今回は、医療福祉分野のなかでも在宅福祉を中心にいくつも事業を運営する、株式会社アークリードの岩田成矢(いわたせいや)さんをご紹介します。社会福祉士の資格を持ちながら、すぐに福祉職に就かずバーテンダーなどいくつかの業種を経験したことが、今の仕事に活かされているそうです。
目次
岩田さんのお仕事
――岩田さんは、どのようなお仕事をしているのでしょうか?
――幅広く事業を運営されているんですね。
それに加えて、環境面を整えるのも大事。本人が家で過ごせるようにする一方で、在宅で介護をする家族についても考えます。家族には、介護を休む時間が必要だったり、家族が本人に長時間しっかり関わってリハビリなどをする場所が必要だったりします。
在宅介護に関する一連のことを考えたときに、1人の人が家で生活するために、支えとして必要なことを、1つずつ事業にしているというイメージです。
岩田さんのこれまで
頑張る対象を探していた高校時代
――岩田さんはどんな高校生だったのですか?
僕、卓球がめちゃくちゃ強かったんですよ。中学生のころは卓球部に所属していて、岡山県で個人戦ではベスト8、団体戦だったら2位になって、県選抜にも選ばれていました。
部活を通して、頑張ったり努力したりすることの大事さや、努力は結果として実ることを知って、何かを頑張ることに楽しさを感じていました。
けれど、ふと周りを見渡すと部活以外のことも楽しんでいる同級生がいたんです。
「このままじゃ周りの友達に置いていかれる」という不安に駆られて、高校に入学してからは、部活はもちろん、学校の行事も積極的に楽しんだり、友達ともよく遊んだりしていましたね。
バーテンダーとの出会い
――その後、川崎医療福祉大学に進学して、卒業後は福祉職ではなくホテルのバーテンダーになるのですよね。バーテンダーになるきっかけは大学生時代にあるのでしょうか?
大学3年生のときに、ザ・リッツ・カールトンというホテルの丁重なもてなしをする精神や仕事術に関する本がたくさん出版されていたこともあって、勉強がてらザ・リッツ・カールトンに何回かお酒を飲みに行きました。
ビール一杯が、居酒屋の数倍の値段だったのに驚きました。「なんでこんなに高いんやろ。空間、接遇、ブランディングが価値を高めているのかな」と思うのと同時に「自分は将来、何者になるかわからないけれど、目に見えないものに価値を見出す技術を学びたい」と思って、ザ・リッツ・カールトンでバーテンダーとして働きたいと考えました。
挫折、迷走、内省の20代半ば
――バーテンダーから福祉の仕事に至るまでにはどんな経緯があるのでしょうか?
ザ・リッツ・カールトンに勤めて経験を積んでいく中で、ふと思ったんです。「岡山に素敵なバーはたくさんある。今、一緒に働いている同期はとても優秀。こんなにすごい人たちがたくさんいるのに、僕が岡山でバーをやる必要はあるのかな。そもそも、自分は一生バーテンダーをしたいのだろうか」と。
考えた末に、ホテルを退職し、岡山に戻ってきました。
――岡山に戻ってからは、どのように過ごされていたのですか?
半年くらい、「今後の人生をどういうふうに過ごそうか」「自分がやる気が出るポイントは何だったか」をずっと考えていましたね。
バーテンダーの経験などを振り返って、僕はたぶん職人肌ではないのだろうなと思ったんです。目の前の人が喜んでいる姿を見ることも好きですが、俯瞰して全体の空間を見ていることが好きだなと。
20代で数回転職をしましたが、どれもしっくりきませんでした。そんななかで福祉業界の求人を見つけて、社会福祉士という資格を持っているので、やってみようかなと思って福祉の世界に戻ってきました。
仕事で大切にしていること
会社の理念「選択と可能性」
――そこから岩田さんの福祉の道が切り拓かれていくのですね。岩田さんの会社では、福祉のなかでもなぜ在宅で生活している方に特化しているのですか?
月日が流れていくうちに現場の経験が増えて、看護やリハビリ、介護などそれぞれの分野のことが少しずつわかるようになりました。知識を得たり経験を積んだりすることで、「家に帰るサポートができるんじゃない?」という漠然とした思いが「家に帰ることができそうだ」という確信に変わっていったんです。
「家に帰りたい」と思っている方々に、選択肢が提案できるようにしようといろいろ考えていたら、事業がどんどん増えていき、今に至ります。
――なるほど。今、お仕事で大切にされていることはどんなことですか?
僕たちのお客様は、介護保険や医療保険を利用している、何らかのハンディキャップを背負っている方々です。そうした方々が、ハンディキャップを背負う前に普通にやっていたことや、今やりたいと思うことを、ハンディキャップを理由に諦めないようにしたい。「自分でお風呂に入りたい」「温泉旅行に行きたい」といったことを、ハンディキャップを背負っても選べるようにしたいという思いで「選択と可能性」を掲げています。
もう1つ、僕や僕たちの会社が大事にしていることがあります。それは、価値観を押し付けないようにすることです。たとえば、僕たちは家で生活することをサポートしていますが、先ほど話したように、家で生活することがすべてだと思っていません。
その方にとってのすべてはその方にあると思っている。
だから、あくまで僕たちは、その方の希望ややりたいことに沿って、可能性の選択肢を提示できる存在でいることがプロフェッショナルだと思っています。
福祉業界の課題「連携」
――福祉分野でお仕事をするなかで、難しさや葛藤を感じる部分はありますか?
現場では、1人の人の生活を支えるために、必ずいろいろな専門職の方が関わります。関わる人全員が「何のためにやるか」という共通認識を持つことが難しい。目の前の方にとって、「何のためにそれをしているのか」ということが、それぞれの職種でずれることがあるんです。
たとえば在宅では、本人は家で死にたいと思っているけれど、家族は長生きしてほしいと思っているケースや、主治医が延命に意識が向いているケースがあります。家で生活していて病状が悪化して、病院に行けば助かるけれど、家にいたら危ないという場合があるんですよ。本人は家で死ぬことを希望している。けれど、最終的な判断は主治医などの医療者に託されます。
そのとき、訪問診療をしている方が判断した場合は、本人の意思に寄り添って、家で生活できるようなケアが選択されることもあります。
一方、延命にフォーカスを当てた取り組みをしている方が判断する場合は、病院に行かせることを即断することもあるんです。
関わる人がそれぞれプロフェッショナルで、それぞれの価値観や正義を持っている。けれど、その人たちの正義が患者本人の希望とは違うときがあるんです。患者本人が希望する生活を叶えるためには、それぞれの専門職が相互に歩み寄って、関わりを続けることがとても重要です。連携しやすい部分もある一方で、連携しにくい部分もあるのが業界的な課題ですね。
――その課題に対して取り組んでいることはありますか?
動画でいろいろな職種の勉強ができて集まる場を作れたら、多職種連携しやすくなるんじゃないかと思って立ち上げたのが、岡山の医療福祉について動画やセミナーで知ることができる「アメポケ」です。
――目の前の方の希望を叶えるためや、医療福祉業界の課題解決のために、日々取り組みを続けているのですね。
(編集:森分志学)
主に医療福祉関係の事業を運営していて、一番多いのは在宅の分野です。家で生活をしている障がい者の方や高齢者の方が、安全に安心して家で暮らせるように、医療的ケアや介護、リハビリ、ご自宅の生活環境を整えるような仕事がメインです。
具体的には、訪問看護、訪問リハビリ、訪問介護(ヘルパー)、デイサービス、居宅介護支援事業所、整骨院、福祉用具や医療機器のレンタル・販売、福祉関係の家のリフォーム、アメポケ(研修用の動画の配信サイト)、セミナー運営、人材紹介・人材派遣といった事業をしています。