ライフパーク倉敷科学センターの学芸員・三島さんに聞いた”学生時代、僕らは何をすべきか”

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公開日 2024.01.16

「好きなことはある。けど、大学の学部や学科選びをそれでしていいのかな?それで本当に仕事に就けるのかな?」

 

進路選択で突き当たる、自分と社会とのぶつかり合い。今回登場するモリモトさんも、進路を前にそんな悩みを抱いた一人です。自分の過去の体験から「天文」を仕事にすることを考え始め、今回プラネタリウムで働く学芸員の三島さんに思いきって話を聞きに行ってきました。

 

そこで出会ったのは「大学の学部や資格を取る以外にすべきことがある」という驚きの言葉。

一体、どういうこと!?

 

登場人物紹介

★モリモトさん
高校2年生。演劇部所属。大学受験を前に、小さい頃から”宇宙”の話が大好きだったことを思い出した。今は天文台やプラネタリウムの科学館で働きたいと考えている。

 

★三島 和久(みしま かずひさ)さん
ライフパーク倉敷科学センターの学芸員さん。出身は神奈川県平塚市。新卒で現在の館に配属になって以降、この道30年という大ベテラン。

三島さんはどうやって天文の学芸員になったのか

天文を仕事にしたい高校生、衝撃の実例に出会う

三島さん、今日はよろしくお願いします!実は自分、将来は天文台やプラネタリウムのある博物館で学芸員として働きたいなという夢があるんです。これから大学に行く前に、学芸員さんの仕事がどんなもので、どんなやりがいがあるのか知りたいなと思って今日は話を伺いにきました。

モリモトさん、ドキドキしながら三島さんにごあいさつ。

よろしくお願いします。天文に興味を持ってくれているんだね。最近は小説やマンガ、アニメでも天文を扱うものが増えてきたけど、モリモトさんはどうして天文学に興味を持ったの?

きっかけは、ひいおじいちゃんの家にたくさんあった宇宙の本なんです。「わぁ、地球より大きなものがあるんだ」ってびっくりして、よく眺めていました。

なるほど。

 

最近まで演劇に夢中で天体のことは忘れていたんですけど、大学進学にあたって「何を学ぶか」を真剣に考える必要がでてきて……。そんなとき、「あ、私は宇宙のことが好きだったな」と思い出して、天文学を学んで学芸員資格を取ろうと考え始めたんです。

資格を取って、就職のチャンスを掴みたい。天文を仕事にしたいんだね。

 

はい。

 

そうか……、頼って訪ねて来てくれてありがとう。でも、ごめんなさい。僕は残念ながらモリモトさんの求めているアドバイスはあまりできないかもしれません……!

 

えっ!?

 

まず、『学芸員』というのは博物館で仕事をするスペシャリストとしての国家資格なんだけど、博物館で仕事をする上で必ずしも必要ではないんです。そして、僕自身も大学では天文学を学んでなくて、大学で学芸員資格を取って就職したわけではないんです。

ええーーーーー!?

 

期待に添えなくてごめんね。もちろん専門の勉強はした方がいいし、学芸員の資格を持っていた方がいいんですよ。でも、学芸員の資格保持者はとても多いわりに、理系の博物館の求人数はごくごく少数。だから、資格を持っていても博物館の仕事に就くチャンスを掴める人はほんの一握りなんです。
じゃ、じゃあ、三島さんはどうやって今の仕事に就いたんですか??

 

僕は小さい頃から大学までずっと天体観測が趣味の、いわゆる”アマチュア畑”出身です。その活動をきっかけに声がかかり、倉敷科学センターに勤めることになったんです。

 

裏道っぽく聞こえるかもしれないけど、この仕事に就くにはかなり効率的なことをしていたのかもなと思いますよ。意図していたわけじゃないんだけどね。

三島さんが倉敷科学センターに来るまでのお話、くわしく聞かせてください!

 

「好き」が仕事につながったキャリア

僕も天文に興味を持ったのはモリモトさんと同じく、小さい頃の本がきっかけです。小2の頃にプラネタリウムと出会って夢中になり、足しげく博物館に通うようになりました。

 

長年通い詰めるうちにだんだん学芸員さんとも仲良くなって、中学生のときには「博物館の仕事を手伝ってみない?」と声をかけられるまでになっていました(笑)。

 

そこで天体の観測資料をまとめる仕事をしたり、高校生のときには天文展示のパソコンプログラムにも挑戦させてもらったり、まさに現在の業務につながるような経験を積ませてもらえたんです。

すごい!そんな体験をしたら、学芸員を目指しますよね。

 

いや、博物館の仕事も天文の世界もおもしろかったけど、そこを目指したいとは考えなかったんです。

 

え、どうしてですか?

 

当時から、博物館とかプラネタリウムの仕事に就ける人は本当に限られた数だったからです。全国で年に数人募集が行われればいい方っていうぐらい少なくて。

 

だから、「この仕事に就けるのはものすごく高学歴で優秀な人だけだろうし、自分がそこを目指したら就職できなくなっちゃうかもしれない」と思ったんです。

 

それなら手に職をつけられそうな学問がいいだろうと、工学部光工学科を選択しました。当時は、レーザーなどの光分野の技術が社会を大きく変えていた時代だったので、需要があるだろうと。

天文は?

 

大学の天文サークルで続けていました。サークルを重視して大学を選んだわけではなかったのですが、幸いなことに大学天文連盟に加盟するとても活発で規模の大きいサークルだったので、いろんな大学の仲間とつながり、毎週のように集まって活動をするようになりました。

 

ストイックにいろんな研究をしている仲間がいましたよ。流れ星、ほうき星、変光星……。全国のアマチュア天文家の研究発表会にも出張っていって人脈を深めたんです。

それが結果的に仕事につながったんですか。

 

そう。「神奈川の平塚に三島っていうおもしろいヤツがいる」って見込んでもらっていたみたいで、「実は倉敷でプラネタリウムのスタッフ募集があるんだけど、今年卒業なら受けてみない?」と関係者づてに声がかかったんです

 

それが就職活動をしていた4年生の5月、ちょうど企業から内定をもらえそうな頃でした。それで、岡山に来て試験を受けたら、受かっちゃった(笑)。

 

それで今まで倉敷市の職員として、倉敷科学センターに勤めているというわけなんです。学芸員資格は後から勤めながら取りました。

スゴイ……好きで築いた経験や人脈が仕事につながるなんて、そんなこと本当にあるんですね。

 

すごくラッキーだったと思います。大学で専門の勉強に打ち込んで資格をとっても、仕事につながるケースとつながらないケースがあって、つながらないケースの方がむしろ多いかもしれない。

 

そんな中、僕は中高と博物館のボランティアで仕事のスキルを得て、大学生時代に人脈を深めた結果、図らずもこの仕事に就けたわけですからね。

 

この経験からモリモトさんに伝えられるのは、もしある分野に夢を持つのであれば、大学の学びや資格に加えてもっと幅広く、仕事のスキルを実地で学んだりその分野の人達と人脈を深める努力をしたりするのも有効かもしれないということかな。

なるほどなぁ……、心にしっくり来ました!

倉敷科学センター三島さんの学芸員のお仕事

それも学芸員の仕事なの!?

プラネタリウムの解説中の三島さん。こんな仕事のイメージだけど・・・?

三島さんのお仕事についても教えていただけますか?さきほど「倉敷市の職員」だとおっしゃってましたよね。

そうそう、公務員なんですよ。僕は倉敷市の職員として採用されて倉敷科学センターに配属されています。だから、市役所と同じように朝8時出勤午後5時15分退勤。

 

業務も役所の人がやっているようなことを一部ですけどやっています。僕の場合は広報も担っていてメディアへの情報発信をを行ったり、ネットの広報戦略を考えたり。同僚は経理をしていますよ。

け、経理!?お金のやり取りを記録する仕事ですよね?それを学芸員が?

 

博物館として学芸員を雇ったあと、そこでどんな仕事をさせるかはその職場次第なんです。

 

もちろんプラネタリウムの仕事もしていますよ。毎日の投影や、小学校の子達にみせる学習投影、夜まで館に残って天体の観望会・天体観測を実施する日もあります。それから展示の手入れもするし、機器の不調を直すのも仕事のうちですね。望遠鏡が壊れたり、映像プロジェクターが映らなくなったり、施設を維持するために色々起こります(笑)。

 

それにプラネタリウムの番組の企画をしたり、脚本を書いたり……。

お、思ってたより幅が広いです。

 

そうですね。プラネタリウムに限らず学芸員の仕事って、専門のエキスパートであることはもちろん、DIYの知識、電気工作、写真や映像や印刷の技術、パソコンプログラミング、デザイン、イベント企画やコンテンツ制作のディレクションなどなど、いろんな分野をそつなくこなせる努力をしないと良い仕事はできないということを日々痛感しています。

 

モリモトさんは機械いじりやプログラミングは好きですか?

あ、機械は好きです。プログラミングも簡単なゲームならパソコンで作れます。

 

すごくいいですね。望遠鏡の制御なんかもコンピュータのプログラムで行うから、プログラミングの知識があるかないかで大きな差がでますからね。

 

よかったぁ。他にはどんなものが求められますか?

 

コミュニケーション能力はすごく大事ですね。そこはどう?

 

……実は人見知りが激しくて、知らない大人の人に話しかけるのは苦手です。

 

学生だとそういう反応になりますよね、大丈夫。でも、天文の世界って「星と向き合って、機械を操作していればいいんでしょ?人付き合いが苦手でもできそう」と思われがちなんだけど、実は真逆だということは知っておいてほしいんです。

 

来館した人達にどう専門的な話の魅力を伝えられるか、館での時間を「おもしろかった」「来てよかった」と感じてもらえるかが大切だから、プラネタリウムや天文台で働く私たちは常に説明の仕方や話術を磨く努力をしています。

 

確か、演劇をしているんだよね?

はい。

 

それならきっと、その部分はすごく期待されるし、活かせる部分があると思いますよ。僕は20代の頃、テレビドラマや映画、アニメのようなエンターテイメントを観て、何をどう話したら聞き手に響くか、独学ながらすごく研究してました。

演劇の経験も、分野が違っても活かせるんですね!

 

倉敷市の科学・天文文化を育む大きな仕事 

 これまでのお仕事の中で特に印象に残っているものはありますか?

 

うーん、たとえばプラネタリウムや展示室のリニューアルは大仕事だったのでよく覚えていますね。僕たちが陣頭指揮をとってどんなものにするのかアイディアを出して関係する企業の人と話しながら決めていくんですけど、非常に緊張感のある仕事でした。

すごくやりがいがありそう……!

 

うん。だけど、リニューアルってものすごくお金のかかることなんですよ。展示室で3億円、プラネタリウムには4億8千万円ものお金が動きました。

 

お、億ですか!?

 

それだけのコストをかけた結果、おもしろいものになるかつまらないものになるかが僕らのアイディア次第で変わってくる。

 

責任重大ですね……。

 

そう。だから仕事って、「楽しい」とか「やりがい」といった枠に収まり切らない大きな責任を背負うことになるんだということも覚えておいてください。

 

日本中で空前の宇宙ブームを巻き起こした小惑星探査機「はやぶさ」の帰還カプセル巡回展のときも大変でした。

 

小惑星の土を地球に届けたカプセルの実物を全国の科学館で順番に展示していったんですけど、すごい人気だったんです。一番多かった広島県呉市の会場にはなんと4万人もの人が来たぐらいですから。

規模すごい!

 

でも、倉敷で開催できるのが1年半後になってしまったんです。いくら大ブームでも、1年半経ったらどうしたって人気は尻すぼみになってきます。

 

そこで、逆に10ヶ月の準備期間があると考え「倉敷の巡回展をいかに知って期待してもらえるか、付加価値を与えられるか」と頭を切り替えて、その作戦作りに注力することにしたんです。立てた目標は、全国平均超えの来館者数1万5千人。科学館として前例のない大規模イベントでしたので、達成に向けて手を尽くす、とてもプレッシャーの大きい仕事でした。

 

プロジェクトに携わった大物の先生たち7人の先生を招いて連続講演会もしましたし、「はやぶさ」の興味深い資料をJAXAからお借りして公開する特別展も平行企画したり、「はやぶさ」をテーマにしたプラネタリウム番組も上映して皆さんの期待感も高めました。

 

さらにプラネタリウム投映の最後に、”はやぶさの父”である川口先生の倉敷展開催に寄せたビデオメッセージを特別に流して……。もう、総力戦です。

け、結果は?

 

なんと2万5千人を超える方々が来てくださいました。この数字は先の呉市に次ぐ、全国2位だったんですよ。

 

すごい、大成功!

 

想定以上の大混雑で至らないところも多々あった中、他施設の職員のみなさんに助けてもらったおかげで完遂することができました。

はやぶさ巡回展で囲み取材を受ける三島さん。

そんな大きな仕事も手がけるなかで、これまで大切にしてきたことはありますか?

 

天文や宇宙分野のいろんな魅力を倉敷にどうやって根付かせるか」「科学や天文を好きになってくれる子どもたちや学生さんをどうサポートするか」ということですね。

倉敷の学校の先生や、天文ボランティアの方々、全国の専門家の方々、いろいろな人脈をつくりながら取り組んできたことで、最近はようやく「できてきたのかもしれない」と感じられるようになってきました。

どんなところでそれを感じるのですか?

 

たとえば、先生をお招きした講演会でも感じますね。以前より楽しみにして参加してくださる人がずっと増えました。それに、「子どもの頃、このプラネタリウムに通ってました」とお子さんを連れて声をかけてくださるお父さんお母さんもいて……やっぱりうれしいですよね。

うわー、めっちゃいいですね!でも、それってすごく責任のある仕事だってことでもありますよね。

 

そうですね。ただ、現在は全国的に博物館職員の非正規化が進んでしまっていて、一つの館に長く勤められる人が以前より更に減ってしまっているんです。このあたりは社会の課題でもあるのですが、そうした厳しい現状も目指す上では知っておいた方が良いと思います。

 

 

悩めるモリモトさんへのアドバイス

学生時代の”飛び込む勇気”が未来につながる 

プラネタリウムや天文台で学芸員として働くのはすごく難しく、大学で勉強をして資格をとる以外にもいろんな活動が必要だってわかってきました。それも踏まえて、三島さんは高校時代どんなことすべきだと思いますか?

 

高校に限らず大学生でも、やりたいことにいろんなことにチャレンジして、物事の良さや本質を肌で感じることがとても大事なんじゃないかと、僕は思いますよ。

 

モリモトさんが演劇を本当に好きなら、大学でも続けて思いっきりやってみてもいいと思うんです。そこで積んだ経験や深めた人脈は、たとえ演劇や天文に行かなくても、経験として活きてきますから。

実は自分、吹奏楽や写真もやっていて……(笑)。

いいじゃないですか。僕は高校時代イージーリスニングやジャズフュージョンを趣味でたくさん聴いてましたけど、やっぱりそのセンスは今のプラネタリウムの選曲なんかに活かされていますよ。

それも活きるかもしれないんですね!

 

学生時代って、自分で自由な時間の使い方を選択できますよね。大学は特に。だから、勉強ばかりでなくて、いろんなやりたい活動に打ち込むことが大事なんじゃないかな。

勉強するだけじゃなくて、やりたいこともやる、かぁ。

 

ただ、そのためにはやりたいことのために自分から飛び込んでみる”ちょっとの勇気”が必要かもしれません。

 

たとえば、何かおもしろいことを体験させてもらえる場が学校であったとして「やってみたい人いるー?」って先生が声をかけますよね。モリモトさんなら、そんなときどうします?

ちょっとためらって周りを見ちゃうかもしれません(笑)。

 

そう、誰でもためらいますよね。でも、そんなときはぜひ、「やらせてください!」と一番に手を挙げてみてください。「おもしろい」と思ったら、飛び込んでみる。そういうささやかな体験の積み重ねがモリモトさんの価値観をつくり、視野を広げてくれるはずです。

 

思い切って飛び込んで楽しむことを続けていったら、きっとモリモトさんにとって良い未来につながっていくと思いますよ。

飛び込む勇気……、刺さりました!進路はどうするかまだ分かりませんが、自分、がんばります。三島さんに話を聞きに来て本当によかったです、ありがとうございました!!

(編集:北原 泰幸)

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