技術の力で菌やウイルスを除菌する水をつくる研究者・小野朋子さん

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公開日 2023.12.04

新型コロナウイルスの影響でより身近な存在になった除菌水。あちこちで見かけることはありますが、どのような人たちが、どのような想いでつくっているか、なかなか知る機会はありません。

 

そこで、高校生のころから「技術の力で、廃棄物問題を解決したい」と考えていた小野さんに、いったいどのような生き方をされてきたのか、インタビューしてきました!

小野さんのお仕事

★小野朋子(おの ともこ)さん

耐性菌や新種のウイルスの脅威に対して、スーパー次亜水をつくるシステムの開発・製造・販売を行う岡山市内の機械メーカー株式会社HSPで、取締役研究開発部長を務める。同社は、2018年西日本豪雨災害時、被災地にスーパー次亜水を約3トン無償提供。BCAOアワード(2018年)防災部門被災地支援賞受賞。

微生物の研究や試験をする

よく耳にする次亜塩素酸水とはどんなものですか?

 

いくつか作り方はありますが、次亜塩素酸ナトリウムのpHを希釈混合して弱酸性に調整したものです。新型コロナウイルスの対策としての利用が広がりました。

 

小野さんが開発している製品はどんなものですか?

 

うすい濃度で、菌・ウイルスに対して効果を有する『スーパー次亜水』です。弱酸性で人・環境に影響が少なく、空間の除菌消臭にも使うことができます。

 

水のように、においもありません。施設や病院の場合は、生成装置をおいて、蛇口をひねると使いたいときに使うことができ、掃除をしたり、食材も洗うことができます。

 

『スーパー次亜水』生成装置

 

さまざまなシーンで使われている『スーパー次亜水』

 

小野さんはどんなお仕事をしていますか?

 

除菌の効果検証や用途開発をしています。一例ですが、除菌をすることでシャーレ内の菌数がどのように減少するかなどを検証しています。

微生物試験中の小野さん

微生物効果試験の様子

 

微生物シャーレ(納豆菌の仲間)

 

微生物写真(野菜より培養)

コロナ禍前後で、衛生対策に対する考え方の変化を感じていますか?

 

はい。大きな変化がありました。コロナ当初は、どんなウイルスなのかわからないこともあり、多くの人が一生懸命除菌や衛生対策をしていました。

 

「コロナ疲れ」とよく言われますが、収まってくると、コロナ前の衛生対策もしなくなっているところは、ちょっとあるかなと思います。時間の経過とともに、衛生対策の考え方も変化するのでしょうね。

 

仕事をするうえで、どんなことを大切にしていますか?

 

1つめは製造業・ものづくりをするうえで、お客さまに嘘をつかずに誠実であることです。

 

2つめは、機械やサービスを届け続けることです。突然「このサービス・機械が使えなくなりました」となると、お客さまに迷惑をかけてしまうので、届けながら進化させていくことを大切にしています。

 

どのような体制で仕事をしていますか?

 

30名の社員が、5つの部署に分かれています。私は研究開発部ですが、営業やメンテナンスの応援もしています。ほかの社員も同様ですが、部署を横断しながら手伝い合わないと人が足りないこともあるので、支え合いながら仕事をしています。

 

また研究開発部には微生物試験や化学試験を行うメンバーが私を含め2名のみなので、それぞれ助け合いながら、さまざまな領域に携わっています。中小企業あるあるかもしれませんね。

 

「支え合う」働き方のよいところはありますか

 

自分の部署以外の様子がわかることで、自分の仕事にも活かすことができ、視野が広がることです。今後も支え合いながら仕事をし続けたいです。

 

未来の理系や技術士を増やす

仕事以外の活動について教えてください

 

日本技術士会という業界団体の活動に力を入れています。もう一つの場所として、とても大切にしています。

 

技術士、初耳です!

 

技術系資格のなかでは、最高峰とよばれる国家資格の1つです。科学技術の高度な専門応用力を必要とする際に、計画・研究・設計・分析・試験評価やこれらの指導・業務を行います。

取得者としては建設コンサルタントが多く、建設系資格のイメージが強いですが、建設部門の他に20もの部門があります。電気電子、機械をはじめとして医学を除いた理科系のほとんどの分野があり、私は生物工学と衛生工学分野の技術士です。

 

団体の活動としては定期的な講演会の企画や、若手技術者が技術士になるためのお手伝い、お子さん向けに理科教室の実施や、大学で女子生徒とおしゃべりなど、理系の人や技術士を増やす取り組みをしています。

理科教室の様子1

理科教室でつくったつかめる水

 

技術士会のどんなところに、面白さを感じていますか?

 

知識を知ることに加えて、気軽に質問することができるさまざまな分野の専門家がたくさんいらっしゃるので、私にとってはよい環境です。

 

技術士の資格を取得するまでは、生物のことばかり学んでいて、専門外の分野のことに興味や知識が全然なかったんです。

 

ところが、技術士のなかには道や橋をつくる人もいるので、いままでだったら何も思わずに素通りしていた場所でも、「ここがあの人がつくった橋なんだ!」と気づけるようになってくるじゃないですか。こういった社会や世界の広がりが楽しいです。

 

和気あいあいとした雰囲気の技術士会 技術者女子会

 

小野さんのこれまで

きっかけはフィールドワーク

現在の働き方に出会うまで、小野さんはどんな道のりを歩んでこられたのですか?

 

理科や生物が好きだった父親が理科教室をしていたので「そういう仕事ができたらよいな」というイメージをもっていた小中学生時代でした。高校は総社高校の普通科に進学しました。

 

進路を決めるきっかけは、ありましたか?

 

高校3年生のときに、香川県の豊島でフィールドワークをしたことがきっかけです。今でこそアートの島として有名ですが、当時は廃棄物の不法投棄が問題となり、島の自然が損なわれていました。

 

廃棄物の山を見たときに、「社会って、うまく回っていないところもあるんだな」と感じました。高校生のころは、環境問題があることを知っても、自分では何もできないことに必要以上に心を痛めてしまうようなところがあったんです。

 

そんな中で自分なりに廃棄物の問題解決を考えたときに、法律を変えるなどさまざまな解決の糸口が思い浮かぶなかで、有力な糸口の一つは「技術じゃないかな」と私は思ったんですよね。

 

なぜ「技術」だと思ったのですか?

 

たとえば、「不便になれば、解決します」と言われても、不便になる方向性では、きっとものごとは動かないだろうと思ったんです。そのため、便利さを維持したうえで廃棄物の問題を解決するには、技術が大切だと考えました。

そこで環境問題や技術的なことを勉強したいと、島根大学の生物資源科学部環境共生科学科に進学しました。

 

もどかしい体験が、大学進学のきっかけとなったのですね。

 

豊島フィールドワーク


ハードながら楽しい研究生活

大学での学びは現在の仕事につながりましたか?

 

研究室に入って、水処理を勉強したり、はじめて殺菌や微生物の実験をしました。「すごく面白いな。こういう仕事もいいな」という想いから、いまの会社に就職するきっかけとなりました。

 

大変そうなイメージがありますが、いかがでしたか?

 

夜遅くまで実験がありとてもハードでしたが、研究室には水処理をしている人もいれば、水質調査をしている人もいたり、さまざまな友だちや先生に恵まれて、とても楽しい研究生活でした。

大学の研究室にて

 

今の会社は、就活で探したのですか?

 

大学院卒業後、2003年に社会に出たのですが、いわゆる就職氷河期ど真ん中でした。2~30社受けて、落ちてということを繰り返していました。

 

意外です!

 

大変な就活でした。水処理や製造業という分野を調べていたある日、ハローワークで壁に貼ってある当社の求人票を見つけたことが入社のきっかけになりました。

 

入社を決めるまでに悩みや迷いはありましたか?

 

就活は苦戦しましたが、入社までの悩みはありませんでした。求人票で会社自体を初めて知ったのですが、幸運なことに居心地のよい会社で、現在まで長く働くことができています。

 

背中を追いかける研究者とは

小野さんはとても知的好奇心が旺盛ですね。尊敬する研究者はいますか?

 

はい。私と同じ微生物試験や、次亜塩素酸の用途開発を研究している三重大学の教授を尊敬しています。目のつけ所がシャープで、どんどん用途開発や研究を進めていく教授です。

 

どこにすごさを感じられたんですか?

 

ほかの人からは見えていないことから研究課題を拾い上げて、スピード感をもって仮説検証をしているところです。私も同じ試験をして同じようなデータが出ていたのに、なぜ課題に気づかなかったんだろう」ということも、しばしばです。

 

教授が研究成果を出し、先を走ってくださるので、私たちもその情報を踏まえた研究ができるので、ありがたいです。背中をずっと追いかけています。

 

今後の目標や展望があれば教えてください。

 

いまの仕事は、とても魅力的で社会的に意義があるので続けていきます。

 

ウイルスなどとどう付き合っていくかは、人類にとって永遠の課題です。人間側が、今回思った以上にあたふたしたところもあるので、ウイルスとうまく付き合っていくような素地をつくることを、ライフワークとしてやっていきたいです。

 

現在45歳です。仕事以外にもう1つぐらいライフワークがあったらという想いはありますが、探し中です。

 

若者へのメッセージ

さいごに、若者へのメッセージをお願いします。

 

中学校高校のころって、将来のことで頭を悩ませることがよくありますよね。将来についていろいろな選択肢があるので、選びにくくなっているかもしれません。



決めるときに、「マイルール」をつくると決めやすくなったりします。たとえば私はAとBの選択肢があった場合、それぞれの未来を思い浮かべてみて、どちらが楽しそうかを感じると決めやすくなりました。ほんの一例なので、みなさんそれぞれにあった決め方があると思いますよ。心から応援しています。

学会発表中の小野さん

小野さん、今日はありがとうございました!

 

(編集:横山麻衣子)

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