やりたい色んなことに手を出して、コレという一つのものがなかなか見つからない。
進路を決めるリミットが近づくたびに「何か一つのことを極めた方が良いんじゃないか」「たった一つの正解がどこかにあるんじゃないか」と、どこかで思ってしまう。
そんな思いを抱えている人の心に、今回のお話はきっと刺さります。大学生のいぶきさんが伺ってきてくれた、声の仕事で多方面に活躍する安井優子(やすい ゆうこ)さんへのインタビューです。
だんだんと迷いを振り切っていくカッコイイ生き方を、どうぞ!
目次
安井さんのお仕事
★安井 優子(やすい ゆうこ)さん
★聞き手:いぶきさん
フリーランスで二つの柱
ただ、「本職は何ですか?」と聞かれたときは、「ラジオパーソナリティとボイストレーナーです」と二つ言うようにしています。
定期の仕事以外にも、TVリポーターやイベント司会、曲の制作など随時いただいたお仕事に取り組んでいます。
もちろん、表情もそれに合わせて変わっていると思いますよ。多分、テレビに映る日の私は、目がカッと開いています(笑)。
その瞬間に大事なことは何か、スタッフや生徒さん、スポンサーや企画者の意図、聞き手の立場、それを考えながらそのときそのときの重心をどこに置くかを決めるんです。だから、やっていること自体は全部同じなんです。
本音を話すラジオパーソナリティ
でも、ラジオは素材の状態のまま運ばれてくるイメージです。どう調理するかをその場で自分で決めて喋っていく、いわば「シェフ」のような役割も担うことになりますね。
例えば番組内であるレストランの試食がでたとして、どう感想を言ったらいいのか悩みますよね。最初のうちは、緊張で味もよくわからないから自信が持てないし。「食感がシャキシャキって言ったらいいの?」、「味がしっかりしてると言っていいの?」、「いっそのこと答えを教えて〜〜〜〜!」と思いながら仕事をしていました。
そういう自由さを楽しめるようになったのは、ここ数年のことかもしれません。
人って、「あ、今この人は楽しくもないのに笑っているな」ってわかっちゃうじゃないですか。それに気づいちゃうと聞き手もなんとなく居心地悪くなると思うんです。でも、私が本音で喋っている声であれば、リスナーさんもきっと居心地悪くはならないはず。
そういう「安井優子は本音で喋るパーソナリティだ」という信頼の積み重ねが、何か情報をお伝えしたときにも「安井が言うなら本当にそうだろう」と思っていただけることにもつながっていくはず。そう思って、毎週電波上で喋り散らかしてます(笑)。
本音でしゃべる!安井さんのこれまで
好き&できるの自己探索
私は幼稚園の頃からおっとりしていて、他の子と比べて上手くできない事が多いと感じていた幼少期を過ごしました。だからかな、できないことをつらく感じる反面、人よりもできることや褒めてもらえることに対しての執着がすごく強い子だったと思います。
はじめに習い始めたバレエは特に上手いわけでもなかったんですが、小学4年生からミュージカルを始めたら、バレエをやっていた分だけ他の人よりも上手く出来ることがあって。それで楽しくなって、中1まで4年間夢中で続けていました。
歌も高1のときにのど自慢大会に出場して、「歌も行けるかな」とひそかに自信を持っていましたね。
この時の放送部では大会で賞をもらい、全国大会にも出場できました。それで「アナウンス原稿を読むというのは得意らしい」と強い自信を持ったんです。
でも、ずっとダンスがやりたかったので高校3年間はがっつりダンス部にも打ち込みました。部員1人から始めて卒業時には30人になりました。そこでダンスはやり切った感があり、大学では芝居をしようと、演技が学べて演技実習のある学部を選びました。
でも軽音楽もやりたくて(笑)。大学内外で芝居の公演に軽音のライブにと、二つに打ち込んでいました。でも結局、お芝居も軽音も「これでは食べていけないな」って思ってしまって。それで、就職活動の時期には目指すものを見失って、そのままフリーターになりました。
学生時代はずっとそうやって「好き」と「できる」を自己探求していたのだと思います。
それで「私、好きだと思ってたけど、あれもダメだこれもダメだ」って思った中で、思い返して「一番できる」って思えたのが声のこと、アナウンサー、原稿を読む仕事だったんです。それで「これしか方法がない!」と、RSKのアナウンススクールに通いはじめました。
それで、1年くらい通ったときにある番組のパーソナリティのオーディションがあり、それに運良く合格して今の道に入ったんです。
二つの柱、「本職は何なの?」
というのも、私がご一緒していたのはRSKを代表するアナウンサーのお二人で、どちらも全く異なるスタイルを持ってらっしゃったんです。片や情報への意識が非常に繊細で、「いらない相づちは雑音だよ」と厳しくご指摘くださる方で、片や「なんでも打ち返すから怖がらず自由にしゃべったらいい」とおっしゃる方。今思えばとてもありがたいですけど、当時は真逆のことを言われているようで「一体何を喋ったらいいんだろう……」といった感じで(笑)。
「今必要なのは楽しくリズミカルなコメント?」「これはボケなきゃいけないところ?」と、今自分に求められていることを追い続ける毎日で、本当に苦しくて悩みました。
しかも私はフリーランス。春秋の番組改編期は「契約を切られてしまうんじゃないか」といつも不安で、胃薬を常飲してました。
そんなある時、とある方から「安井さんはどちらが本職なんですか?」と聞かれたんです。私はそれに対してハッキリと答えられなくて……。
それを見て、号泣しました。
「ああ、それでいいんだ、何か一つを極めなくてもいいんだ」って思えて。
それからですね、「どっちかがうまくいかないときはもう一方を頑張るバネにすればいい。そうやって両方極めてやればいいんだ!」と振り切れたのは。
正解探しから自分の本音へ
最初はめちゃくちゃ勇気がいりましたよ(笑)。突拍子がなくても、拙くてもいいから今自分がどう思ったかを素直に言ってみるって。
でも、そうしてみて良かったです。例えば、楽しいイベント告知でも、楽しい中にある努力に触れたいと思ったら「どんなことがしんどかったですか?」と聞いてみる。そうしたら今までよりずっと相手の人柄に近づけて、結果イベントへの興味が高まるような内容になったんです。
素直に「聞きたいことを聞いてみる」「伝えたいことを伝えてみる」を繰り返すことで、「この質問で合ってるかな」とは、だんだん思わなくなっていきました。
でも、最近の私は、相方が番組中にボケても自分が面白くないなと思ったら笑いません(ちゃんとツッコミは入れますが)。この間来たゲストの方にも「ホントあんた笑わないよね、フツーなら笑うとこだよ」って言われちゃいました(笑)。
けど、合わせて笑ってもリスナーさんは笑えませんよね。本音の対応の方が、リスナーさんも本当に笑えるはずですから。今は私自身、すごく楽しいですよ。
悩める若者へのメッセージ
でも、自分は気が進まないけど人から頼まれたことをやってみるのも大事です。
たとえば私は社会人になってダンスを続けていたら、ダンス講師を頼まれたことがあったんです。「私が教えるなんて」と思いましたが、やってみたら私が元々苦手だったからこそダンスが苦手な方に教えるのには向いてるのだと気づきました。自分では向いてないと思っていても、それが社会や誰かの役に立つことがあります。
やったことは全部無駄にならないです。今結論が出てなくても、何十年後かに、「これをやってたのはこのためだったんだ」っていうことが起きたりもするから、怖がらずにどんどんやったらいいと思いますよ。
(編集:北原 泰幸)