「好きなことはある。けど、大学の学部や学科選びをそれでしていいのかな?それで本当に仕事に就けるのかな?」
進路選択で突き当たる、自分と社会とのぶつかり合い。今回登場するモリモトさんも、進路を前にそんな悩みを抱いた一人です。自分の過去の体験から「天文」を仕事にすることを考え始め、今回プラネタリウムで働く学芸員の三島さんに思いきって話を聞きに行ってきました。
そこで出会ったのは「大学の学部や資格を取る以外にすべきことがある」という驚きの言葉。
一体、どういうこと!?
目次
登場人物紹介
ライフパーク倉敷科学センターの学芸員さん。出身は神奈川県平塚市。新卒で現在の館に配属になって以降、この道30年という大ベテラン。
三島さんはどうやって天文の学芸員になったのか
天文を仕事にしたい高校生、衝撃の実例に出会う
裏道っぽく聞こえるかもしれないけど、この仕事に就くにはかなり効率的なことをしていたのかもなと思いますよ。意図していたわけじゃないんだけどね。
「好き」が仕事につながったキャリア
長年通い詰めるうちにだんだん学芸員さんとも仲良くなって、中学生のときには「博物館の仕事を手伝ってみない?」と声をかけられるまでになっていました(笑)。
そこで天体の観測資料をまとめる仕事をしたり、高校生のときには天文展示のパソコンプログラムにも挑戦させてもらったり、まさに現在の業務につながるような経験を積ませてもらえたんです。
だから、「この仕事に就けるのはものすごく高学歴で優秀な人だけだろうし、自分がそこを目指したら就職できなくなっちゃうかもしれない」と思ったんです。
それなら手に職をつけられそうな学問がいいだろうと、工学部光工学科を選択しました。当時は、レーザーなどの光分野の技術が社会を大きく変えていた時代だったので、需要があるだろうと。
ストイックにいろんな研究をしている仲間がいましたよ。流れ星、ほうき星、変光星……。全国のアマチュア天文家の研究発表会にも出張っていって人脈を深めたんです。
それが就職活動をしていた4年生の5月、ちょうど企業から内定をもらえそうな頃でした。それで、岡山に来て試験を受けたら、受かっちゃった(笑)。
それで今まで倉敷市の職員として、倉敷科学センターに勤めているというわけなんです。学芸員資格は後から勤めながら取りました。
そんな中、僕は中高と博物館のボランティアで仕事のスキルを得て、大学生時代に人脈を深めた結果、図らずもこの仕事に就けたわけですからね。
この経験からモリモトさんに伝えられるのは、もしある分野に夢を持つのであれば、大学の学びや資格に加えてもっと幅広く、仕事のスキルを実地で学んだりその分野の人達と人脈を深める努力をしたりするのも有効かもしれないということかな。
倉敷科学センター三島さんの学芸員のお仕事
それも学芸員の仕事なの!?
業務も役所の人がやっているようなことを一部ですけどやっています。僕の場合は広報も担っていてメディアへの情報発信をを行ったり、ネットの広報戦略を考えたり。同僚は経理をしていますよ。
もちろんプラネタリウムの仕事もしていますよ。毎日の投影や、小学校の子達にみせる学習投影、夜まで館に残って天体の観望会・天体観測を実施する日もあります。それから展示の手入れもするし、機器の不調を直すのも仕事のうちですね。望遠鏡が壊れたり、映像プロジェクターが映らなくなったり、施設を維持するために色々起こります(笑)。
それにプラネタリウムの番組の企画をしたり、脚本を書いたり……。
モリモトさんは機械いじりやプログラミングは好きですか?
来館した人達にどう専門的な話の魅力を伝えられるか、館での時間を「おもしろかった」「来てよかった」と感じてもらえるかが大切だから、プラネタリウムや天文台で働く私たちは常に説明の仕方や話術を磨く努力をしています。
確か、演劇をしているんだよね?
倉敷市の科学・天文文化を育む大きな仕事
日本中で空前の宇宙ブームを巻き起こした小惑星探査機「はやぶさ」の帰還カプセル巡回展のときも大変でした。
小惑星の土を地球に届けたカプセルの実物を全国の科学館で順番に展示していったんですけど、すごい人気だったんです。一番多かった広島県呉市の会場にはなんと4万人もの人が来たぐらいですから。
そこで、逆に10ヶ月の準備期間があると考え「倉敷の巡回展をいかに知って期待してもらえるか、付加価値を与えられるか」と頭を切り替えて、その作戦作りに注力することにしたんです。立てた目標は、全国平均超えの来館者数1万5千人。科学館として前例のない大規模イベントでしたので、達成に向けて手を尽くす、とてもプレッシャーの大きい仕事でした。
プロジェクトに携わった大物の先生たち7人の先生を招いて連続講演会もしましたし、「はやぶさ」の興味深い資料をJAXAからお借りして公開する特別展も平行企画したり、「はやぶさ」をテーマにしたプラネタリウム番組も上映して皆さんの期待感も高めました。
さらにプラネタリウム投映の最後に、”はやぶさの父”である川口先生の倉敷展開催に寄せたビデオメッセージを特別に流して……。もう、総力戦です。
倉敷の学校の先生や、天文ボランティアの方々、全国の専門家の方々、いろいろな人脈をつくりながら取り組んできたことで、最近はようやく「できてきたのかもしれない」と感じられるようになってきました。
悩めるモリモトさんへのアドバイス
学生時代の”飛び込む勇気”が未来につながる
モリモトさんが演劇を本当に好きなら、大学でも続けて思いっきりやってみてもいいと思うんです。そこで積んだ経験や深めた人脈は、たとえ演劇や天文に行かなくても、経験として活きてきますから。
たとえば、何かおもしろいことを体験させてもらえる場が学校であったとして「やってみたい人いるー?」って先生が声をかけますよね。モリモトさんなら、そんなときどうします?
思い切って飛び込んで楽しむことを続けていったら、きっとモリモトさんにとって良い未来につながっていくと思いますよ。
(編集:北原 泰幸)
高校2年生。演劇部所属。大学受験を前に、小さい頃から”宇宙”の話が大好きだったことを思い出した。今は天文台やプラネタリウムのある博物館で働きたいと考えている。