「はい」か「YES」で自分の幅を広げ続けるシステムエンジニア・北村森夫さん

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公開日 2022.09.08

今やIT業界は時代の最先端!常に人材不足が叫ばれていることもあり「IT技術者になろうかな」「プログラミングスキルを学んで仕事にしてみたい」と考える学生さんも多いはず。でも、その実態は意外にわからないですよね。

 

「カッコイイ仕事なの?」

「プログラミングだけしていれば大丈夫?」

「人と話さなくてもいい?」

 

IT業界への就職を考えている三原くんが、岡山県内のIT企業で働く北村森夫(きたむらもりお)さんにそんな素朴な疑問に答えるインタビューをしてくれました。

 

 

北村さんのお仕事

★北村森夫さん

今回のゲスト。岡山県内のIT企業に勤めるシステムエンジニア。現在は管理職に就いている。息子さんはすでに社会人で、最近ベトナム人の女性と国際結婚されたのだとか。

事務作業をサポートするシステムの開発

 

ーー北村さんはどういったお仕事をされているのでしょうか。IT企業というと”AI”や”IoT”など、最先端できらびやかなイメージが強いですよね。

 

私は岡山県に本社を置くIT企業・株式会社ワードシステムで働いています。私たちの会社はAIやIoTという分野ではなく、表からは見えづらい事務作業をサポートするシステムの開発を主力にしています。

 

たとえば、市役所内での「住民票の作成」「税金の計算」「児童手当の支給」といった市民の生活を支えている業務のシステムを開発をしています。

 

ーー私たちの生活に付随するわずらわしい処理や手続きを簡略化しているんですね。

 

ただ、こうした案件は大手企業が受注したものを下請けとして開発しているケースも多いんです。会社としてはなるべく直接受注できる仕事を増やしていきたいという思いがあります。

 

しかし、すべてのシステムを一から手作りするには膨大な時間と費用がかかるので、プログラムを組まなくてもお客様のやりたい事を可能にするノーコード開発や最小限のプログラミングで済むローコード開発も手がけるようになっています。

 

最近では地元の図書館様と共同開発したクラウドサービスを全国展開するという新たな試みを行いました。

 

ーー直接の受注を増やしたいのはなぜなんですか?

 

下請けの業務というのはお客様の顔が見えません。だから「言われたことだけしておけばいい」という考えに傾いてしまいがちなんです。でも、やはりお客様の顔を見て直接お話をすることで、何に困っているかを理解して、そのお客様に最適なシステムを提案するような仕事をしていきたいです。

 

最適なシステムをつくるためには、他社サービスの組み合わせを考えるにせよ、自社で新たに開発するにせよ、たくさんの引き出しが必要です。それを増やしていくためにも、直接お客様とやりとりして提案する仕事の割合を上げていく必要があると考えています。

 

ーー会社が成長していくために大切なことなんですね!

 

はい。私は53歳(2022年7月時点)です。定年までの間に、今まで以上にお客様に近い立ち位置からシステムの提案を行えるような企業に成長させていきたいと考えています。

頼まれごとを引き受けたら出会いや世界が広がる

 

ーー北村さんがお仕事や人生で大切にしていることはなんですか?

 

何かを頼まれたら「はい」か「Yes」で返事をするということですね。

 

ーー「いいえ」はないんですね。断らないということですか?

 

そうです。「チャンスは平等だ」とよく耳にしますが、やっぱり平等ではないと私は考えています。「北村くん〇〇をなんとかやってくれないかな」と言われたときに、そこで断るともう二度と同じような話は来ません。もちろん、どうしてもできない場合であれば理由をお伝えしてお断りしますが、可能なかぎり引き受けようと考えています。

 

ーー最近「はい」か「YES」で返事したことにはどんなことがありますか?

 

先ほどの話にでた地元の図書館様との共同開発自体の話が合った際も「はい」ですが、開発中に図書館様からオープンデータソンのイベントへのお誘いがあった時も「はい」でした。これは「Wikipedia/OpenStreetMapで自分たちのデータは自分たちで公開(オープン)していこう」というイベントです。

 

ーー参加してみて、どうだったのですか?

 

ITだけしていたら知り合えない人と会えたり、Wikipediaを編集するなど今までにはない経験をすることができました。また、オンラインイベントのSlackに参加したら、いつのまにか私も実行委員になっていた事もありました(笑)。

 

コロナ禍でもそのイベントは毎年開催されていて「オンラインでセミナーをしたいので講師をお願いできませんか」というお話があり、これにも「はい、やりましょう」と返事をしました。

 

ーーそうやって引き受けることで、どんなことが自分に還元されるのですか?

 

おもしろい事に出会えますし、自分のできることや知識の幅がどんどん広がっていきます。また、イベント等を企画する側として参加すると裏方の方々、様々な立場の方々と関わりを持つことができるので、知り合いの幅とともに自身の価値観も広がりました。

 

高等専門学校の非常勤講師や趣味の登山も、そうやって声がかかったことに「はい」か「Yes」で答えたことがきっかけでした。

 

ーー非常に参考になります。でも、「イヤだな」と思うことはないんですか?

 

そういうことも沢山あります。たとえば地元の親睦会で一緒にウクレレで弾き語りをしようと声を掛けられた時(私はとても音痴)です。

 

でも、会社の上司として部下に、町内の大人として子ども達に「嫌なことでもやってみたら面白いかもしれないよ」と言っているのに自分が断っちゃダメだと思って頑張りました。今では少しでもうまくなれるようにウクレレ教室に通っています。

 

前向きに引き受けることで相手から声をかけてもらえる関係が続くし、チャレンジする事で新たな世界を新たに知るおもしろさもあると思います。

似たようなケースではじめたゴルフも、今では趣味の一つに。

 

北村さんのこれまで

第1章 パソコンとの出会いは中学校時代

 

ーー北村さんはどんな子どもだったんですか?

 

もともと人と話すことが得意ではなく、『科学と学習』の付録についている電気回路の工作等が好きな子どもでした。机に座っているよりも手や体を動かす仕事がいいなと漠然と思っていました。屋内の配電線工事、電信柱に登って作業をするような仕事。そういうものに憧れを抱いていて「津山工業の電気科に行こうかな」とぼんやり考えていました。

 

ーーもともとIT志望ではなかったんですね。

 

私が小さいころはほとんどの家にパソコンはありませんでした。中学校2年の時だったと思いますが、たまたま遊びに行った友達の家にパソコンがあって、触ってみたら「おもしろいな」と思いました。

 

「これでゲームを作って飯を食べられるようになったらいいな」と考えはじめた時、津山商業高校にIT系の学科がちょうど新設されました。そこに入学して、卒業後は地元・津山市のIT企業に就職をしました。

 

第2章 IT企業で気づいたギャップと経験した変化

 

ーーIT企業で実際に働いてみて、想像と現実のギャップはありましたか?

 

私は「1日ずっとパソコンと会話してプログラムをつくり、それでお金がもらえたらいいなぁ」と思っていたんです。人と話をするのが好きではありませんでした。きっと、今IT業界を目指している方の中にも同じことを思っている方は結構いるのではないかと思います。

 

しかし、いざ入社してみると、同じプロジェクトのメンバーやお客様とのコミュニケーションは欠かせなかったんです。「人と話したくなくてIT企業に入ったけど、実はIT企業は人と話をしないと仕事が進まないんだ」と気がつきました(笑)。

 

ーーどうやって人と話すことへの苦手を克服したんですか?

 

克服は・・・特にしていないですね。いつのまにかしゃべっていました。もしかしたら「人と話をするのが嫌い」と自分で思い込んでいただけなのかもしれません。

 

仕事をする中で自然とできるようになっていきましたが、今でも話すのが得意だとは思っていないです。だから、今でも話すのが上手い人を見ると「うらやましいな」と思います。

ITエンジニアはパソコンと1日中向き合っているイメージですが、実は人と話すことも多い仕事。

第3章 就職、結婚、子育てで生まれた変化

 

ーーさきほどの「はい」か「YES」で答える北村さんになったのはいつ頃からでしたか?

 

うーん、社会に出てからでしょうか。きっと「人からいいように見られたい」「いい自分を演じたい」と考えるようになったんだと思います。心の奥底には、今でも「嫌なことから逃げたい自分」がいると思います。でも、そこに「いい自分を覆い被せている」のだと思います。

 

結婚して、子どもが出来てからは特に。自分が独り身だったときは「好きな事」「楽な事」で良かったんですけど、結婚して子どもができると守らないといけないものができ、子どもにお金のことでつらい思いをさせたくない、親の事で子どもが後ろ指さされるような事になってはならないという思いもあり、徐々に変わっていきました。

 

ーー結婚や子育てもご自身の変化にもつながったんですね。

 

そうですね。息子が小学校のときにソフトボールとサッカーをするスポーツ少年団に入っていたんですが、そのコーチにもなりました。

 

きっかけは「息子が試合に出してもらえるんじゃないか」という不純な思いで手伝っていました。それを周囲の方が「一生懸命やる人だな」と思ってくださったみたいです。やっていたら自分でもおもしろくなって、サッカーは4級、ソフトボールは3級の審判のライセンスをとるまでになりました。

就職や結婚、子育てのプレッシャーも北村さんを磨いていった。

第4章 ”Yes”で多様な挑戦を。

 

ーー現在の中高生へ伝えたい北村さんにとっての大切な言葉を教えてください。

 

成功哲学の第一人者であるナポレオン・ヒルの有名な言葉「Yes, I can」ですね。

 

この言葉の教えは「できる・できないは他者が決めるのではなく、自分が決めるんだ」ということです。中学生・高校生は何かに挑戦する時に周囲の声が気になり、できるかどうか不安に感じて挑戦心を失ってしまうことがあると思います。そんな時にはこの言葉を思い出して、ぜひ様々なことに挑戦してほしいと思います。きっと、その挑戦が自分の幅を広げてくれるはずです。

 

ーーありがとうございます。最後に僕のようにこれからIT業界を目指す学生へもアドバイスをいただけますか?

 

やはり色々な人と関わることを大切にしてほしいです。私もそうでしたが、IT技術者を目指す人達の中には「できれば自分の世界の中に閉じこもっていたい」と願う人も多いと思うんです。

 

でも、ITの仕事でも人とのコミュニケーションは重要です。それに、これから将来的には機械でプログラムを自動で組めるような世界になっていくかもしれません。そうした中で求められる力はアイディアを生み出す力、創造力だと思います。アイディアは異業種交流など様々な業界・分野の方々と関わり、価値観を広げることで生まれやすくなります。

 

ぜひ誰かから声がかかったら、勇気を出して「はい」か「YES」と答えて自分の外の世界に触れてみてください。

 

(編集:北原泰幸)

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