私達の見えないところで「振動のない快適な空間」をつくる企業・倉敷化工株式会社

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公開日 2025.05.13

少し、目をつむってみてください。今いるところの振動を感じとれますかーー?

 

私たちの生活空間は、振動に溢れています。感じ取れなくとも、マイクロやナノレベルの振動が、そこにはあるのだそうです。

 

そのことを教えてくださったのが、今回のスゴイ企業・倉敷化工株式会社のお二人です。防振技術で防振対策を行い、振動を制御し「振動のない快適な空間」を創り出す。振動のプロフェッショナルの深いお話で、世界の見え方がきっと変わります!

振動のプロフェッショナル集団、倉敷化工。

 

★水川博史(みずかわ ひろし)さん

岡山県倉敷市出身。県外の大学を卒業し、県外で就職。ライフイベントをきっかけにUターン転職をし、倉敷化工に入社。製品設計や新商品開発、営業を経験し、現在は常務取締役として会社経営に携わっている。

 

★髙橋伸悟(たかはし しんご)さん
岡山県真庭市出身。県内の大学で電気電子系を専攻し、県外で就職。ライフイベントをきっかけにUターン転職をし、倉敷化工に入社。入社後はソフトウェア開発に従事し、現在は電子制御事業部の開発課長として新事業開発を行っている。

 

 

★景山(かげやま)くん
岡山県内の大学に在学中の大学2年生。NPO法人だっぴのインターン生として10月から参加。

 車に建物、身近な快適を支える「振動対策」

今日はよろしくお願いします。まず、倉敷化工さんの事業について教えてください。

 

 

私たちは防振ゴムメーカーとして「振動」を制御し、ものづくりや身近な生活における振動対策を行う会社です。よく知られているのは自動車などの部品ですが、建物や製造現場などいろいろな場所で私たちの製品が使われています。

 

身近なもので言うと、どんなものに使われているのでしょうか。

 

 

自動車の部品としてはエンジンやサスペンション、ホースなど多岐にわたります。街を走る車の3分の1ぐらいには、私たちの製品が入っていると思いますよ。

 

 

次に身近なところでイメージしやすいのは、エアコンです。デパートや家電量販店の屋上にエアコンの室外機が並んでいるのを目にしたことはありませんか?あの室外機の下にある台にも私たちの製品が使われています。

そんなところに!なぜそこに防振部品が必要なのでしょう。劣化防止のためですか?

 

 

いえ、実は防音のためなんです。そのまま設置すると、屋上から振動が伝わり「ブーン」という音が室内に響いてしまうんですよ。エアコンのポンプやファンにも使われているのですが、これも同じです。振動が配管をつたい、トイレなど別の場所で不快な音として響くことを防いでいます。

 

なるほど、音なのですね。

 

 

そうなんです。アパートの1階と2階の間にも私たちの防振ゴムが使われていることがあります。2階でお子さんが飛んだり跳ねたりすると、1階にはドスンと音が伝わりますよね。2007年頃以降の新しいアパートにはよく導入されていて、そうした振動音を軽減しています。

 

御社の製品が見えないところで振動音を防いでくれていたとは・・・!

 

スマホに不妊治療、ナノの世界に不可欠な「振動制御」

 

他には産業機器分野、ものづくりの世界にも私たちの製品が活躍しています。たとえば、お手元のスマートフォンの半導体や液晶です。

 

 

この中にも防振ゴムが??

 

 

いえ、そうではなく、半導体や液晶を製造する際に「振動の電子制御」を私たちの製品が行っているのです。

 

 

振動の電子制御・・・・・・?

 

 

はい。アクティブノイズキャンセリング機能を持ったヘッドフォンをご存知ですか?

 

 

あ、知ってます。ノイズを打ち消す機能ですよね。

 

 

そう、あれは電子制御によって逆の波形の音を作り、雑音にぶつけることで音を打ち消しています。同じように、電子制御した振動をぶつけることで振動自体を打ち消して「振動ゼロ」の空間を作ることができます。その技術が半導体や液晶という非常に精密な作業が求められる現場で必要とされているんです。

 

私たちは感じていませんが、この建物も実はわずかに揺れています。こうしたごくわずかな揺れも、マイクロ・ナノレベルのものづくりの世界の品質には大きな影響を及ぼすため、工場では「除振台」という振動を除いて精密作業に適した空間を作り出す台の上で、製造作業を行います。

 

私たちはこの除振台を開発・提供しており、国内の半導体装置メーカーで多数採用いただいています。

 

 

除振台があるから、スマホみたいな精密な小型電子機器を作ることができるってことですか。スゴイですね!

 

 

電子顕微鏡や医療用の理化学機器にも、こうした除振台は必要なんです。最近特によく使われているのが、不妊治療を行うレディースクリニックのような現場です。

 

不妊治療では、卵子に対して針を刺すという非常に精密な作業が必要です。このとき、微細であっても振動があると狙い通りに作業ができません。そのため、電子顕微鏡を卓上型アクティブ除振台の上に置き、そこで操作を行っているんです。

 

そんなところにも・・・!電子制御の技術は学生の僕でも今後伸びていきそうだと感じます。

 

 

そうですね。今後の成長事業として様々な用途があると期待をしています。

 

振動のプロ集団が目指す「振動のない快適空間」

私たちの身近なところに倉敷化工さんの振動に関する技術があることが分かってきました。もう少しくわしく知りたいのですが、御社の強みはどんなところにあるのですか?

 

それは、私たちが業界や分野を横断する「振動のプロ」であることです。

 

一般的に、機械メーカーの中には振動やゴムの専門家は少数です。。なので、機械メーカーが製品の質を向上させようと考えた時、防振やゴムに関しては私たちのような専門メーカーに相談する必要があります。

 

私たちには自動車、住宅をはじめとしたあらゆる業界のお客様からの振動に関わるご相談に応えてきた経験値、ノウハウがあります。それらを最大限に活かして、「もっとゴムを柔らかくした方がいいですよ」「素材に粘りを入れましょう」など、より良いものづくりのための専門的な設計提案ができるのが私たちの強みです。

 

倉敷化工の技術者のみなさんにはどんな知識が必要なのですか?

 

 

振動の理論は物理学、ゴムの配合設計は化学、機器全体は機械、電子制御は電気やソフトウェアと、非常にさまざまです。もちろん一つひとつが専門的で一人で網羅できるようなものではないので、各専門家が集まって提案を作っていっています。

 

 

すごい。まさに振動のプロ集団ですね。今後は会社としてどんなことを目指していますか?

 

 

今までは、振動を早く止めたり制御することができる「製品を作る」というところに焦点が当たっていましたが、今後目指したいのは「ソリューションの提供」という観点での事業拡大です。

 

「振動制御技術で、人々の暮らしに、快適な空間をお届けします」をキーメッセージに据え、お客様の問題に対して振動対策だけでなく、振動を計測して、異常をキャッチしたら機械サービスを止めるなどの制御もご提案していこうとしています。

 

現代は静粛性への需要がますます高まっています。たとえば、電車では居住性や乗り心地を高めた車両が運行開始しています。弊社はこのような鉄道事業にも振動制御技術を提供しています。

 

住宅においても同じです。夜勤で昼間に休んでいらっしゃる方もいますし、防音性能はより高いものが求められるようになってきています。私たちはこうしたニーズにもっと貢献していきたいと考えています。

 

振動制御の最先端を行く、髙橋さんのキャリア

 

ワークライフバランスを求めて未知の振動の世界へ

髙橋さんが倉敷化工に入社したきっかけと理由を教えてください。

 

 

私は前職で全く別の分野の電子制御技術に携わっていました。転職のきっかけは、結婚して家庭ができたことです。

 

家族との時間を大切にしたかったので「よりワークライフバランスのとれる企業で新たな挑戦がしたい」と考えるようになり、子育てなど家庭での時間をとれる仕組みの整っている倉敷化工にUターンで入社することにしました。今から約10年前、2015年のことです。

 

振動についてはくわしかったのですか?

 

 

いえ、実のところ学生時代に振動分野の勉強はしたことがなかったので、振動に関しては全く知識がありませんでした。入社後に先輩社員に話を聞くなど、実務の中で学び、身につけていきました。

 

入社後はどんなことがモチベーションになったのでしょうか。

 

 

新しい分野に取り組んで知識や技術を身につけることが、好奇心を刺激し仕事を行うモチベーションになりました。

 

それに、家族と過ごす時間も仕事への熱意の源泉でした。「週末に子どもと、どんなことをしようかな」と考え、それまでにすっきり仕事を終えられるようにと業務に取り組んできました。

 

倉敷化工に入ってからはどんな業務を?

 

 

産業機器事業部の除振ステージ開発課で、さきほど水川さんの話にも出た除振台の開発に携わってきました。

 

除振台は、おそらくみなさんのほとんどが目にすることのない装置です。僕も入社して実物を初めて見ました。除振台はマイクロメートルやナノメートルの精度を必要とする液晶や半導体の製造装置や検査装置の足の部分で振動を抑える重要な装置です。この除振台の設計開発技術に加えて、私たちは製造検査装置のステージを開発するメーカーとの資本提携により、トータルでお客様の要求を満たす設計を追求することができます。

 

半導体や液晶業界って、何十トンもの定盤といわれる石の上に装置を載せてマイクロメートルやナノメートルの精度で物を作る世界なんですよ。

 

 

トンにマイクロですか。途方もないですね。

 

 

はい。そんな世界を支えるアクティブ除振台の電子基板・制御部分のソフトウェアを、私は担当していました。

 

今はそのアクティブ除振台に使用する振動センサの技術と経験を活かして、2024年4月に産業機器事業部から独立した電子制御事業部でセンシング開発をしています。

 

センシング開発?

 

 

センシング開発は、センサーによって、お客様の製造装置の振動などのデータを収集・分析し、製品の品質維持や装置の異常を早期発見することにつなげていこうという事業です。

 

工場の製造ラインで装置が故障してしまうと、生産の計画にも大きな影響が出てしまいます。ですが、このセンシング技術を活かして装置の異常を早期に発見できればこうしたトラブルを防ぐことができるのではないかと思います。

 

機器トラブルの予防にもつなげていこうという新たな取り組みなんですね・・・・・・!ちなみに、チーム編成や髙橋さんの役割は?

 

 

電子制御事業部の開発系の部署は現在31名在籍していますが、センシング開発はまだ立ち上がって間もないこともあり、僕を含めて6名で活動しています。

 

チームメンバーは振動・解析・機械・ソフトウェア・装置というそれぞれ異なる分野のプロ。それぞれの得意分野を活かし、チームとして人数以上の力が発揮出来るようにするのが、課長である僕の役割です。

 

振動の世界でも大事なのはコミュニケーション

髙橋さんは、これまで仕事のどんなところにやりがいを感じてきましたか?

 

 

倉敷化工の製品は産業界の至る所で導入されているので、お困りのお客様とたくさん出会います。その中で「良くなった」と言われるのがやはり嬉しいです。

 

一方で、そこには難しさもあります。たとえば除振台を導入してくださったお客様の製造現場で、思ったように除振台の性能が出ない場合があります。こうしたときは、現地へ伺って調整作業を行うのですが、お客様の装置の組み合わせ、床の振動の状態、さまざまな要因が組み合わさっているので、原因の追及と調整が非常に難しいのです。

 

どうやって解決するのですか?

 

 

私たちの装置で解決できる手段があればその対策を実施しますし、お客様の製造装置を見て設定変更をお願いする場合もあります。常にお客様とコミュニケーションを交わして判断・調整するんです。

 

やはり最初は除振台に着目しますが、センサーでデータ計測を進めていくと、実際には工場内で動いている搬送用ロボットの発する振動が影響しているケースや、建物そのものの影響であるケースもあります。ロボットの稼働タイミングをずらしたり、設置場所を変更したり、状況に応じた提案が必要です。このあたりの弊社の技術が今後センシングの分野で活かしていけると思っています。

と、とても難しそうです。

 

 

そうですね。振動を測ること自体は測定器を持っていけばできるんです。ですが、センシングの専門性は、どの部分を測り、その振動データをどのように読み解いていくかという所にあります。とても難しい仕事ですが、問題解決できたときの喜びはひとしおです。

 

今後は音など振動以外のセンサーも駆使して、振動とどういう相関があるのかを調査していくことで、振動だけでは分からないことを読み取る可能性を模索していきます。

 

まさに振動のプロですね!髙橋さんはこのお仕事で大事なことはなんだと思いますか?

 

 

やはりコミュニケーションですね。自分一人ではいくら頑張っていても出来ることは限られています。お客様、他部署の方まで含め、いろいろな方々に協力してもらうことで課題解決は可能になるんです。

 

倉敷化工は男性社員も育児休暇を取得したり、子供の病気の際の休暇制度なども充実しています。その都度、色々な仕事もみんなでコミュニケーションを取りながらカバーし合っています。やはり丁寧な意思疎通が大事だと思っています。

倉敷化工のお二人から、若者へのメッセージ

 

最後に、大学生・高校生へのメッセージをお願いできますか?

 

 

就活のことを考えるとアレコレ悩んでしまいますよね。そんなとき「何かに挑戦しよう!」と考えると、なかなか一歩が踏み出せなくなります。でも、行動しないでいると何も変わりません。

 

ですから、ぜひハードルを上げすぎず、「ちょっと」を大事にして行動してみてください。「ちょっと聞いてみよう」「ちょっと話してみよう」の積み重ねで、あなたの可能性はどんどん広がっていくと思いますよ。

 

僕が高校生や大学生に戻ることは、もうできません。振り返ってみると、そのときじゃないとできないことがあるんだなと感じます。

 

だからこそ、友達と遊んだり、部活やサークル活動に打ち込んだり、そういう学生時代の経験を思い切り体験してきてほしいです。

 

勉強についても同じです。僕も高校や大学で「こんなもの何に使うの?」と思う内容がありました。今思うと、高校や大学で習うことは自分の中で引き出しをたくさん作っておくような感覚ですよね。仕事をしているとそれが、こんな時に使うんだと思えることが出てきて、自分の中できれいにつながる瞬間が訪れます。僕もまだまだ勉強中ですけどね。
その時はきっと来ます。それを信じて、ぜひ今の学習にも励んでみてください。

 

響きました・・・・・・!お二人のアドバイスを活かして、僕も残りの学生生活を充実させますね。本日は本当にありがとうございました。

(編集:森分 志学/執筆:北原 泰幸)

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