストダウン・改良などを繰り返し、さまざまな製品を展開しています。

 

安くて便利な駐車場をトータル提案

 

――NIC製造部社員さんの年齢層を教えてください。

 

とても若い社員が多いです。12人のうち7人が20代、30代がいなくて、40代・50代が4人、60代が1人です。20代の子は可愛らしいですし、「一人前にしたいな」という想いでやっています。

仕事なんでね、全部が楽しいわけじゃないんです。辛いことも多いんですけど、みんなで解決していったり、何年かかってもできなかったことが、突然できるようになったりすることが嬉しいです。「一生懸命やっていくって、本当は楽しい」ということを、みんなに教えていきたいと私は思っています。

 

i/lock(アイシャロック)の事例を紐解く

 

――自動車盗難防止用電動バリケードi/lock(アイシャロック)の開発経緯について教えてください。

 

i/lock(アイシャロック)の開発は、ボラードという自爆テロ対策の製品(地中に円柱を埋めておいて、ボタンを押すとボンと出てくるイメージ)の低コスト版を開発したいという想いからはじまりました。

ボラードは、8tぐらいの車が時速50キロで突っ込んでも突破できないような、自爆テロを防止するための装置です。空港、造幣局、原子力発電所、迎賓館など重要施設に納めていました。「この製品を設置したら、車の盗難防止になるのでは?」と、弊社に問い合わせも多数いただきました。

 

 

――最初からよく売れたのですか?

 

いえ。ボラードは、強度は強いものの車以上に設置にコストがかかったり、1.5~2メーターほどの穴を深く掘らなければいけない製品だったので、(会社ではなく)個人の方には購入しづらかったのです。

 

――どのようにして、購入しやすくしたのですか?

 

駐車場事業で使っている製品の構造を転用し、小型化を図りました。2台試作したところ完成度が高く、社長のGOも出て、製造業の企業紹介サイト「イプロス」に掲載しました。お問合せ多数で反響も大きく、展開していくことになりました。

 

――今後の展開を教えてください。

 

高級バージョンや、性能だけではなくデザインにこだわった2種類の新製品を開発中です。

 

i/lock(アイシャロック)

 

英田エンジニアリングだからこそできた

――i/lock(アイシャロック)と似た製品をつくろうと真似をする企業はないのですか?

 

難しいと思います。モーター駆動なのに地中に埋めるので、水に浸かってしまいます。水に浸かるとモーターは壊れてしまうので、製造に手を出しにくい製品なんです。

 

――なぜ、御社は実現することができたのですか?

 

コインパーキングのフラップの中に「ゼロフラップ」と言われる、地中に埋設するタイプの車止めで、停めるときにガタンとならない製品も手がけていました。i/lock(アイシャロック)はその製品の技術があったので、実現することができたのです。

 

ゼロフラップ

 

海外と日本のコインパーキング事情の違い

――海外展開について、教えてください。

 

言葉の壁や文化の壁、国の政策違いなどがあり、コインパーキングの海外展開は難しいですね。駐車場の精算機に中国や台湾の紙幣を入れる際、しわがあり入れにくかったり、お金を払ってまで車を停める文化がなかったり、1つのコインパーキングに50台~1000台を収容するなど非常に規模が大きく、日本とシステムが異なることもありますが、いずれ必要になってくると思っています。

駐車場事業をされている台湾セコムさんとともに、日本と同じような設置型のコインパーキングを少しずつ展開していっています。

 

――コインパーキング以外も展開していますか?

 

i/lock(アイシャロック)の展開を考えています。海外企業の社長さんは、良い車に乗る傾向があります。台湾セコムさんは警備会社でもありますし、i/lock(アイシャロック)を売り込んでもらおうと考えています。

 

万殿さんの「働く」を深掘りしてみる

社員を大切にする意識

――入社の経緯を教えてください。

 

大学を出て、京都のファーストフード店で働いていましたが、家族の体調のこともあり「できれば、帰ってきてほしい」と言われ、岡山に帰りました。アパレルブランドに紹介で入社し、津山天満屋の店舗に配属されました。津山にはスーツを着る文化があまりなく、業績がふるわず、週5、6日の勤務日数がどんどん減っていきました。大阪転勤をすすめられましたが、地元にはいたかったので、悩みました。

 

現弊社社長(当時は課長)が、「バイトこんか」と声をかけてくれたので、本職が休みの日に、アルバイトに行くことになりました。再度大阪転勤をすすめられたときに、退社を決め、上司の推薦で弊社に入社しました。こういう仕事をしたいから入社するという意識は、全然なかったんです。

 

――そうだったんですね。意外です。

 

目的を持って仕事をやらないといけないなと思ったのは、ここ7、8年ぐらいかもしれないです。夢を持って入社すれば、人ってとても伸びると思うんですけど、考えが及ばなくてね。

私のような失敗を繰り返さないために、新入社員に週に1回勉強してもらっています。一般常識や、地元のことや人として正しい考え方を学んでもらっています。海外の方もいらっしゃるので、日本語の勉強もします。単位制をとっていまして、3年間ぐらい週に1回勉強をし、最後に卒業証書をもらう制度です。

入社してくれた子を育てていこうと思えば、働くことの意味などを指導してあげないといけないですね。

 

――目標や、やりがいを教えてください。

 

会社にとって、地域社会に貢献することも大事ですが、社員と社員の家族を守るということが一番だと考えています。

社員は、会社に大切にしてもらっていると感じれば、恩返ししたくなるんですよ。会社のために努力しようかな、この上司ならついて行こうかななど。そういうことを目指さないといけないですね。

 

また、法政大学の坂本先生という方が、全国8,000社を回って、伸びている企業について「日本でいちばん大切にしたい会社」としてまとめておられます。具体的には、

 

1.社員とその家族

2.協力企業の社員とその家族

3.現在顧客と未来顧客

4.地域住民とりわけ高齢者や障碍者の方たち

5.支援機関や株主

 

この5人の方たちを大切にしている会社です。

 

弊社は第12回大会で審査委員会特別賞を受賞しました。会社のなかでの勉強や研修を通じて、あることに気づきました。社員に楽しい人生を送ってもらうだけではなく、一生懸命になれたり、苦労してでも達成感を味わってほしいと思っています。みんなにも伝えたいし、そうなってほしいです。

 

第12回「日本でいちばん大切にしたい会社」の受賞式

 

「日本ものづくり大賞」優秀賞受賞の舞台裏

――チャレンジングな仕事はありましたか?

 

アクセルとブレーキの踏み間違いを防止する装置の開発です。販売までに3年半程かかりました。本体部分は共通なのですが、取付部やアクセル部は車に合わせて設計しないといけないので、完成は実はないんです。車が新しく出る以上、延々とチャレンジは続きます。

 

――どんな苦労がありましたか?

 

車の足元に限られたスペースで製品を設置しなければならないので、小さければ小さいほどよいのですが、装置が作動したときに、溶接が割れたり、鉄が欠けたりするんです。割れたり欠けたりしない程度まで、大きくしないといけないのですが、大きくすると設置条件が悪くなるんです。

 

合格基準として、5万回作動しても壊れない製品を目指しました。小型化すると、例えば2万2000回で異常が出てきたりとか、完成するまでに20回近くやり直しました。取付可能な車種が1車種増えればみんな喜ぶんですよ。試験の途中で本体に異常が出ると、みんなガクンとなる。一喜一憂しながら、販売までもっていきました。

 

また、実は今年(2023年)の1月に日本ものづくり大賞の優秀賞を受賞しました。昨年は、NBCの中国ニュービジネス大賞の大賞も受賞しました。苦労したかいがありましたね。

 

――モノづくりの醍醐味みたいな感じですよね

 

「ちょっと進んだモノづくり」という企業理念があるので、購入して横流しというような商売はせずに、モノづくりにこだわることは、第一条件としてありますね。

 

目指したい未来について聞いてみる

定年のない会社へ

――どんな会社を目指していますか

 

定年のない会社を目指しています。具体的には、昨年アグリ(農業)事業をはじめました。美作市は土地は広いのですが、人口は2万6000人程度です。高齢化が進み、若い人は農業を敬遠しています。

これからは、商売の経験を生かし、雇用を作ります。ある年齢になったら終わりじゃなくて、好きな時間帯に来てもらい、元気なうちはずっと働いてほしいです。頼られたり、役に立っている実感や規則的な生活がどうしても必要なんじゃないかと。

 

70歳になっても働きたいという希望があれば、アグリ事業をしていただくことができます。耕作放棄地の持ち主にも喜んでいただけるし、雇用をつくることができるので、みんながハッピーです。

 

食堂・ジム・座禅道場!?

――御社には、ユニークな施設があると伺いました。

 

社員には、食・体・心の健康を大切にしてほしいという想いで、食堂・ジム・座禅道場が建てられました。AIDINING(アイダニング)とAIDOJO(アイ道場)と命名されていて、創業以来の大きな投資と聞いています。

 

AIDINING(アイダニング)

 

――すごい投資ですね。

 

はい。びっくりされるのですが、普通のスポーツジムより大きかったり、オリンピック選手が使うようなメーカーの機材もたくさんあります。

約20年間スポーツトレーナーに従事した方に、専任ジムトレーナーとして社員になってもらいました。全社員に運動の目的(ダイエットや筋力UP、腰痛対策など)をヒアリングして、その人に合ったトレーニングメニューを指導してもらっています。

 

――座禅もできると伺いました。

 

スポーツジムの2階が、座禅道場です。岡山にある曹源寺の原田老師に月1回来てもらい、説法を聞きながら、全社員座禅をします。

1か月に1回、過去40回近く座禅の機会がありました。はじめた頃は30分座ると足がビリビリしたり、痛かったですが、慣れてくるんです。座禅って深い呼吸をすることが大事で、終わった後は頭がスッキリします。心の訓練ということで、座禅をやっています。

 

――新入社員さんや学生さんにも、御社の魅力は伝わっていると思いますか?

 

 

それは難しい質問ですね!!田舎なので、就職先として敬遠されると思うんです。そんな中で企業活動ができるだけの人材を集めていくには、投資や働きがいが必要なのかなと。今の社員も大切したいですし、将来的なことを考えても、しっかりと魅力をPRしていきたいですね!

 

AIDOJO(アイ道場)で座禅

 

(編集:横山 麻衣子)

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