自分自身の性質を受け入れて、前に進みたい。でも、周りを見回せば、自分にはないものばかりが目につき、心のどこかで妬む自分に落ち込んでしまう。
就職活動中、そんな自分の癖に悩む大学生のななさんは、認定遺伝カウンセラーの十川さんのもとを訪れます。「遺伝×教育×科学×キャリア」と多岐にわたって活動する十川さんが語ったのは、ななさんがこれまで耳にしたことのない言葉でした。
「ノウハウ(know-how)よりも、ノウフー(know-who)」
一体、この言葉の意味するところは、何だったのでしょうか。目の前にあることに取り組みつつも「どうしたらもっと前に進めるようになるのだろう」と悩める人に、ぜひ届いてほしい。相談室のような、とことんトークです!
目次
登場人物紹介


広告業界に興味があるものの、進路に迷う大学3回生。経営・経済について勉強しているが、本当に興味のある分野なのか分からずにいる。人と関わることが好き。自分の持つ悩みやすい気質が気になり、十川さんのもとを訪ねる。
日本ではまだ数少ない「遺伝カウンセラー」との出会い





認定遺伝カウンセラーとしてのお仕事の様子


目指し始めたきっかけは、学部卒業後の進路検討時の出会いです。もともと大学では動物実験を用いた体内時計の研究をしていたのですが、徐々に「人と向き合う医療に生物学の知識を用いて携わりたい」と思うようになり、学部で学んだ知識を対面で活かせる仕事を探していました。看護師や保健師、臓器移植コーディネーターに治験コーディネーターなど、さまざまな職業が出てきたのですが、もっと他にないのかなと調べていた時に見つかったのがこの職業だったのです。

しっくり来ないぼんやりした学びは、将来につながるのか

実は私、目の前のことをコツコツするのがとても苦手で、目標に向けて計画を立てて努力を積み上げていくということに苦手意識があるんです。「その場その場で一生懸命頑張って、気づいたら積みあがっていました」ということはあるのですが……。



でも、気にしすぎる必要はないと思いますよ。ある場所に入って土台ができて、そのうちに段々その先の選択肢が見えてくるのは自然なことだし、そこであった出会いによって次の世界が見えてきたりするものだと思うから。
もちろんその見えてくる選択肢が良いかどうかは色々だから、失敗もあって、トライ&エラーですけれど。私が遺伝カウンセラーの道に進むかどうか考えていたときも、「今いる環境以外も見てみよう」と、いくつもの大学院の研究室見学をしてみたり、他分野のセミナーに足を運んでみたりしました。「いまいちピンと来ないな」ということも正直多くて、方向性が定まらず、効率的とは言えなかったし、とっちらかっていた気がします。
でも、しっくり来ない経験も、その先の土台にはちゃんとなるし、段々「やりたいこと」「できること」「必要とされること」の三つの輪をうまく合わせていくことができるようになっていきますよ。


私が岡山大学の大学病院で働くことになったのも、私が就職する半年前に臨床遺伝診療科が新設されたタイミングで、あるご縁があったからです。香川大学で遺伝やゲノム診療に携わっているのもやはり出会いがあったからです。

たくさんの人との出会いが活動の広がりへ
ふとしたご縁から起業家育成の分野でイノベーションスクールにも通うようになり、そこから岡山県知事の塾である「新・桃太郎未来塾」に通い、ついには経済産業省/JETROの「 J-Star X」というシリコンバレー派遣プログラムに参加させていただいたり。


今思えば、自分がどういう人たちに出会ってどういう環境に身を置くと自分の能力を発揮できるか、自分の持つ好奇心がどうすれば搔き立てられるか、分からなくてもどかしかったのだと思います。


仕事の領域も研究者、教育者、サイエンスコミュニケーション、イノベーションと次々に広がって、それらがかけ合わさっていくような感覚がありますね。



学生教育に関わる十川先生

学生教育に関わる十川先生

学生教育に関わる十川先生
自分を受け入れるための「ノウフー」





「変えられないもの」を「変えられない」と納得して、「じゃあ、どうしようか」っていうところに視点を向けられるようになるためにどうしたらいいのかなっていうことを、私はずっと考えているんです。

これは、遺伝カウンセラーの知見ではなく私の人生経験からの意見ですが、ななさんのような悩みを持つ若者には「大人の仲間」ができると良いのではないかと思います。
私は、シリコンバレーの科学ミュージアムで「好奇心を搔き立てられたときに、一人以上の大人が共有するのが大事。子どもだけじゃ芽は摘まれてしまう。だから、楽しいことや悲しいことも含めて、共有できる存在がいるといい」という旨の言葉に出会いました。

ななさんのような悩みを持つ若者には「大人の仲間」ができると良いのではないかと思います。




ノウフー(know-who)が増えてくると、自分で持っていなくても大丈夫なんだなと思えます。そうすると、もしかしたら見え方が変わってくるかも知れませんよ。


親身に相談にのってくださる十川先生
大人の生き方が、若者たちの道しるべ


そんな子達と話をして、少しでも、話した中で一つのフレーズでもいいから未来のとっかかりになれたらいいなとずっと願ってきたので、今日真剣に話を聞いてもらえてすごく嬉しかったです。


遺伝に限らず、誰かの生き方に触れる機会を作ることが、より多くの人が生きやすく感じられる世の中につながっていくのではないかと思っています。私自身、もっと早くに道しるべになる人に出会いたかったと思うので、ななさんのように自分の人生と向き合って考えている方をこれからも応援していくつもりですよ。


十川先生(左側)とインタビュアーのななさん(右側)で記念撮影。
(編集:横山麻衣子、執筆:高石 真梨子、北原 泰幸)

岡山大学・香川大学で遺伝啓発に取り組む認定遺伝カウンセラー。診療のみならず、学生教育にも尽力。遺伝啓発プロジェクト「Genetic Cafe」や人材育成のための一般社団法人「アントレ教員ラボ」も立ち上げに携わる。