トラクターの可能性を広げ、農業の未来を動かす・三陽機器株式会社

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公開日 2026.01.07

田んぼの中を力強く走るトラクター。実は、アタッチメントを付け替えることで、さまざまな役割を担うことができます。

 

その動きを生み出す仕組みづくりには、たくさんの技術と工夫が詰まっています。そんな未来の農業を支える技術の裏側を、大学生の一色さんが取材しました。

 

★大河原 悟(おおかわら さとる)さん
取締役 技術部長
兵庫県太子町出身で岡山大学機械工学科を卒業。大学生の頃は自動車部に所属していた。

 

★小泉 悠(こいずみ ゆう)さん
技術部 メカトロチーム リーダ
広島県尾道市出身。岡山大学工学部を卒業後、2017年に新卒で三陽機器に入社。

 

★一色 眞菜(いっしき まな)さん
岡山県内の大学に在学中の大学2年生。NPO法人だっぴのインターン生として、2025年10月から参加。

 

農業機械の“頭脳(動く仕組み)”を生み出す

大手メーカーに信頼され続ける技術力

今日はよろしくお願いします。まずは、三陽機器さんの事業内容について教えてください。

 

私たちの会社は、主に「トラクターにつけて使う作業機」の開発・設計と製造をおこなっています。主力製品は大きく分けて2つです。

 

1つは、フロントローダといって、トラクターの前につけるシャベルのような機械です。土や資材をすくったり運んだり持ち上げたりするためのもので、これは弊社で昔から作り続けてきた代表的な製品です。

 

もう1つは、トラクターの前や後ろにつける草刈り機です。トラクターに乗りながら草を楽に刈れるもので、今ではフロントローダに次ぐ事業の柱になっています。

 

私たちは油圧や電気制御といった「機械を動かすための仕組みづくり」が得意なんです。これは、フロントローダや草刈り機の開発で培ったものです。

 

油圧ってなんですか? 仕組みを教えていただけますか?

 

簡単に言うと「油でアームを動かしたりモータを回したりする仕組み」です。

 

トラクターのエンジンで油圧ポンプを回し、そのポンプが油を押し出します。この油をシリンダーという筒に送ると、油の力でシリンダーが伸びたり縮んだりします。それによってアームが上がったり下がったりするんです。

 

油圧のいいところは、回転等の動力をワイヤーなどで伝えなくても、油の流れだけでモータを回す力を送り届けられること。トラクターはもともと油圧の力を使える仕組みを持っているので、その力を利用して作業機を動かせます。

 

油圧の技術も一番得意としているところです。

それらの機械は具体的にどんな所で使うのですか?

 

フロントローダは、主に農家で使われています。牛のエサを運んだり、収穫した野菜をパレットに載せて運んだりするときに活躍するんです。草刈り機は、田んぼの周りをはじめ、建設現場や一般の道路周辺の草刈りなど環境整備でも使われています。

 

ということは、農業をされている方が主なお客様になるんですか?

 

はい。最終的には農家さんが使ってくださることになります。ただ、うちが直接農家さんに販売するわけではありません。

 

大手トラクターメーカーさんが、私たちの作った作業機をトラクターに取り付けて販売してくれています。そのため、会社名は表に出にくくて、学生さんは入社してから「あ、こんな製品を作っていたんですね」と知ることもよくあります。

 

また、フロントローダや草刈り機で培った技術を使った油圧、電気制御部品を他のメーカーさんに販売することもあります。

三陽機器さんの強みはどんなところですか?

 

強みは、大手トラクターの作業機を長年開発しており、そこで培われたトラクターへの作業機の「マッチング技術」です。作業機をトラクターに取り付ける方法や油圧の取り出し方などは、トラクターの機種によって様々です。その一つひとつに合わせて最適な設計ができるところは、私たちの大きな専門性です。

 

さらに、電気油圧制御技術にも力を入れていて、操作レバーや制御システムまで自社で開発しています。その技術力を評価していただき、ほかの作業機メーカーさんからシステム提供の依頼をいただくこともあります。
また、タイにも工場があり、アジア地域向けにもフロントローダを展開しています。

 

自動化・省力化へ。未来の農業を動かす挑戦

 

アタッチメントの種類がたくさんありますが、自分たちで考えるのですか?

 

海外のものを参考にすることもありますが、農家さんからの「こんなのがあったら便利なんだけど」という声がきっかけで生まれることが多いんです。要望をもとに試作し、実際に使っていただき、よければ製品化していく。そうして種類を増やしてきました。アタッチメントの充実は、フロントローダ本体の売れ行きにも関わるので、とても大事なところです。

 

 

そして、先ほど申し上げた、第二の主力製品である草刈り機は、腕(アーム)が回動して、草刈部をトラクタから遠い位置まで伸ばせるタイプに力を入れています。

 

こちらの腕がぐっと伸ばせる草刈り機は、どういう仕組みなんですか?

 

折り畳んだ腕を開くことにより、草刈部をトラクタから離れた位置まで移動させ、遠くの草や道路脇ののり面などトラクターが走れない場所の草刈りに使えるのが特徴です。アームの先端まで動力を届けるために油圧を使い、草刈りのモータを回しています。

 

こちらの草刈り機は、リモコンで操作できるタイプもあるんですか?

 

リモコン操作で、人が近づけない場所でも安全に草刈りができる機械です。この分野には早い段階から取り組んでいて、特に草刈り性能には自信のある製品です。

 

将来的には、もっと自動化が進んでいくんでしょうか?

 

実は、自動掃除機のルンバのように、自動で草を刈る機械も技術的には作れます。GPSでエリアを設定し、機械だけで動く仕組みです。未来の農業を考えると、こうした自動化技術には今後も挑戦していきたいと思っています。

三陽機器さんが、これから力を入れていきたいことはなんですか?

 

今、農業の現場では自動化がどんどん進んでいます。トラクターも自動運転・自動操舵(ハンドル操作)に対応する流れが強くなっていて、私たちの作業機も、トラクターと通信しながら連動して動ける仕組みが求められるようになってきました。

 

さらに日本では農家さんの人数が減ってきています。例えば、これまで2〜3人で行っていた作業を1人でできるようにする省力化が必要です。そうなると、前にフロントローダ、後ろに別の作業機をつけて「農作業を一度に2つこなす」 といった複合作業が必要になる場面も増えてくると思います。

 

こうした未来の農業の形に合わせて、効率的で安全性の高い機械の開発を進めていくことが、これからの大きなテーマだと考えています。

 

農業機械の進化に向き合う、小泉さんのストーリー

進化し続ける“農業機械”の分野に、未来を感じて

小泉さんが担当しているお仕事について教えてください。

 

技術部のメカトロチームに所属しています。主な仕事内容は、電気製品の設計・開発です。具体的には、フロントローダなどの機械を動かすためのコントローラーや制御装置など、電気制御に関係する製品開発をしています。

 

とても難しそうなお仕事ですが、三陽機器さんに入社しようと思ったきっかけはなんですか?

 

就職活動を始めた頃は、農業機械のことはほとんど知らなかったのですが、「機械系の仕事がしたい」という思いがあり、いろいろな会社を見ていました。

 

その中で“農業機械”という分野を知り、調べていくうちに、これからの未来、さらに必要とされていく大事な仕事だと分かってきました。自動で制御する仕組みなど、技術がどんどん進んでいくところにも興味を持ち、「面白そうだな」と思ったことがきっかけです。

 

いくつか企業がある中で、三陽機器さんに決めた理由を教えてください。

 

決め手は「ものづくりの最初から最後まで関われるところ」でした。

 

農業機械の設計開発をされる会社でも、電気の制御装置は別会社で開発することがあります。ですが三陽機器では、電装品の構造や基板設計から最後の形にするところまで全部自社で携わることができて楽しそうだと感じました。

 

今のお仕事を続けるうえでのモチベーションや原動力を教えてください。

 

モチベーションは、農業機械分野の自動制御技術がどんどん進化していっていることです。ハイテク化がどんどん進み、新しい仕組みが次々と生まれています。 他のメーカーの開発を見て、「うちでもこういうものを作ってみたい」「自分たちも負けないように、良いものを作りたい」と考えることが、日々の原動力になっています。

 

「大学での学び」と「社会での仕事」の違いを実感

これまで働いてきた中で磨かれた専門性はありますか?

 

製品として使われるものをつくる視点です。大学でも電気分野の勉強はしていましたが、仕事では、部品の選び方や設計の工夫など、ユーザーが使いやすいように考えることがとても大切になります。

 

大学で学んだ制御のしくみと、三陽機器で扱う農業機械の制御には、どんな違いがありますか? 仕組みは同じなんでしょうか?

 

基本的な仕組みは同じところもありますが、私たちの油圧で動く製品はとても大きなパワーが出ます。そのため、動かすときに周りに障害物があれば壊してしまいますし、人がいれば大きな事故につながる可能性もあります。こうした危険を未然に防ぐための、農業機械ならではの安全技術を考えて設計することは、大学で学んだこととの大きな違いです。

 

さらに仕事では製品として「売れるかどうか」まで考える必要もあります。安全性はもちろん、使いやすさやコストなど、さまざまなバランスの難しさに悩むこともあります。

 

コミュニケーションが支える、ものづくりの現場

現場の雰囲気について教えてください。

 

やはり一人だけで完結できる仕事ではないので、営業や製造など他の部署と相談しながら進めることが多いです。コミュニケーションしやすい壁のない環境だと思います。

 

メカトロチームのお仕事で特徴的なところはありますか?

 

室内で設計するだけではなく、つなぎを着て外で試作機を動かしたり、実際の現場で作業したりすることもあります。雨の日に外へ出ることもありますし、土や油で少し汚れることもあります。でも、そういう「現場ならでは」の作業を含めて、機械づくりの面白さだと感じています。

 

三陽機器のお二人から若者へのメッセージ

 

やらないよりも「やってみる」を選ぼう

最後に。大学生・高校生へ、将来に向けてのメッセージをお願いできますか?

 

三陽機器のことで言えば、開発・設計という仕事では、“余計なことをやること”も大切だと思っています。たとえ失敗しても、それは次への改善につながりますし、「やる・やらない」で言えば、やって怒られるほうがいい。何もしないままより、そのほうがずっと成長につながるからです。

 

また、うちに限らず、会社を選ぶときには、“自分が本当にやりたいこと”を大切にしてほしいです。その想いがあれば、どんな環境でも活躍できると思います。

 

将来、どんなことをやってみたいのかを考えるときは、いろいろな世界をのぞいてみるのがいちばんだと思います。その中で「ちょっと面白そうだな」と思うものがあれば、まずは気軽に調べてみてください。

 

私たちが扱う農業機械の分野も、田んぼで働くトラクターなど、実はとても身近なところにあります。ふだんの景色の中にも“ものづくりの世界”は広がっている。そうした身近な気づきが、未来の選択につながるヒントになるはずです。

 

お話を聞かせていただき、ありがとうございました。普段触れることのない分野で、「フロントローダ」など初めて知ることが多く、新しい気づきや学びがたくさんありました。

(編集:森分志学/執筆:大島爽)

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