世界最先端の教育を現場につなげる人・澤茉莉さん

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公開日 2023.11.17

教育界には、教育のノーベル賞とも呼ばれる『グローバルティーチャー賞』があるとご存じですか?実はこの権威ある賞のトップ50に、私たちの身近にいる大人が選ばれていたんです。それが今回のゲスト、澤 茉莉(さわ まり)さんです!

 

「中2から小学校の先生を目指していた」という澤さん。いったいどのような生き方をされてきたのでしょうか。同じく小学校教員を目指すしおさんが直撃してきました!

 

澤さんのお仕事

★澤 茉莉(さわ まり)さん

 

「カスタマイズ保育」「バイリンガル教育」など特徴的な教育を行う岡山市登録保育施設・アースエイトユニバーサルスクールで英語統括責任者を務める。

外国人スタッフと保護者をつなぐ

 

澤さんは普段どんなお仕事をしていますか?

 

私は英語統括責任者として、英語チームの外国人スタッフと保護者の方をうまくつなげるパイプ役をしています。

 

スタッフの皆さんは素晴らしい才能と経験を持っていて、子ども達のために10年後20年後のグローバルな世界を見通した教育をしてくれています。しかし、保護者の方の多くは日本人の方ですし、幼児の今に日々向き合っている方々です。スタッフとの間には自然と価値観の違いが生じてきます。

 

そうした両者の間に入り面談で通訳を行うなどしてスタッフの持っている才能や経験、考えを引き出して、うまく家庭に伝わっていくようにするのが私の仕事です。

 

世界各地から集まった外国人スタッフのみなさんと。

 

保護者の方とのコミュニケーションが多い仕事なのですね。

 

 

そうですね。私たちの園では一人ひとりの園児とご家族と向き合った保育を大切にしています。

 

初めての経験となるご家族にとって、子育ては不安やわからないことだらけです。その中で「こんな子育てをしたい」というご家族の思いを話していただきながら、「こんな価値観があるんだよ」というスタッフの広い視野からの話もお伝えしていく。共に学んでいく関係を作っていくための橋渡しは大切な役割なんです。

 

もちろん園児の英語教育にも直接携わりますし、スタッフの採用に関わる仕事もしていますよ。

 

スタッフの方の採用ではどんな部分を見ているのですか?

 

まずは教員免許の有無です。実は日本では、外国人の方は教員免許を持っていなくても教壇に立つことができます。でも、知識やトレーニングがあってこそできる教育がたくさんある。だから私たちの園では教員免許を取得して教育学を学んでいることを必須条件にしています。

 

その上で、見ているのが教育への強い情熱を持っているかどうかです。パッションの有無は、レッスンを通じてすぐ子ども達に伝わります。子ども達を愛し、未来を作る子ども達への教育とその将来を信じている人であること。それをとても大事に考えています。

 

教育への情熱が大事。私も小学校の教員を目指しているので、響くものがあります!

 

「私たちがビジネスマンを育て、法律家を育てている。教育者がいなかったら、今の職業は何もない。だから、私たちは誇りを持って教育していきましょう」

 

これは、ハーバード大学の教育大学院で学長が語ってくれた言葉です。教育や保育は華やかには見えない職業かもしれないけど、とても大きな役割を果たしています。しおさんもぜひそこに誇りを持ってくださいね。

 

ありがとうございます、がんばります!

 

最先端を学び続けて実践する

 

澤さんが大事にしていることは何ですか?

 

学び続けること、そして成長し続けることです。教育界ではどんどん新しい研究が進んでいて、私が教員を始めた10年前と今では手法なども大きく変わっています。そこについていける視座を持って学び続け、現場に導入していくことを大切にしています。

 

社会に出て仕事をしながら、澤さんはどうやって学び続けているんですか?

 

私はいろんな国際学会やコミュニティの中に入るようにしています。自分の地域や県の中では見えない面白い世界がいっぱいあるので、そうした学会に入って新たな情報に触れ、自分もプレゼンして発信する機会を作っています。

 

また、私の場合は社会人になってからも大学院に通っていました。コロナ禍で、日本にいながらにしてハーバード大学の教育大学院のオンライン授業を受ける環境が整っていたんです。

 

日本では大学院は大学卒業後に行く場所というイメージがありますが、海外ではそうではありません。30代、40代、50代になっても自分をブラッシュアップしに行ける場所として認知されていて、仕事をしながら通えるコースもいっぱいあるんですよ。

ハーバード大学の教育大学院のみなさんと。

仕事をしながら大学院に行く、その選択肢は頭の中にありませんでした!

 

ぜひ選択肢に入れてください。もちろん本当に忙しかったですけど、すごく面白かったですよ。なんといっても、仕事をしながら学ぶメリットは学んだことをすぐ実践できること。仕事をして、夜ご飯食べてお風呂に入って授業を受けて「あ、これはうまく行きそう」というヒントを得て、すぐ仕事で試すことができる。論文も実践を通じた内容になるので、質の高いものが書けるんです。

大学での学びがどうしても受け身になりがちなので、社会で実践できる場があるってすごくいいなと感じます。

 

視野を広げれば大人になっても学べる場はたくさんあります。うまく活用していくことで仕事がもっと楽しくなりますよ。

社会人になってからの学びは、もっと楽しい。

学び続ける澤さんのこれまで

中2から小学校の先生を目指す

 

現在の価値観や軸ができあがるまで、澤さんはどんなことを考えて歩んでこられたのですか?

一番右が小学生時代の澤さん。

私は3歳の頃から両親の仕事の関係で香港にいて、小1から中3まではアメリカに住んで学校に通っていました。小学校から周囲は白人が多くて、中学校の頃には「なんで私は日本人なんだろう」「どうして見た目が違うのだろう」と悩むようになっていました。

 

洋服では補えない容姿の違いがあるのが嫌で、親が日本人なのも嫌で、家で和食が出るのも嫌で。お弁当なんて絶対学校に持っていきたくなかったです(笑)。

お友達とおそろいの服で。

そうやって自分のアイデンティティに悩んでいた中2のころ、すごく素敵な先生と出会いました。その先生のアシスタントとして毎日1時間小学生と接するうちに「こんな小学生の先生になりたいな」と思うようになったんです。それが大きなターニングポイントでしたね。

 

学びたいことと学校名の間で揺れる

 

高校や大学時代はどうだったのですか?

 

どの大学を選ぶのか、すごく悩んでいました。


高校時代は香港に引っ越してインターナショナルスクールに通うことになったのですが、それがものすごくレベルの高い学校で。周囲の友達はハーバード大、プリンストン大、イェール大といった超名門校を目指していて、学校自体もそういう名門校への進学を推していました。

 

でも、学びたかった分野の教育を専門的に、高レベルで学べる大学を目指そうと考えたときに第一候補に挙がってきたのは、知名度が高いとはいえないアメリカの田舎の大学でした。

 

大学のネームバリューか、本当に学びたいことが学べる場所か。悩んだ末に行き着いたのは「名門校であれば良いというわけじゃない。何を学べるかは大学で変わるんだから、今の私の学びたいことに合った大学を選ぼう」という結論でした。

その大学での生活はどうでしたか?

大学時代の友人達と。

ひたすら勉強して遊んで、すごく楽しく充実していました。希望に満ちあふれていて「私って良い教育者になれそう!」と感じられる大学・大学院時代を過ごすことができました。

 

アメリカの大学は全員が寮生活をするので、ルームメイトとの間で価値観や生活習慣の違いに苛立つことも多く、「私ってすごく惨めで嫌なやつだな」って悩むこともありましたけどね(笑)。

これだけ学んだら何でもできると思ってた

 

社会人になって念願の小学校教師になったのですか?

 

いえ、卒業直前まで小学校の先生になるつもりだったのですが、いろんな偶然がつながってアースエイトユニバーサルスクールの立ち上げに関わることになったんです。0歳から6歳までの幼児の英語教育に携わることになり、最初の3年間はずっと葛藤していました

子ども達と一緒に自然体験中の一枚。

しかも、あれだけ学んだ教育学の理論も、実践してみるとうまく行かなかったり、思ったことが全然形にならなかったり。

 

「もっと自分にはポテンシャルがあると思ったのに…」

「なんで大学院まで出て私はトイレトレーニングしてるの…?」

「アースエイトは私がいるべき場所じゃないんじゃない…?」

 

うまく行かないと人のせいにしたくなって、そんな悩みを抱えながらひたすら仕事に打ち込む時期でした。

毎日子ども達と過ごすことで、共に学んでいった。

現場と大学院で気づいた幼児教育の意義

 

どうやってそんな状況が変わって、今の澤さんになっていったのですか?

 

3年という時間が変えてくれたというのが一つです。経験を重ねるうちにだんだん仕事の全体像が掴めるようになって、少しずつチームのこと、子ども達のこと、ご家族のこと、自分が何を目指したいのか、いろんなことが見えてくるようになってきました。「3年は同じ仕事を続けなさい」って言葉を当初は疑ってましたが、本当かもしれないなと思いました。

英語のレッスン風景。みんな真剣!

幼児教育への葛藤にも変化があったのですか?

 

はい。子ども達とずっと関わってきたことで、幼児期の子達は毎日のようにめまぐるしい成長を続けていることに気づけたんです。トイレトレーニング、食事、遊びを通してぐんぐん学んでいく彼らの姿に、「ひょっとしたら、私はすごいことをやっているのかもしれない」と感じるようになりました。

 

それで、もう一度大学院に入って幼児教育について勉強をはじめました。そうしたらどの論文を読んでも「幼児教育が人間の根幹を作るもの。幼児教育者よ、立ち上がりなさい!」って書いてあって(笑)。

 

「ああ、私はそんな大切な仕事をしているんだな」と思えるようになってからは、迷いはなくなりました。

「今後も幼児教育と向き合っていこう」と決められたということですか?

 

そうですね。このころに、「私が本当にやりたかったことは、一緒に学んでいく、一緒に育っていくということだったんだ」と分かったんです。人間はずっと成長するものだから学齢に固執する必要もないんですよね。小学生でも、2歳児でも。

 

そして、その人間の成長の根幹となる幼児教育がいかに大切か腑に落ちることで、向き合う心構えができた。そういう感じです。

なるほど!

 

迷いは晴れ、子ども達と共に学ぶ時間を日々過ごしている。

成長し続けたい人へのメッセージ

これから澤さんが目指したいものはありますか?

 

私は学ぶことがものすごく好きなので「学び続けたい」という気持ちをずっと持っています。そして、現場も好きで、現場に立ち続けて子ども達と関わり続けたいと思う自分にも気づきました。だから、学びと現場をつなげる人になりたいと考えています。

 

教育学や心理学を研究しているのは研究室にいる学者さんです。でも、彼らが発表する最先端の研究成果はあまりにも現場に知られていません。教育の研究と現場にある大きな狭間、それが教育界でずっと叫ばれている課題です。この課題を解決するため、両者をつなぐ役割として期待されているのが、現場で実践しながら大学院で学ぶ「Education of Doctor(Ed.D)」です。数年後にはこのEd.D課程を目指したいと考えています。

 

3度目の大学院ってスゴイです、まだまだ学び続けていくつもりなんですね!そんな澤さんから若者へメッセージをお願いします。

 

あなたはもっともっといろんなことができる可能性を秘めています。

 

中学・高校・大学というのはすごく悩む時期だし、「ある進路を選んだら、この仕事に就かないといけないのかな」と視野を一人で狭めてしまいがちな時期でもあると思います。

 

でも、大丈夫です。

 

いろんな考え方やいろんな可能性が世界には広がっています。

 

私たちは大人になってからも成長し続けるものだから、完成形はないんです。いくつになっても安心して自分の可能性を模索し続けていいんですよ。

 

澤さん、今日はありがとうございました!

 

(編集:北原泰幸)

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