地下足袋を現代のライフスタイルに変換させる、100年企業の挑戦

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公開日 2022.07.29

皆さんが普段履いている靴。好きなデザインや履き心地の良さを考えて購入しているかと思います。

株式会社丸五では、地下足袋や安全スニーカーの開発と自動車のエンジンルーム内で使われる特殊なラッピングホースの生産を行っています。

 

今回のゲスト・波止さんはウェルネス推進部で足袋型シューズをつくる仕事をしています。そこでは、地下足袋をはじめとした仕事で使う靴のリーディングカンパニーとして培った技術・技能を活かして、祭りや健康、スポーツなど新しい領域に挑戦が…!

★波止さん
福岡県宗像市に生まれ、大学で広島へ。土木工学科を卒業し、ゼネコンに就職。現場監督として島根県の「ベタ踏み坂」の橋脚などをつくる。
★シガク(森分 志学)
NPO法人だっぴの代表の人。今回は、企業の人から話を聞く役として登場。

 

ウェルネス推進部の事業内容

足袋を変換して現在でも役立つ靴を

丸五で私は何をしてるかというと、靴を作ってます。

 

今年で103年目を迎える私ども株式会社丸五は、岡山県の倉敷市茶屋町にあり、地下足袋を日本で一番最初に作った会社の一つと言われています。地下足袋を現代風にアレンジした商品として足袋型シューズを国内の工場で企画・設計して、生産・販売までをとりまとめている仕事をしています。

 

足袋型シューズの特徴など、詳しく教えてください!

 

地下足袋って、お祭り…岡山だったら“うらじゃ”など踊る方が履いているイメージがあると思うんですけど、職人さんや農作業をされる方が履いている地下足袋をずっと作っています。地下足袋がこの100年間ずっと廃れずに愛されているのは、何かいい特徴があるだろうと振り返り、その特徴を今のライフスタイルに変換することで、世界的に評価されている履物を、日本の皆様にも評価してほしいという思いで頑張ってます。

 

ウェルネス推進部の部署で一番オーソドックスなモデルになる「たびりら」という商品。特徴としては、地下足袋の良さを生かしながら、底が薄い、股が割れてて自由自在に足を動かせる。それを生かせる素材を倉敷帆布さんで特別に織ってもらいました。地元企業と協働して価値を高めて、それを全世界に発信しています。これも地産地消を言えると思います。

 

また最近では、革のサンダル「エマ」や革のビジネスシューズ。これも足袋なんですよ。こうした形で、皆様の生活に合わせた靴をデザインして、企画・設計・販売までやっています。

 

世界や日本で評価される足袋シューズに

足袋型シューズの中は靴下ですか?裸足ですか?

 

どっちでもいいんですけど、メンテナンスを考えると僕は5本指の靴下を履いてますね。夏になったら裸足ですね。短パンで「たびりら」でビーチとか、最強に気持ちいいシチュエーションだと思います。

 

足袋が世界で評価されてるのは、どの部分が特に評価されているのでしょうか?

 

一つはデザインですね。独特のデザインで、2系統に分かれています。

武道系のマーシャルアーツみたいなものは、格闘技をやってる方から「ダイレクトに足から情報が伝わる、親指で踏ん張れる」という評価。あと、デザイン的に忍者など日本文化をリスペクトした形で、クールでカッコ良いという評価。海外の方は『NARUTO』などマンガ好きで、特にフランスは評価が高いですね。

 

なるほど。それを日本の方にも評価してもらいたいということなんですね。地産地消というのは、どういうことなんでしょうか?

 

岡山、特に倉敷・児島・井原は綿産業が盛んで、今でこそ地下足袋を作っているのはほぼ丸五くらいですが、昔は100社くらい地下足袋を作っている会社がありました。そうした地元の特産品を活かして、帆布やデニムを一緒に使って地域活性化も考えてやっています。

 

足袋型シューズが人の役に立つ

ウェルネス推進部さんは、今までは限定的に使われていた足袋を日常生活の中でも使えるような履物に変えていくことがミッションなんですね。足袋にこだわる理由って何でしょう?

 

もともと丸五が始まった仕事が足袋なんですよね。創業者が、普通の着物で履く、室内で履く足袋に人力車のタイヤのゴムを貼り付けて、それで初めて地下足袋というものを作りました。それからずーっと作り続けてきた。

 

股が割れてる履物は、世界に多分足袋ぐらいしかないので、このアイデンティティを守りながら、股が割れている意味を健康面からもっと皆様に伝えて、より足をナチュラルな状態を保てることで、何歳になっても歩くことのできる社会づくりに貢献していきたいという思いが一番大きいと思います。

 

それは例えば「この人にとって」などあったりするんですか?

 

特に女性の方は、年を取るにつれて外反母趾といって親指のところが曲がってきて、そこが痛くなる。「たびりら」は、そうした方が履きやすい設計になっています。

あとは、介護業界の方から「股が割れていることで、力が入りやすくて仕事が楽になった、腰の痛みがとれた」という声ももらっています。

 

波止さんのお仕事

部門長として何でもやる

ウェルネス推進部の中で、波止さんはどの範囲のお仕事を担当されていますか?

 

僕は部門長として、よく言えば部をとりまとめてるんですけど、平たく言うと、雑用係です(笑)何でもやります。ゴミ拾いからみんなのジュースを配るところから。

 

デザイナーや設計の方たちから作りたい商品案があがってきたら、社内で交渉して製作費を引っ張ってきたり。あとは、私も実際に現場で営業しているので、今市場はどんなものを必要としていて、みんなが求めているものは何を集めてきて、開発の方やデザイナーにフィードバックをしています。

 

みんなで形にしていきたいことを実現させるために、社内・社外の調整をしたり、トラブルがあれば検品も手伝いますし、もう本当に何でもやってます。

 

波止さんはどんなことを大切にしてお仕事されていますか?

 

一番大切なのは、仕事も全て人だと思っているので、「何のために仕事をしているのか」という「意味」を部下たちには常に考えてもらっています。

 

やりたいことを仕事にできている方ってごく一部しかいないと思うんですよ。でも、仕事ってやっていかないと生活もできないし、社会にも貢献できないし。人生の中の一番大きなステージだと思うんですよね。

その中で「しんどいし楽しくないことを、いかに楽しくできるか」ということを常に考えてます。どうせやるんだったら、みんなで楽しくやって、それがお客様やみんなの笑顔に繋がって給料もらえるって、良い社会循環だなと考えながら、私の部下にもそれにも感じてもらえるようにやっているつもりです(笑)

 

仕事の意味を感じることができた経験

その考え方に至った経緯やきっかけはあったりするんですか?

 

もともと僕は靴作りとは全く関係なく、大学で土木の勉強していました。高校の時に「橋を作りたい」という夢があって土木工学科に進学したんですけど、いざ大学に入って勉強してみると、僕は橋を作るのは向いてないとすぐ気づいて(笑)

 

橋をつくることは諦めてゼネコン企業に入社したんですけど、仕事でやっていたことは、どちらかというと嫌われるパターンが多い仕事なんですよね。例えば、車でどこかへ行ったとき、工事中で片側交互通行の道だったら「もう、急いでるのに」と思いますよね。

そういう類いの仕事だったので、苦情をもらうことも多かったんですけど、ある時ですね。僕が現場監督として鳥取で仕事をしていたとき、鳥取地震が起こったんです。地盤改良という地下を固める仕事をやっていたんですが、そのおかげで私達が工事していた200m区間だけは地盤沈下しなかったんですよ。なので、その沿道だけ家が1軒も壊れなかったんです。

工事中は文句ばかり言われていたのに、その後からはもう真逆。めちゃめちゃ感謝されて、休み時間になったらスイカやアイスクリームが出てくる。もう毎日お腹壊すんじゃないかって(笑)

 

それで、いつもみんなに嫌われて怒られてるけど、僕たちがやってる仕事は役に立っているというプライドに改めて気づかされて。「もっと楽しく仕事せんといかんな」と気づいてからは、やってることには全て意味があって、しんどいことにも意味があって、それによって笑顔になる人たちがいるということを感じながら仕事した方が楽しいんじゃないかと考え始めました。

 

仕事をしているその時に感じている意味と、未来で与えられる意味は、もしかしたら違うかもしれないという経験が、今を問うところに繋がっているんですね。

 

波止さんにとって仕事とは

最後に「波止さんにとって仕事とは」を聞かせてください!

 

「遊び」ですね。

仕事しないと生活できないし、仕事をすることは大人として僕は当たり前のことだと思っているので。だからこそ、仕事はやっぱり楽しくないと仕事じゃないと思うので、それを自分がどう楽しめるかっていうことだと思うんですよ。楽しめてるかどうかだと思うので、だから「遊び」。遊びの一部として仕事を楽しめたらいいなと思ってます。

 

今のウェルネス推進部の仕事はどう楽しんでいますか?

 

去年の夏にウェルネス推進部の直売所を作ったんですよね。直売所では、お客様と直接話をして販売することができます。

 

その一環で、お客様に手書きのお手紙を送ってみるチャレンジもしています。そしたら、たまに返事が返ってくるんです。おばあちゃんから「本当に履きやすく良かったわ」と言われると、「やっぱりやってて良かったな」って思うんですよね。

 

編集:森分志学

本記事は、岡山の高校生と企業の大人がつながるオンラインイベント「SDGsオンラインチャンネル You Make Okayama」での対談記録をもとに執筆しております。

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