好きを極める努力を積み重ねて、今。Croissanceオーナーシェフ・高坂総一郎さん

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公開日 2026.08.22

今回のゲスト・高坂 総一郎(こうさか そういちろう)さんは、小学生の頃にお母さんから手作りの味噌汁を褒められて料理人の道へ。中学卒業後に岡山県内のホテルと東京のレストランで約20年の修行を経て、2010年に岡山市でクロワサンスを開業しました。現在も一貫して大好きな料理の道を極めつつ、まだ誰もやったことのない料理に挑戦し続けています。

 

「料理が好き!」「好きを仕事にしたい!」人必見、プロの道で努力を重ねる高坂さんの生き方を紹介します。

★高坂 総一郎(こうさか そういちろう)さん

フレンチレストラン『Croissance』オーナーシェフ。岡山県岡山市出身で、中学卒業と同時に岡山のホテルに就職し、料理の基礎を学ぶ。東京の有名フランス料理店や全日空ホテルのレストランシェフを経て、2010年にCroissanceをオープン。日替わりメニューの料理を提供しつつ、ラーメンやカレーなどにも挑戦し続ける。

★小山 新葵(こやま につき)さん

岡山県内の専門学校生。家族や友人に料理を振る舞うのが好きな小山さん。料理を生業とし、さらに高みを目指すプロの料理人である高坂さんの思考や人生を深掘りする。

フレンチシェフ高坂さんのお仕事

メニューは日替わり!オープンキッチンのフレンチレストラン

現在のお仕事の内容について、教えてください。

 

フランス料理をベースとしつつも、和の要素を織りまぜた創造的な料理を提供するレストランでオーナーシェフをしています。オーナーシェフと言っても私一人で経営しているので、料理の仕込みはもちろんのこと、掃除なども私の仕事です。
大変ですね!仕入れも自分で毎日行かれるのですか?

 

私の店では、毎日仕入れをしていません。メニューのために食材を仕入れるのではなく、届いた食材から受けたインスピレーションで、その日そのテーブルだけの料理を作り続けたいと考えています。

 

従業員がたくさんいるお店ではなかなかできないことかもしれませんが、私の店は一人で切り盛りしているので、日替わりのコースメニューを提供することが可能になっているんですよ。

 

その日だけの料理…!どのようにメニューを考えるのでしょう?

 

届いた食材を見て、その食材に合った手法で調理しています。あらかじめ一ヶ月のメニューを決めてしまうと、必要な食材が手に入らなかった場合にストレスですし、その食材を手に入れるために時間や労力がかかってしまいますよね。

 

また、毎日メニューが変わることで数量しか手に入らない珍しい食材もお客様に提供できるのも、クロワサンスだからこそできることだと思っています。

 

食材選びで一番気を遣っていることは何ですか?

 

「有名なブランドだから仕入れよう」など名前にとらわれないように気をつけています。名の知れない食材でも、有名ブランドのものより美味しいものはたくさんあるので。

 

料理も接客も”妥協しない”高坂さんのお仕事

仕事をする上で大切にされていることは何ですか?

 

大切にしていることは、主に4つあります。

一つ目は、妥協しないことです。どの料理も、お客様からお金をいただいて提供するものなので、家庭では食べられないお店だからこそ得られる食体験を提供するように努めています。

 

また、食材を作ってくれる生産者さんへ対する気持ちも妥協していません。ただ、料理は何よりも食材ありきですが、状態が悪いものが届くこともあります。生で提供できないのであれば調理や加工するなど、工夫を重ねます。

 

二つ目は、自分の中でスケジュールを組むことです。一人でお店を経営していると、時間がいくらあっても足りません。効率よく作業を進める必要があります。

 

お一人で経営されているからこそですね。

 

三つ目は、厨房とフロアで思考を切り替えることです。効率よく作業することは大切ですが、お客様がお食事するフロアでは、サービス人としてお客様と接する必要があります。お客様のドリンクが少なくなっていたら次のドリンクをお伺いしたり、メニューに興味を示されたお客様には丁寧に説明する。すると自然に、所作や歩く速度もお客様の前だと緩やかになりますね。

 

私の店はオープンキッチンスタイルなので、盛り付けをしながらお客様とコミュニケーションをとることもあります。料理を通して人とコミュニケーションすることが好きなので、お客様が料理に興味をもって話しかけてくださる瞬間にやりがいを感じます。

 

四つめは、体調管理を徹底することです。予約制の店なので、私が体調を崩してキャンセルをお願いすることはできません。

 

徹底されてますね!お店の家具や内装にもこだわりがあるのでしょうか?

 

カウンターはペアシートにして、お客様が座った時に料理をしている私と目が合うようにしたり、オープンキッチンを取り入れたりと、お客様と会話しながら料理のできる空間づくりを心掛けています。

 

お寿司屋さんや和食のお店に行くと、お客様が「大将も一杯いかがですか?」などのやり取りがありますよね。でも、フレンチで「シェフ!一杯どうですか?」なんてやり取りはほとんどありません。でも私は、そんなやり取りをお客様としたいなと思っているんです。

 

そのお客様とコミュニケーションを取りたいという欲は、どこからきているのでしょうか?

 

料理のこと、つまり自分の好きなことを共有したいという思いが根元にあります。

 

普段は黙々と料理をするタイプですが、お客様が料理に興味を持ってくださったら、聞かれていないことまで話してしまうんです。そして、その時間が、何よりも楽しいなと思っています。

 

試作なし!脳内調理ができるワケ

高坂さんのプロ意識、本当にすごいです。お店のメニューは食材に合わせて日替わりとのことですが、そのアイデアはどのように湧いてくるのでしょうか?

 

今までの経験のもと、インスピレーションが降りてくるイメージです。降りてくる時はいくらでも降りてくるので、その時に忘れないようにメモしています。

 

ただ、私は試作をしません。頭の中で調理する「脳内調理」をしているからです。

 

これは、私の長年の経験と料理に関する知識があるからできる方法かもしれません。例えば、いちごとパプリカとトマトのように同系色の食べ物って相性が良いんですよね。そのような知識をもとに、脳内で材料を組み合わせていきます。そうして脳内調理で出来上がったものは、8割くらいはイメージ通りの味になります。

 

味まで繊細に想像できてしまうのですか?

 

食べたことのないものはできませんが、食べたことのあるものであれば大体できます。

 

試作してしまうのは、自分の中での種明かしのようであまり好きではないのです。もちろん提供する前には味見をして微調整してからお客様にお出ししていますが、お客様にお出しするもの以外で試作はしていません。

 

試作をしないだなんて、未知の領域です!ちなみに、どんな料理を作っている時が一番楽しいですか?

 

今まで見たことがなかった食材や、知らなかった食材を手にすると、少年のように興奮してしまいます。

 

それらを脳内調理した時と実際に作ったものがほぼイメージどおりの味になった時の喜びに、やみつきになってしまったのかもしれません。この喜びと、その料理をお客様が食べて喜んでくれた時の嬉しさは、何物にも代えられませんよ。

 

アップデートしながら高みを目指す高坂さんのこれまで

中学を卒業してすぐに、修行の日々へ

 

ストイックに取り組まれる高坂さんが料理に触れるようになったのは、いつ頃だったのか教えてください。

 

料理が好きだと思うようになったのは、母の料理の手伝いをしはじめた小学5年生ごろです。本格的にハマったのは小学6年生の時で、仕事から帰ってきた母に、私が作った味噌汁を出した時に「美味しい」と言われた一言が心に響いたのがきっかけです。

 

お母様の何気ない一言が、今の高坂さんを作っているのですね。そこから料理人を目指すまで、ほかの職業へ気持ちが揺らぐことはありませんでしたか?

 

同級生の将来の夢を聞いていると、弁護士やスポーツ選手などは出てきましたが、料理人を目指す人はいなかったので「料理人を目指していいのかな」と気持ちが揺らいだ時期もありました。

 

そんなとき、中学2年生の後半ぐらいに家族会議をしたんです。料理が好きな私に対して母から「料理人になる気はないの?」と言われて、中学卒業後すぐに調理師の専門学校を目指すことにしました。学校の先生からは「高校は卒業した方が良いのではないか」と言われましたが、同じ3年間を過ごすのであれば調理師の専門学校で勉強したいと思ったので、料理の勉強を独学で続けました。

 

様々な料理がある中でフレンチを選んだのも、中学生の頃ですか?

 

そうです。

 

最初はただ「料理をしたい」という気持ちで料理人を目指しました。でも、独学を続けていくうちに、国際的なサミットや晩餐会で出てくるのはフランス料理が多いと気づいたんです。どうせやるなら世界最高峰の料理をしたいと思ってフレンチ料理を選びました

 

中学卒業後ホテルでの修行をはじめた経緯と、そこで苦労したことがあれば教えてください。

 

母の知り合いで、ホテルでフレンチシェフをしている方が「うちで預かる」と言ってくれたんです。ホテルに入った当初、中学3年生だった私にとって身近な大人は家族と学校の先生くらいだったので、上下関係や人としての規律・言葉遣いなど、社会人としての厳しさを教えられました。初歩的なことですがとても学びになった場所です。

 

年上の同期には調理師専門学校を卒業した人もいる中、私は「サニーレタス」のような食材の名前も分からなかったんです。修行をするのに食材の名前が分からないと仕事にならないので、スーパーに行って必死に食材の名前を覚えました。

 

本を読んで専門用語などを学んだり、様々なセクション(調理や作業の担当場所)に顔を出して先輩の仕事を見せていただいたりもしました。

 

お客様に向けた料理を任されるようになったのは、いつ頃ですか?

 

修行3年目の18歳の時に、フレンチ料理の下の階でやっているカフェのシェフを任せてもらいました。それまでも付け合わせやスープを任されることはありましたが、カフェでは後輩もできましたよ。

 

5年目くらいに東京での修行を考えはじめて、7年目で退職して上京しました。

 

なぜ、東京を目指したのでしょうか。

 

日本の中央で作られているフレンチの現場を見たいと思ったからです。もちろんフレンチの本場はフランスですが、まずは日本の中央のフレンチを知るべきだろうと思いました。

 

東京の修行では、どのようなことを学びましたか?

 

東京では2つの店で修行しました。

 

最初に修行した店では、前菜を担当したのですが店で交わされるフレンチ用語についていけなくて、勉強不足を思い知らされました。

 

また労働環境も過酷で、朝は始発で帰りは終電で帰る日々。トイレや賄いを食べる時間もなくて、体を壊して退職しました。

 

2件目は小さなお店でしたが、ホテル以外で初めてポジションを任されました。言われたことをこなすのではなく自分で考えてお店が望む働きをせねばならないプレッシャーを知りました。シェフは情熱的であり、仕事を理論的に教えてくれたので、料理への向き合い方などは大きな学びでしたね。

 

その後、また岡山に戻られたんですよね。

 

はい。岡山のホテルの先輩から「帰ってこないか」と言われたので、戻ってきて2件のホテルで働きました。2件目に働いたホテルではオープニングスタッフとしてレストランシェフを任されたので、毎日が目まぐるしかったです。

 

そして、15歳の頃に立てた「20年後に自分のお店をオープンする」目標の時期を迎え、クロワサンス開業へと至りました。

 

人よりも上にいくには、誰よりも努力が必要

様々な経験を経てオープンした「クロワサンス」の店名に込めた思いを教えてください

 

クロワッサンを知っていますか?あれは、三日月の形をしていますよね。三日月には満ちていくとか、成長していくといった意味があるんです。だから、この店もずっと成長していきたいという思いを込めて、クロワサンスと名付けました。

 

ロゴも、クロワサンスの「C」と「S」をモチーフに、自然や植物を基調としたものにしています。

 

店名だけでなく、ロゴにも想いが込められているのですね。

 

実は以前、高坂さんが月に一度提供されているスパイスカレーの日にお店にきたことがあるんです。ほかにもおせちやラーメンなど、フレンチ以外の挑戦もされていますよね。そのような取り組みに至った背景を教えてください。

 

何よりも、自分を追い込みたいという一心です。

 

自分一人でお店を経営していると、私を叱ってくれる人はいません。だからこそ、有名シェフとのコラボレーションを企画して自分の仕事が正しいのかの確信を得る場として活用したり、もっとできるだろうと自分に課題を与えたりするようにしています。

 

また、遊び心を持って料理したい気持ちもあります。本業と別なジャンルを考えた時に、スパイスに面白みを感じました。

 

勉強量も膨大になりますよね。

 

勉強し続けることは、当たり前のことだと思っています。人よりも上に行こうと思ったら、人ができないことを努力しないといけません。私も天才ではないので、努力の積み重ねを大切にしています。

 

修行を積んで自分の店も軌道に乗せて、高坂さんは成功している人のように私には見えます。そのさらに上を追い求め続ける理由は何ですか?

 

料理に限らず、現状に満足してはいけないと思うからです。常に新しいことを見出すのが、プロですから。

 

また、やったことに対して売り上げや認知度で結果が出ていると実感できているのも、続けられる理由の一つです。

 

誰もやったことのないことに挑戦し続けたい

これからの展望について、考えていることがあれば教えてください。

 

子どもたちの食育に携わりたいという思いがあります。小さい時に旨みや腐敗の有無などの味覚を訓練することで、好き嫌いはなくなると思うんです。すると、免疫力が高まるので感染症などのリスクも少なくなるんですよ。

 

お店としては、コース料理の洋食屋さんに挑戦したいです。普通の洋食屋さんは、主な客層をサラリーマンとした1,000円前後でハンバーグやオムライスを提供するお店ですよね。そうではなく、こだわりのハンバーグやオムライスをメインにしたコースが成り立つようなお店をイメージしています。

 

おおー!

 

確かに、今の私は長年の夢だった自分の店を開業して、やりたいこともできて充実した日々を過ごしています。その一方で岡山にもフランス料理店という同じ土俵で闘う店も増えてきました。また、私自身の年齢を考えた時に、このお店を後何年一人で回せるだろうと考えるようになってきたんです。

 

だから、フレンチよりも少しカジュアルな、小洒落た洋食屋さんも良いなと思っています。

 

そんなお店、聞いたことないのでおもしろいです。そのような発想はどこから浮かぶのですか?

 

シンプルに、ほかにないからです。ほかにあることをやっても、伸びていけないですよ。これからも、誰もやったことのないことに挑戦し続けていきたいです。

 

若者へ「好きな道を行くと決めたなら貫き通す!」

 

料理への愛が、今の高坂さんを作っているのだと感じました。最後に、中学生以上のこれから料理の道を目指している人たちに向けたメッセージを頂戴したいです。

 

ちょっと厳しいこと言うかもしれないけど、自分が好きでこの道に行こうと思ったんなら貫きなさいと言いたいです。人間関係や給料など環境の面で職場を変えるのは良いと思いますが、料理をしたいと料理人になるのであれば、そこは貫いてほしいですね。

 

料理人は、そのくらいの覚悟をもった情熱がないとできないんですね。

 

そうですね。正直、料理人はきついし給料も決して高くはありません。これはどの職業を選んでも言えることですが、一度自分で決めたことは貫きとおす情熱が大事だと思いますよ。

 

高坂さんの話を聞いて、フレンチのシェフは本当に料理を心から愛している人しかできない仕事だと感じました。学びの多いお話をしてくださり、ありがとうございました。

(編集:松田 七奈/執筆:高石 真梨子

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