漫画やドラマの主人公に憧れて将来の夢を考えている人も多いはず。でも、漫画と現実ってギャップはないのか気になりますよね。今回は赤磐市消防本部で消防士として20年以上働いている岡邦彦(おかくにひこ)さんの生き方に触れていきます!
目次
岡さんのお仕事
消防・救急現場の後方支援
ーー現在の岡さんは消防署でどんな仕事をされていますか?
ーーいろいろな業務をされているんですね!具体的にはどんな準備をするんですか?
また、大きな仕事に「救急車」の購入があります。どんな仕様のものが良いかを決めて市の予算で入札にかけてもらい購入し、普段の整備も行います。 実際の現場の業務を「この時はどうだったんだろうか?」と振り返り、現場の意見を反映しながら装備品を整えます。いい現場活動をするためには、やはり装備品は大切です。
ーーなるほど!警防課には何人ぐらい職員さんがいらっしゃるんですか?
他にも現場の仕事と兼務の職員が3人いて、負担の少ない仕事を彼らにもお願いしています。
長年の現場経験から警備課へ
ーー火災や救急などの現場には以前は行っていたんですか?
ーー裏方になったり現場になったりするんですね!どちらの方が大変ですか?
今は平日週5日勤務をしていますが、現場仕事では朝出勤したら次の日の朝までは帰れません。その分日中休みが多いので、昔はそちらの方がいいかなと思ってました。でも、毎日勤務になったらなったで、規則正しい生活ができますし、夜中に起こされることがないので体がすごく楽になりました。
それでもトレーニングは欠かさない
ーー裏から支える仕事になっても続けていることはありますか?
ーーすごい、やっぱり現場に出なくても鍛え続けているんですね!
現場にいるときはトレーニングの時間があったので、勤務中に走ったり、非番の日に走ったりしていたんですけどね。毎日勤務になって、家には子どもがいるので、帰ったらご飯やお風呂の時間で自分のことができないので、唯一時間があるのがこの朝なんです。 最初は5時半ぐらいに起きていたんですけど、だんだん朝の時間に余裕を持ちたくなってきて、それで4時半になりましたね。もう3年続いていますね。
ーー長く続けるヒケツはありますか?
それと、僕は休みの日はトレーニングしないと決めています。楽しんでやることでしょうかね。消防は体を動かすのが好きな人が多いです。
岡さんの脳内
脳内グラフとは、岡さんの頭の中を垣間見て、その割合を数値化したもの。どんなことを日々考えているのか聞いてみたいと思います。
仕事 50%
子ども 10%
でも、子どもといるとお風呂の時間やご飯の時間、知らず知らずのうちに子どもとの時間になっていきますよね。
他にも自転車に乗って散歩したり、キャンプに連れて行ったりすることもありますね。最近はコロナもあってあまり行けていないですけど、イカを釣って食べたり、テントで泊まったりしましたね。やっぱり喜びますよ。
お酒 10%
ただ、毎日飲んでいたら体に良くないので、翌日が仕事の日はお酒を飲まないことにしています。朝早く起きて運動しないといけませんし。
何も考えない時間 10%
自分のこと 20%
畑しようかなと思えば畑をして、キャンプの焚き火のために薪割りをしたくなったら木を切って。最近ではNHKの番組で「台湾カステラ」をつくっていたので、子どもに手伝ってもらって作りました。全然ふくらまずに失敗しましたが、それなりに美味しかったです(笑)
岡さんのこれまで
第1章 目立ちたがり屋でサッカーに打ち込む
僕は小さい頃から体を動かすのが好きで、負けず嫌いでした。小5からはサッカーをはじめて、高校まで毎日サッカーばかりしていました。とにかく目立ちたがり屋で、運動会の応援団長なんかもしていました。
第2章 漫画『め組の大吾』に憧れて消防士を目指す
中学校の頃から、消防士を目指しはじめました。きっかけははっきりは覚えていないですが、おそらくその頃に読んだ『めぐみの大吾』という漫画で消防士に憧れたのだと思います。
中学校の時に仲の良い先生に「消防士になりたいんだけど、高校どこ行ったらいい?」ときいたら、「公務員試験はそんなに専門的じゃないのでどこに行ってもいい」という話だったので、友達がみんな行く工業高校に進学を決めました。
高3の時には先生に「勉強も頑張ったんだから大学行け」と言われたんですが、消防に入ると決めていたのでそのまま消防士の地方公務員試験を受けることにしました。
第3章 消防士の採用試験の実際
消防の新規採用募集は自治体毎に行われますが、年によって募集がない場合もあるんです。僕は和気町の出身ですが、和気町を管轄する東備消防は僕が高校を卒業する年には新規採用の募集をしていませんでした。当時あった岡山県内14の消防本部のうち、採用枠があったのは8つのみです。
僕は消防の仕事をすることが目標で、「どこで働くか」に関してはあまり重視していませんでしたので、岡山市と赤磐市を受験しました。
試験には体力テストがあり、300m走や腕立て、腹筋、懸垂、それから土のう運びなんかもありました。20キロもある土のうを担いで走るんです。今のテスト試験ではもうないかもしれません。
現場では分厚い防火服を着て、ボンベを担いで、放水のホースも持って走ります。それに救急でも人を何人かで家の中から担いで救出しないといけないので・・・やっぱり重いものを持つ仕事なんです。
第4章 消防士生活、憧れと現実のギャップ
無事に赤磐市の消防職員採用試験に受かった僕は、ついに憧れの消防士の仕事をはじめました。しかし、漫画や憧れの世界とのギャップはやはりありました。
例えば、入ったばかりの頃大変だったのがご飯担当です。消防士は泊まり込みの勤務なので、職員がご飯を作るんです。僕は料理のできない新人だったので、毎回苦労しました。
また、どこの職場でもあることですが、人間関係の摩擦みたいなものもありました。僕自身は直接大変なことはありませんでしたが。そういう漫画には描かれないキレイではない部分も仕事の中で経験しました。
ただ、ちょいちょい嫌なことがあっても、僕は引きずることがあまりない性格だったので次の日になったら忘れてしまってました(笑)
第5章 岡山市に行くか、赤磐市に残るか
あまり引きずることのない僕も、これまでのキャリアの中で悩んだことが二度ほどありました。そのうちの一度目は、赤磐市に残るか岡山市に異動するか選択を迫られた時です。
2007年に赤磐市消防本部の管轄だった瀬戸町が岡山市に合併されることになりました。そのためおおむね10人ほど岡山市に消防職員がうつる必要があり、職員に希望調査が行われたんです。僕は赤磐市の出身ではなかったですし、岡山市の方が規模が大きい分だけ給与面や仕事の装備面などでも待遇が良いこともあり、後頭部にハゲができるほど悩みました。
でも、自分の面倒を見てくれた先輩が「絶対に行くなよ!」と声をかけてくれたこと、仲の良かった後輩が「僕は何かの縁でこの赤磐市の消防本部に入ったんだから、自分は行きません」と言ったのを聞いたことで、そのまま残ることに決めました。
「僕も何かの縁でこの赤磐市に入ったんだ、ここで働こう」そう思えたら救われた気がして。最初は「絶対にここで」と思って来た赤磐ではなかったですが、赤磐の消防の一員として働いてきて本当に良かったと今は思えています。赤磐の職場の人達が人間的にも好きなので。
第6章 「自分が正しい」から「そうではないかもしれない」へ
消防は縦社会です。先輩にいじられたり、遊びに誘ってもらったりして過ごしていきます。ただ、僕は5年目から10年目の間ぐらいに慣れてきて、先輩に怒られないようになってきました。後輩は先輩の意見に強く反対しませんので、自分の言うことが自然と否定されなくなります。
この頃、僕は自分を「最強」だと思ってしまっていました。「自分の考えはいつも正しい」そう思うようになっていたんです。
でも、立場が変わり外部に出たり他の組織の人と関わるような仕事をしはじめて、少しずつそういう自分に疑問がわいてきました。そして、救急救命士の資格を取るために九州に7ヶ月間勉強に行ったときに大きく意識が変わります。「自分の考えは正解ではないかもしれない。別の見方をしたらどうなのかな」と自分を客観的に見られるようになりました。
後輩の口からも「岡さん、最近怒らんようになったな」という言葉が聞こえてきました。自分は頭が固いので、働く上で今も「自分が正しい」と思い込まないようにすることを大切にしています。
第7章 「心がない人間」になっていないか
消防に入ってから10年ほどが経った頃、二度目の悩みがやってきます。
消防士は、人が助からない現場もたくさん経験する仕事です。ただ、そんなときでも僕たちには次の仕事があって、ご飯も食べるわけです。でも、そうして心が揺れずにご飯を食べてしまえるようになったことで「自分はだんだんと心がない人間になってしまっているんじゃないか」と怖くなってきてしまったんです。
そうした頃、実のおばあちゃんが亡くなりました。自分の家族だからか、ちゃんと涙が出て。悲しいという気持ちが湧いてきました。「人が亡くなって、自分はちゃんと悲しいんだ」と感じられたことで、悩みは消えていきました。
自分の中では自然に仕事とプライベートの切り替えをしているんだなと納得できたんだと思います。
第8章 消防のやりがいと「行ったところで頑張る」
消防のやりがいは、漫画で見て憧れたものと変わりませんでした。
元消防職員の方が家で倒れて、20分ぐらい心肺停止の状態になってしまったことがありました。僕ら救急隊が駆けつけAEDをうち、病院に搬送。処置の結果、救急車の中でその方は心臓が動き出し、呼吸も戻りました。今は社会復帰されて、元気に暮らしていらっしゃいます。
人を助けて、今も元気にその方が散歩している姿をみかけるときに感じる思い。やはりそれが一番の消防のやりがいです。
今、僕は現場の仕事ではありません。ですが「現場じゃなければダメだ!」とも「ずっと警防課がいい!」とも思いません。予定を立てるのも好きじゃないし、あまり考える方でもありません。家では思いついたこと思いついたようにして、仕事では「行ったところで頑張る」ことが大切だと、僕は思っています。
(編集:北原泰幸)