「夢」や「やりたいこと」は、本当に必要なのでしょうか。
進路を決めるタイミングは必ず訪れますが、興味のあることが、必ずしも将来の仕事や進路に直接結びつくとは限りません。無理に「情熱」を探さず進路を選ぶことはいけないことなのでしょうか?
今回インタビューしたのは、NPO法人企画on岡山の代表、大塲真護(おおば しんご)さん。仕事を生きる術としながら、自分の興味を深めていくためのヒントが詰まったお話です。淡々と、飄々(ひょうひょう)と、どこか涼やかに自分の世界を広げてきた大塲さんの生き方に、ぜひ触れてください。
目次
大塲さんのお仕事
★大塲 真護(おおば しんご)さん
★いぶきさん
企画とは何か?実践しながら考える
今やっている主な企画は二つ。一つは、ホールを「原っぱ」にして、子どもたちが遊びながら音楽劇をつくる『野良のあそび箱』です。子どもたちがアーティストや様々な人と協力して、12日間かけて音楽劇を創り上げ、上演します。
もう一つは、いろいろなアーティストがパフォーマンスする舞台藝術祭「ニシガワ図鑑」です。ダンスや演劇、音楽など、様々な分野の表現に触れることのできる企てで、毎年3月に開催しています。
「企画」とは何かが明確ではないから、準備期間の軽視が生まれているのではないか。それならば、プロジェクトを進めながら「企画」の定義を言語化していこうと考えました。
どんな優れた劇場でも、外に出るとネオン街ばかりで余韻がないのでは、ただイベントを消費しているだけになってしまう。土地ごと含めての芸術を味わい、場を遊ぶことが大事なのに。
よく「地域活性化のために」という言葉を耳にしますが、「活性化」はなにかをやった結果を示すことばと思っています。目的は抽象的なものと思います。だから、NPO法人企画on岡山では「ホールを原っぱにしてあそぼう」という目的を設定しています。
大塲さんのこれまで
消去法で選んだ進路の中で見つけたもの
でも、どちらかというと人の集まりは嫌いでしたね。部活もすぐ辞めましたし。どうして今こんなNPOの活動をやっているのか不思議なくらいです(笑)。
大学は、一浪して早稲田大学の文学部に入りました。私は理系だったので、入試科目に数学があったのがよかったんですよ。それに文学部っていったら、経済学部や法学部より楽と思ってそうしました。
授業中に教授が「ちょっと一服」とタバコを吸い始めるような時代でしたよ。それに入学後3年間ストがあって、混沌としていました。卒論の締切日の連絡なんてないんです。掲示板にぽつんと貼ってあるだけで、自力で情報を探さなきゃいけない。私も締切日ギリギリになってそれに気づき、急いで提出した思い出があります。
当時はまさに時代の転換期でしたね。コギャルやルーズソックスが流行り、全国の学校が荒れた時期でした。社会はどんどん豊かになり新しい文化が生まれている一方で、学校の体制は古いままで訳の分からない校則もたくさんある。今みたいにスマホなんてないし、学校以外の居場所もないから、子供たちはガス抜きができない。
それに、影絵なんて教師もやったことがないから、教えることができないですよね。みんなでよーいどんで始めるから、平等で自由になる。
教師だったからいろんなことを経験できた
先ほどの影絵の話ともつながりますが、教育相談的な視点で言うと、演劇は集団がある程度正常になるために有効なんです。でもそれは、問題が起こる前にできる「予防的教育相談」にすぎない。だから、それだけでは当然いじめなど個別的な問題は発生します。
生徒が「いじめられました」と泣いて来ても、僕は担任として目の前のいじめ問題に対応できなかった。だから手を挙げて教育相談室長になろうと思ったんです。
ありがたいことに教育相談室を作ってもらえたから、職員室じゃなくてそっちにこもっていました。音楽を流してお香を焚いて(笑)。でも、不登校の生徒にとってもそんな場所があったのはよかったと思います。
市民活動の中に見出す「麻雀」のような面白み
たくさんの人が集まる団体を継続していくためには、明確な「法」を共有する市民の集合体であるNPO法人の形をとるのがよいと考えたんです。
人が集まると、冷たい組織になるか過剰な仲間意識を持つ集団になるか、どちらかに偏りがちなんです。組織っていうのは基本的に冷たくなるし、一方で集団は暑苦しくなる。この真ん中が難しいんですよ。私たちの団体だって、NPO法人として立ち上げて「法」をつくって体系化しておかなかったら、参加者に冷たい組織になるか、内輪だけで盛り上がる集団になっていたかもしれません。
僕たちのようなNPO法人の場合は市民が立ち上げるものであり、誰もが市民である以上、すべての人が対等に関わることが基本です。私たちの「野良のあそび箱」では、高校1年生から83歳までのメンバーが、市民として対等に活動しています。
しかし時には、参加者が既に属している集団の価値観を持ち込まれて困ることもあります。
ああ、でも企画会議っていうのは麻雀と似てるかもしれませんね。いろいろなアイデアを場に出していって、出したものの中で一番大事なものをお互いに拾い合う。
僕は麻雀が一番面白いゲームだと思っているんです。麻雀はどんな配牌になるかわからないし、将棋などと違って役割も決まっておらず、その要素は常に隠れている。お互いが何をしたいかもよく見えない。その見えない中から、形のある役に変化させていく。どんな配牌が来ても、そこからどうするかを考えていく。それが面白い。
人も同じで、本来お互いが何をしたいかよく見えない。それをだんだん形にしていく面白さが企画にはあるかもしれないね。
僕はそれが終わって2、3日経った後、ホールにフラッと立ち寄るんですよ。がらーんとしたホールに一人でポツンと立つ。本当に静かです。まさに「夏草や兵どもの夢のあと」ですよ、あの盛り上がりは幻だったのかと思うほどに。でも、あのホールに立つ瞬間、僕は好きですね。
若者へ「場に立って、見えないものを見よ」
場に立って、見えないものを見ようとすると、アイデアは生まれます。枝葉のことだけでなく、種を見ようとすれば、世界は広がると思いますよ。
(編集:有澤 可菜)