得意な”声”を仕事に。ラジオパーソナリティでボイストレーナー・安井優子さん

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公開日 2024.09.27

やりたい色んなことに手を出して、コレという一つのものがなかなか見つからない。

進路を決めるリミットが近づくたびに「何か一つのことを極めた方が良いんじゃないか」「たった一つの正解がどこかにあるんじゃないか」と、どこかで思ってしまう。

 

そんな思いを抱えている人の心に、今回のお話はきっと刺さります。大学生のいぶきさんが伺ってきてくれた、声の仕事で多方面に活躍する安井優子(やすい ゆうこ)さんへのインタビューです。

 

だんだんと迷いを振り切っていくカッコイイ生き方を、どうぞ!

安井さんのお仕事

★安井 優子(やすい ゆうこ)さん

フリーランスとしてラジオパーソナリティを20年、ボイストレーナーを15年務める。RSK山陽放送の『あもーれ!マッタリーノ』等に出演。イベント司会やダンス講師などの経験も。

★聞き手:いぶきさん

岡山県内の大学に通う3回生で、就活ではマスコミ業界を志望中。やりたいことが多く、同時並行に悩むこともしばしば。

 

フリーランスで二つの柱

 

安井さんはフリーでいろんなお仕事をしていますよね。「コレが一番!」という肩書きはあるんですか?

 

「コレが一番!」というものはないんです。その時その時に一番合った肩書きをお伝えしているイメージですね。ラジオのリスナーさんから見たら、私はラジオパーソナリティでしょうし、TV放送を見る人にとってはリポーター、ボイストレーニングの生徒さんから見れば先生ですから。

 

ただ、「本職は何ですか?」と聞かれたときは、「ラジオパーソナリティとボイストレーナーです」と二つ言うようにしています。

色んな顔があるってカッコイイです。今はどんなお仕事をしていますか?

 

ラジオパーソナリティとしてRSK山陽放送のラジオ番組のMCとテレビ番組のナレーションをそれぞれ週1本担当していて、ボイストレーナーとしては岡山・香川の某音楽教室でボーカル講師、東京・大阪でもレッスンをしています。

 

定期の仕事以外にも、TVリポーターやイベント司会、曲の制作など随時いただいたお仕事に取り組んでいます。

ラジオパーソナリティに……

ボーカル講師に……

TVリポーターに……!

色んな仕事を並行していくのは、バランスをうまくとるのが大変ではないですか?

 

「今日どこに通う日だっけ?」ってわからなくなるときはありますね(笑)。でも、行く現場現場でやることに集中していくっていう感じなので、大丈夫です。ラジオなら今日の内容、テレビなら取材先でやるべきこと、講師なら生徒さんのコンディション。

 

もちろん、表情もそれに合わせて変わっていると思いますよ。多分、テレビに映る日の私は、目がカッと開いています(笑)。

(笑)。キャラクターを使い分けるイメージなんでしょうか?

 

いえ、そういう気は全くなくて、「あれも私、これも私」、根っこは切り離さないようにしています

 

その瞬間に大事なことは何か、スタッフや生徒さん、スポンサーや企画者の意図、聞き手の立場、それを考えながらそのときそのときの重心をどこに置くかを決めるんです。だから、やっていること自体は全部同じなんです。

なるほど〜!

 

本音を話すラジオパーソナリティ

RSKのラジオパーソナリティのお仕事について詳しく伺いたいです。

 

平日お昼のバラエティ番組「あも〜れ!マッタリーノ」の金曜を担当しているので、この日はひる0時10分から午後4時30まで4時間喋っています。

 

よ、4時間……!!

 

ちょっとずつ休憩があるんですよ。でも、やっぱり負荷やプレッシャーはありますね。相方がいてディレクターの方がいて。チームの仕事ですからね。

 

ラジオならではの特徴というのはあるんですか?

 

自由度の高さですね。テレビの仕事の場合は放送の段階で、原稿などオンエアするための素材が8割程度決まっているんです。料理でいえば、すでにメニューが決まっている状態。

 

でも、ラジオは素材の状態のまま運ばれてくるイメージです。どう調理するかをその場で自分で決めて喋っていく、いわば「シェフ」のような役割も担うことになりますね。

決まった原稿を読むよりも難しそうです。

 

うん、私も最初は全然できませんでした(笑)。正直、決められたことを喋りたかったです。

 

例えば番組内であるレストランの試食がでたとして、どう感想を言ったらいいのか悩みますよね。最初のうちは、緊張で味もよくわからないから自信が持てないし。「食感がシャキシャキって言ったらいいの?」、「味がしっかりしてると言っていいの?」、「いっそのこと答えを教えて〜〜〜〜!」と思いながら仕事をしていました。

 

そういう自由さを楽しめるようになったのは、ここ数年のことかもしれません。

今はどうですか?

 

今はこの瞬間に感じたこと、自分の中にあるものを生の言葉にすることを楽しめていますよ。

 

人って、「あ、今この人は楽しくもないのに笑っているな」ってわかっちゃうじゃないですか。それに気づいちゃうと聞き手もなんとなく居心地悪くなると思うんです。でも、私が本音で喋っている声であれば、リスナーさんもきっと居心地悪くはならないはず。

 

そういう「安井優子は本音で喋るパーソナリティだ」という信頼の積み重ねが、何か情報をお伝えしたときにも「安井が言うなら本当にそうだろう」と思っていただけることにもつながっていくはず。そう思って、毎週電波上で喋り散らかしてます(笑)。

私、「相手はこう言って欲しいんじゃないかな」って正解を探して話しちゃうところがあって。どうやって今の安井さんになれたのか、もっと知りたいです!

本音でしゃべる!安井さんのこれまで

好き&できるの自己探索

 

安井さんは小さいころどんな子どもだったんですか?はじめからアナウンサーを目指していたんですか?

 

小さい頃から人前に立って何かを表現するのは好きでしたけど、はじめからアナウンサーになりたいと思っていたわけではないんです。

 

私は幼稚園の頃からおっとりしていて他の子と比べて上手くできない事が多いと感じていた幼少期を過ごしました。だからかな、できないことをつらく感じる反面、人よりもできることや褒めてもらえることに対しての執着がすごく強い子だったと思います。

 

はじめに習い始めたバレエは特に上手いわけでもなかったんですが、小学4年生からミュージカルを始めたら、バレエをやっていた分だけ他の人よりも上手く出来ることがあって。それで楽しくなって、中1まで4年間夢中で続けていました。

ミュージカルの舞台での貴重な1枚。

中学に入ってからは?

 

合唱部と弓道部、そして放送委員会に入りました。この頃ですね、アナウンサーに憧れていたのは。でも、歌も踊りも音楽もお芝居も全部好きでやりたくて。でも、体は一つしかないからやりたいことを絞ったんです。隠れてダンスもしてましたが……(笑)。

 

歌も高1のときにのど自慢大会に出場して、「歌も行けるかな」とひそかに自信を持っていましたね。

そこから高校ではどの部活を?

 

すぐに放送部に入りました。

この時の放送部では大会で賞をもらい、全国大会にも出場できました。それで「アナウンス原稿を読むというのは得意らしい」と強い自信を持ったんです。

 

でも、ずっとダンスがやりたかったので高校3年間はがっつりダンス部に打ち込みました。部員1人から始めて卒業時には30人になりました。そこでダンスはやり切った感があり、大学では芝居をしようと、演技が学べて演技実習のある学部を選びました。

 

でも軽音楽もやりたくて(笑)。大学内外で芝居の公演に軽音のライブにと、二つに打ち込んでいました。でも結局、お芝居も軽音も「これでは食べていけないな」って思ってしまって。それで、就職活動の時期には目指すものを見失って、そのままフリーターになりました。

 

学生時代はずっとそうやって「好き」と「できる」を自己探求していたのだと思います。

私も好きを仕事にできたらと思うので、すごく参考になります。ちなみに、「これでは食べていけないな」とはどんなときに感じたのですか?

 

ダンスも芝居も軽音も、私よりすごい人がいっぱいいるのを目の当たりにすることになったんですよね。そうしたときに、心が折れちゃったんです。そこに食らいついていけるだけの根性が私にはなくて。

 

それで「私、好きだと思ってたけど、あれもダメだこれもダメだ」って思った中で、思い返して「一番できる」って思えたのが声のこと、アナウンサー、原稿を読む仕事だったんです。それで「これしか方法がない!」と、RSKのアナウンススクールに通いはじめました。

 

それで、1年くらい通ったときにある番組のパーソナリティのオーディションがあり、それに運良く合格して今の道に入ったんです。

色んなことを試して、辿り着いたのがアナウンサーのお仕事だったんですね……!

 

二つの柱、「本職は何なの?」

 

RSKのラジオでアシスタントを始めてからはどうでしたか?

 

2本の番組に出演させてもらっていましたが、全然うまくできませんでした。20代の半ばまでは、ずーっと神経を張り詰め続けていた気がします。

 

というのも、私がご一緒していたのはRSKを代表するアナウンサーのお二人で、どちらも全く異なるスタイルを持ってらっしゃったんです。片や情報への意識が非常に繊細で、「いらない相づちは雑音だよ」と厳しくご指摘くださる方で、片や「なんでも打ち返すから怖がらず自由にしゃべったらいい」とおっしゃる方。今思えばとてもありがたいですけど、当時は真逆のことを言われているようで「一体何を喋ったらいいんだろう……」といった感じで(笑)。

 

「今必要なのは楽しくリズミカルなコメント?」「これはボケなきゃいけないところ?」と、今自分に求められていることを追い続ける毎日で、本当に苦しくて悩みました。

 

しかも私はフリーランス。春秋の番組改編期は「契約を切られてしまうんじゃないか」といつも不安で、胃薬を常飲してました。

どうやってその苦しさを乗り越えたのですか?

 

当時意識していたわけではないんですが、学生時代から私はずっと二つの柱を持ってきました。片方がうまくいかないとき、もう一方に打ち込むことを充実させて、調子を取り戻してまた戻る。だからその時も「もしも今のラジオの仕事がなくなっても大丈夫なように、もう一本柱が欲しい」と思ったんです。

 

それでボーカル講師を始めたんですね。

ボーカル講師としての1枚。

ええ、でもやっぱり「自分は逃げてるんじゃないか。中途半端なんじゃないか。」という感覚がどこかにあって、引け目を感じてしまっていました。

 

そんなある時、とある方から安井さんはどちらが本職なんですか?」と聞かれたんです。私はそれに対してハッキリと答えられなくて……。

……。

 

そうやって心にモヤモヤを残したまま過ごしていたんですけど、神奈川県にある川崎市岡本太郎美術館に行って、救われたんです。

 

何かと出会ったんですか?

 

はい。岡本太郎さんは絵も彫刻もして、テレビでクイズ番組にも出てしまうようなバイタリティに溢れた方だっただけに、「あなたは何なんだ、全部中途半端じゃないか」って批難されたことがあったらしいんです。でも、岡本さんはそれに対して「本職?人間だ」って言い放ったって、大きく書いてあって……。

 

それを見て、号泣しました。

ああ、それでいいんだ、何か一つを極めなくてもいいんだ」って思えて。

 

それからですね、「どっちかがうまくいかないときはもう一方を頑張るバネにすればいい。そうやって両方極めてやればいいんだ!」と振り切れたのは。

わぁ……、そうして今の安井さんに近づいていったんですね。

 

正解探しから自分の本音へ

気になっているのですが、安井さんはどうやって本音で喋れるようになったのですか?

 

正解を探しながら話すのは息が詰まりそうで、このままでは仕事を続けていけないなとずっと感じてはいました。だから、ある時「人が何を求めているかではなく、自分が本当に思っていることを出してみよう」と思ったんです。

 

最初はめちゃくちゃ勇気がいりましたよ(笑)。突拍子がなくても、拙くてもいいから今自分がどう思ったかを素直に言ってみるって。

 

でも、そうしてみて良かったです。例えば、楽しいイベント告知でも、楽しい中にある努力に触れたいと思ったら「どんなことがしんどかったですか?」と聞いてみる。そうしたら今までよりずっと相手の人柄に近づけて、結果イベントへの興味が高まるような内容になったんです。

 

素直に「聞きたいことを聞いてみる」「伝えたいことを伝えてみる」を繰り返すことで、「この質問で合ってるかな」とは、だんだん思わなくなっていきました

そうやって変わっていくことで、周囲の反応も変わりましたか?

 

変わりましたね。以前はスタッフさんにも「優子ちゃんって誰にでもいい顔するよね」って悪気なく言われることもあって、「確かにな」と思ってたんです。

 

でも、最近の私は、相方が番組中にボケても自分が面白くないなと思ったら笑いません(ちゃんとツッコミは入れますが)。この間来たゲストの方にも「ホントあんた笑わないよね、フツーなら笑うとこだよ」って言われちゃいました(笑)。

 

けど、合わせて笑ってもリスナーさんは笑えませんよね。本音の対応の方が、リスナーさんも本当に笑えるはずですから。今は私自身、すごく楽しいですよ。

勇気を出して、素直に言ってみる……。ありがとうございます、私もやってみます!

うらじゃを心から楽しむ安井さん、ステキです!

悩める若者へのメッセージ

安井さんから、若者へアドバイスをお願いします!

 

私は好きなことや自分が得意なことにフォーカスして取り組んできた人間です。それはすごく自分を掘り下げるし、人生を豊かにするのでおすすめです。

 

でも、自分は気が進まないけど人から頼まれたことをやってみるのも大事です

たとえば私は社会人になってダンスを続けていたら、ダンス講師を頼まれたことがあったんです。「私が教えるなんて」と思いましたが、やってみたら私が元々苦手だったからこそダンスが苦手な方に教えるのには向いてるのだと気づきました。自分では向いてないと思っていても、それが社会や誰かの役に立つことがあります。

 

やったことは全部無駄にならないです。今結論が出てなくても、何十年後かに、「これをやってたのはこのためだったんだ」っていうことが起きたりもするから、怖がらずにどんどんやったらいいと思いますよ。

私も一つひとつ挑戦してみようと思います!前向きになれるお話、本当にありがとうございました!!

インタビュー後、スタジオ収録現場を見学させてもらいました♪

(編集:北原 泰幸)

 

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