「自分のやりたいことが分からない!」そんな悩みを抱えている人は多いのではないでしょうか。この記事では、大学卒業後にシステムエンジニア・広告制作会社・カメラマン・デザイナー・ライターなど多数の経験を経た上でスクールソーシャルワーカーとして勤務している上田篤史(うえだあつし)さんの生き方に触れていきます!
目次
上田さんのお仕事
小中学校のスクールソーシャルワーカー
――上田さんはどんな活動をされていますか?
――スクールカウンセラーとの違いは何ですか?
役割の違いとしては、スクールカウンセラーさんは主に心理面のサポートをします。心理相談や心理検査をして、子どもの内側から課題を解決しようとしていきます。
それに対してスクールソーシャルワーカーは、その子の外側から問題を解決しようとします。学校の環境には主にクラスメイトや学校の先生との関係が、家庭の環境としては家族や親戚との関係がありますね。家庭の経済状況や住まいの地域も重要な環境要因です。
ーーなぜ環境面からのアプローチが必要なんですか?
だけど、その魚の健康に影響を与える環境要因っていろいろあると思うんですよ。他の魚との関係や水質とか。でも、その水質一つとっても、改善のためには池に流れこむ川の源流となる森を整備しないといけないかもしれない。そんな風に根本的解決に向けて様々な角度から問題を見ていくことが大切なんです。
子どもの環境そのものを改善する必要性
ーー重要なお仕事ですね。最近はスクールソーシャルワーカーの需要が増えていると聞きました。
ーースクールソーシャルワーカーになったきっかけは?
その講演で「こういう課題が今の社会にはあるんだ」というのを実感しました。もちろん、子どもの貧困や虐待の問題があることは知っていました。けれど、その詳しい内情や具体的な解決への道筋について触れたのは初めてだったんです。
この時、スクールソーシャルワーカーという仕事の存在を知り、「この仕事なら社会課題の解決ができるんじゃないか」と資格取得の勉強をはじめました。
上田さんの脳内
脳内グラフとは、上田さんの頭の中を垣間見て、その割合を数値化したもの。どんなことを日々考えているのか聞いてみたいと思います。
上田さんは「ここまでがプライベート、ここまでが仕事」と頭の中ではっきりは分けないようにしているそうです。仕事に家族、それから焚き火・・・常にこれらがホワホワっと頭の中にあるのだとか。
仕事
家族
あと、姪っ子のことも考えます。赤ちゃんのころからずっと見てきていて。もう大きくなってきましたが、やっぱりかわいいです。この子は将来どう育っていくのかな、どんな未来を生きていくのかなとか…自分の子どもみたいな感覚で考えます。
焚き火
スクールソーシャルワーカーは学校が職場なので、学校があるところに仕事があります。だから日本全国どこでもやっていけます。
上田さんのこれまで
第1章 PCが好きでシステムエンジニアに
大学卒業後、23歳でシステムエンジニアになりました。もともとパソコンをいじるのが好きでこの仕事に就きましたが・・・想像していた以上に難しく、二年で辞めてしまいます。
「仕事と趣味は違うな」とこの時に実感しました。
第2章 文章を書くのが好きで広告制作会社に
パソコンいじり以外には、文章で自分の思っていることを伝えて、誰かに影響を与えたり何かを考えてもらったりするのも好きなんです。ブログを書いていたこともあります。
だから、システムエンジニアを辞めたあとも、やはり自分の好きなことを仕事にしたいと思い、広告会社に就職しました。扱ったのは主に企業の求人広告。人を採用したい会社やお店を取材して、写真を撮ったり採用の背景や仕事のやりがいを語っていただき、会社に戻ってキャッチコピーや文章を考える、といった仕事です。同時に、メンバー育成や社内企画などの仕事も並行してありました。
第3章 伝統工芸品の魅力にひかれて専門学校へ
エンジニアの頃に抱いた「難しすぎてついていけない…」という感覚とは違うのですが、中途入社だったので「早く成長しないと!」という焦りと膨大な仕事量でバーンアウトのような状態になります。
そこで、「一つのことに徹底的に向き合って集中できるようなことをやってみよう」と思ったんです。もともとデザインなどの美術的なものに興味がありましたし、木が好きだったので、木工の伝統工芸を学ぶために専門学校に通いました。
でも結局、「ずっとこの仕事で食べていくんだ!」という覚悟はできませんでした。今考えると当たり前ですが、「ちょっと木が好きだから」だけではやっていけるほど甘い世界ではなかったということです。
第4章 「やりたいこと」と「できること」の接点を求めて
今度は単に「好きだからやる」だけではなく、自分の「できること」ももう少し考えて、フリーランスとしてカメラマン・デザイナー・ライターの兼業を始めました。専門学校での知識を活かして工芸品の写真を撮ったり、ライターで培った技術を使ってパンフレットやチラシを作ったりする仕事もしました。
前職の先輩からも、広告制作の仕事をいただけたりしてありがたかったです。このころは、「やりたいこと」の中から「できること」を見つけて、その「できること」を少しずつ拡張していく、という時期だったと思います。
第5章 姪っ子との関わりで変わった世界
僕の妹は僕より早く結婚して子どもを生みました。姪に当たるこの子の誕生が僕に大きな影響を与えてくれます。
それまで自分より若い世代、次の世代のことはあまり考えたことがなくて、自分のことばかり考えて生きてきた感覚があるんです。でも、姪っ子が生まれた瞬間に「次世代っていうのは、たしかにあるんだな」と実感したんです。
自分のことよりも、もっと新しい世代の子たちがどうしたら生きやすくなるのか、どういう世の中がいいのかを考えるようになりました。今思えば、これもスクールソーシャルワーカーになった要因の一つだと思います。
第6章 スクールソーシャルワーカーの資格勉強
こうして自分の中の次世代や社会問題への意識が高まる中、先ほどお話しした子どもの貧困についての講演を聴く機会がやってきます。そこで、僕はスクールソーシャルワーカーになることを決意します。
スクールソーシャルワーカーになるには、一般的に社会福祉士か精神保健福祉士の資格が必要です。当時の僕はまだどちらも持っていませんでしたから、まずは資格を取得するところからのスタートです。
その頃、新たに入った職場で広報関係の仕事をしながら、通信制の短期大学に通って社会福祉士の資格を取るための勉強をはじめました。特に大変だったのが福祉施設での実習です。実習期間は1ヶ月で、その間は丸々仕事を休む必要がありました。職場のみなさんにご迷惑をかけながらもご理解いただけたおかげで、なんとか実習をクリアできました。
その後、若者を対象とした就労支援の仕事をはさんで実際にスクールソーシャルワーカーになれたのは、講演を聴いたときからおよそ5年後のことでした。
第7章 スクールソーシャルワーカーの中で活かされる経験
それまで幅広い職業に就いてきましたが、その経験がスクールソーシャルワーカーの業務の中でとても役だっています。
例えばシステムエンジニア時代の知識はITを使って業務を効率化することに役立っていますし、情報を系統立てて整理、加工する能力も今に活きていると感じています。
ライターや広告制作会社での仕事で積み重ねた文章を書くという経験も、非常に活きています。 スクールソーシャルワーカーは社会的につらい立場に追い込まれた方とも接することがある仕事ですから、言葉の使い方にはとても気を遣う必要があります。「どの言葉が相手にどんな影響を与えるのか」「自分が何を伝えたいのか」「それをどういう順序で伝えたらいいか」を文章を書く仕事を通して磨いてきたことが、そこに役だっています。
求人広告制作や就労支援の仕事を通して取材もたくさんしました。スクールソーシャルワーカーも人の話を聞く能力が必要ですから、これも活かせているという実感があります。
第8章 将来なんてわからない
学生のうちは周りの大人から将来何になりたいのとか、将来の夢は何かって結構聞かれると思うんですよね。学校の文集とかにも将来の夢を書く欄がありますけど、決まってない人ってたくさんいるはずなんですよ。
そんな人達に僕が伝えたいのは、「今具体的に決まっていなくても大丈夫、安心してください」ということです。
仕事としてやりたいことや自分に合っていることなんて、なかなかわかりません。僕は学生時代や若い頃は自分があこがれている肩書きで仕事を選んでいました。でも、仕事をする中で「自分ができること」や「興味のあること」を細分化して、組み替えながら仕事を選べるように段々となっていったのだと思います。
スクールソーシャルワーカーのことも、学生時代にはそんな職業があるなんて全然知りませんでした。でも、その存在を知って「この仕事に必要な要素って割と自分が今までやってきたことの中で培われてるかも」という感覚があったのでスクールソーシャルワーカーを選んだんです。今は、この仕事が自分を活かしてくれているような気がしています。
だから、「自分の将来を決めてないことは悪いことなんじゃないか」とか、「このままじゃ将来ちゃんとした大人になれないんじゃないか」なんて不安に思う必要はないんです。好きなことをやっていれば、だんだんと「本当にできること」も見えてきます。それに世の中はめちゃくちゃ色んな仕事がありますから。何にでもなれますよ。
上田さんのお仕事についてはポプラ社『ジブン未来図鑑 職場体験完全ガイド+』7巻でも掲載されています!
(編集:北原泰幸)
スクールソーシャルワーカーは子どもの抱える問題を「環境面から」解決していく仕事です。例えば、不登校や虐待といったその子だけでは解決が難しい問題。それに対してその子どもを取り巻く環境の情報を集めて、どのように介入していけば良いかを学校の先生方だけでなく、自治体や児童相談所などさまざまな支援機関と連携して検討します。