ばねとSDGs、ローカルとダイバーシティーー。一見かけ離れているように思えるこれらの言葉が、全部つながってしまう面白い企業があることが、大学生の突撃取材で発覚しました。
その企業の名前は、備前発条株式会社。工場は男性的で画一的なイメージが根強い中、この会社ではたくさんの女性が活躍し、実にいろんな方々が個性を発揮しているようです。
「髪色が自由なことに惹かれて入社した」なんて話もありながら、着実に社員の方々が成長していく。そんな備前発条は一体どんな企業なのか、覗いてみましょう。
目次
創業74年、備前発条はグローカル企業。
総務部に所属。困りごとを聞いたり頼られたりするのがモチベーション。入社4年目で、医療事務として病院で働いていたこともある。
工場の現場で副班長を務める(公開時点で、班長に昇進されました!)。元保育士で、入社5年目。SDGsチームでは子ども向けの本の寄付活動もメインで行う。
岡山県内の大学に在学中の大学生。NPO法人だっぴのインターン生として10月から参加、企業取材に挑戦中。
「ばね」を核に、自動車などの部品を開発・製造
私達の生み出す部品・技術のコアは創業から一貫して「ばね」にあります。「ばね」は電動ではないからくり技術なので、当社の製品もシンプルでエコロジカルだと高い評価をいただいています。
一般のみなさんに名前が知られているのは、大手自動車メーカーさんですが、その下にはTier1という一次下請けと、そのTier1メーカーさんに部品を納品するTier2という二次下請けの製造会社があるんです。 日本発条、倉敷化工、丸五ゴム工業といったTier1メーカーさんから委託外注を受けて、さきほど挙げたような部品を納品しています。
でも、私達は自社開発品の提案もしていて、そちらも大きな強みにもなっています。
現在会社全体における自社開発品の売上割合は30%。この比率をもっと上げていきたいと思っています。製品としては、自動車シートのヘッドレスト、オットマンなどがあります。最近ではモータースポーツシートのトップメーカー・ブリッド(株)さんにアームレストを提供し始めました。インテリアなどの他産業にも新規開拓を進めています。
備前発条から地域、グローバルに広がる「協奏」
たとえば人材のダイバーシティを一層進めていて、現在は女性が40%、外国籍の方が25%、障がい者の方が4.1%と、本当にいろんな方に、働いてもらっています。それぞれの方が自分らしさを存分に発揮してくださっていますよ。 今日同席してくれている藤井さんや脇坂さんなど、若手の活躍も著しいんです。そうした人材の資格取得の支援などの教育にも力を入れていて「どんどん行っておいで!」と言えるようにしています。
文化活動や地域貢献にも力を入れたいと思っていて、このお祭りもその一環なんです。 私達の会社がある場所は、市街化調整区域。周りが住宅街なんですよ。でも、弊社工場は24時間体制で動いています。そんな中でも、60年近くこの土地で事業をさせてもらえている。これって、地域の方々のご理解・ご協力がなければありえないことだと、私は思ってます。 なので、私達は地域の方に喜んでいただける企業として、地域への広がりを大切にしていきたいんです。
これ、きっかけは当時2年生だった娘なんですよ。学校でSDGsのことを習ってきたみたいで、異常気象や森林火災などの世界各地で起こっていることを話してくれました。 でも、きっとそういう話を聞いて、ちょっと怖くなったんでしょうね。「お母さんがお仕事がんばってくれてるから、地球は大丈夫だよね?」って娘は言ったんです。私、それに本心から「大丈夫よ」って言ってあげられなかったんですよ。会社として娘が話した異常気象への具体的な手立てはできてなかったし、個人として意識もしてこなかったから。 それで「子どもに大丈夫って言ってあげられないような大人じゃダメだ」と勉強を始め、社内にSDGsのチームも立ち上げて取り組みを始めたんです。
でも、これもSDGsチームのメンバーが自分らしく能力を発揮してくれているからです。削減のロードマップを作ってくれたのもすごい人で、今年4月からCO²フリーの再生可能エネルギーを使い始めたのも彼の提案なんですよ。
楽しく成長、製造業で働くお二人のキャリア
元保育士、車の部品への興味から製造の世界へ
もともと車に興味があって、車の部品がどうやって作られているのか知りたい、作ってみたいという気持ちもあって。それで保育士をしてから転職で備前発条に入社したんです。
管理者としていいものが作れるようになるためには、設備関係のトラブルへの応急処置など、できた方がいいことがたくさんあります。今日は工場内で配線がちぎれたところがあったんです。もちろん設備をみてくださる技術さんがいるので、メンテナンスをお願いすることもできたんですが、一度やっているところを見ていたので、上司に「自分で直してみていいですか」とお願いしたんです。
上司は「やってごらん。失敗したら失敗しただよ」と言ってくれたので、チャレンジしてみました。ずっとそばで見ててくれて、時間をかけてやり終えた私に「お、出来たじゃん!」と声をかけてくれました。
工場というのは男性のイメージがまだまだ強いので、女性の私でもできるという姿を見せたいんですよね。最近ではフォークリフトの免許やガスの受け入れの資格も取りました。フォークリフトに関しては、乗れるようになれば様々な業務に役立ちますし「女性だから乗れない」っていうのはカッコ悪いなとやっぱり思うんです。 作業者が困ったときに助けられる資格や業務をする上で必要な技術を、これからも1つ1つ身につけていきたいです。
作業者時代に全ての生産ラインを経験していたわけではないので、知らないことも正直ありました。でも、他のラインを見に行って物のセットの仕方や設備の仕組みをちょっとずつ学んで、判断の理由を含めて少しずつ説明できるようになっていっています。 私のできることを増やして、その姿でもっともっと「この仕事やってみたい」と思う人を増やしたいなと思ってます。
医療事務から未経験の製造現場へ
一番の決め手は……髪の毛を染めていいことだったと思います(笑)。もっと自由にしたかったんですよね、まだ21歳でしたし。
病院の前にやった仕事も全部接客業だったんですよ。医療事務も、病院に来るいろんな方とずっとコミュニケーションをとり続ける仕事だったので、やり取りすることにちょっと疲れていたところもあったんです。だから「あまり人と喋らなくていい仕事をしたいな」と思って決めました。 結局、現場でいろんな方と話すことになったんですけど(笑)でも、いろんな方と関わるうちに改めて人と話すこと、関わることが好きだなと思いました。
技能実習生はインドネシアからが多く、35名ほど受け入れていて、その受け入れ管理や彼女たちの生活指導はもちろん、困りごとなどを日々聞いています。
話は耳で、文字は目で、時には英語も交えたり翻訳機を使ったり、身振り手振りも使って日本語を覚えてもらっていっています。
特にインドネシアは年上・年下という関係に厳しいところが文化的にあるので、ちゃんとそういう部分には敬意を払ってコミュニケーションをとっています。
例えば、総務部では9月半ばから子育てと仕事の両立が図れるよう就業規則を見直し、お子さんの看護休暇や介護休暇の一部有給化を進めたり、「育児目的休暇」という休暇を新設しました。これにあたって育児介護休業法や関連する法律をたくさん調べ、社内アンケートなども行ったことで知識のレベルアップにつながった実感があります。 もちろん、極めているかと言われるとまだまだなんですが、もともと関われてなかったところに関わっていって、「調べて追究できるようになった」と感じているんです。 SDGsのチームにも入っていますが、今までは「これやって」と言われたことしかできなかったのが、自分からSDGsについてイチから調べて「こういう事例があるみたいです」と提案できるようになったんです。
それに、社内にはいろんな方がいるので、耳の聞こえない方、インドネシアの実習生、職人気質な方、フランクな雰囲気の中でもいろいろ考えて接するので、多様な人との接し方も学べていると思います。
備前発条からのエール「失敗してもいい、やりきってみて」
大事にして欲しいのは、失敗してもいいからとにかく「やりきる」こと。やりきったうえでの失敗は、自分の経験値になるし、絶対無駄になりません。自分で決断して、やりきって、失敗しながら成長していってほしいです。
それに「コレを一生懸命頑張ろう」という“コレ”を見つけるのってなかなか難しいですよね。でも、1つ何か頑張れたら自信になるし、スキルアップになるから、いろんな経験をしていってほしいなと思います。最終的に自分に一番合うところが見つかっていくと思うので。
結局保育を学んでから保育士をして、今は工場でこうして仕事をしています。きっと失敗や成功ではなく、やったことに意味があると思うので、何でも挑戦してやってみてほしいです。そうしたものを糧に、今の私の仕事があるので。 ぜひ元気にチャレンジしてみてください!
(編集:北原 泰幸)
金属部品メーカーである備前発条の3代目社長。5年前に就任以来、培ってきた事業を引き継ぎつつ、ダイバーシティーやSDGs推進などさまざまな新しい取り組みを牽引する。