世界、ブータン、和気町。よりよい世界と生き方を模索する・一般社団法人まなびと代表理事 江森真矢子さん

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公開日 2026.02.03

今回のゲスト・江森 真矢子(えもり まやこ)さんは、高校生の頃から旅が好きで世界30カ国以上を旅してきました。中高生頃から世の中に何かを発信することに興味関心があり現在は仕事でも海外滞在が多いフリーランスとして活躍。一般企業から、雑誌編集者、地域おこし協力隊として学校現場での仕事とキャリアをシフトさせながら積み重ねて生きています。

 

「私には、会社員は向いてないのでは?」と心配な人必見、ウェルビーイングな生き方を探る江森さんの生き方を紹介します。

ブータンと日本を行き来する江森さんのお仕事

★江森 真矢子(えもり まやこ)さん

一般社団法人まなびと代表理事。東京出身。2015年に地域おこし協力隊として岡山県和気町へ移住して活動を開始。近年はブータンと日本を行き来しながら、執筆・編集業、高校の魅力化、プロジェクトベースドラーニング*(以下、PBL)探究型プログラムの開発などに取り組む。

 

*PBL:生徒が自ら問題を発見し、解決するなどのプロジェクト活動を伴う教育方法。

 

 

★横山さん

岡山県内の大学生。中高生時代の経験から、サラリーマンやOLなどの枠組みにとらわれない将来を模索中。今回は「仕事へのモチベーションとは?」をテーマに、江森さんの多様な経験を掘り下げる。

 

教育と地域づくりのプロジェクトでブータンへ

江森さんの現在のお仕事の内容について、教えてください。

日本・ブータンそれぞれの正装を着て着任の挨拶(左)

ブータンを訪れた隠岐島前高校の生徒をアテンドする江森さん(中央左)

PBLという探究型の学びをブータンに広げていくプロジェクトに参画していて、2024年4月から2025年2月まではブータンの田舎町に住んで活動していました。

 

日本ではフリーランスのライター、エディター、ひとづくり・まちづくりをテーマに活動する一般社団法人まなびとなど、様々な活動をしています。何足もわらじを履き、生きることと働くこととが混然一体になった「百姓的生き方」を模索しているところです。

 

ブータンから帰国して半年ほどですが、ブータンが恋しくなることはありませんか?

 

実は、帰国後も定期的にブータンを訪問しています。今年は、7月の終わりから日本の中・高校生と共に2週間ブータンに行き、10月にも3週間ほどブータンへ渡航予定です。※取材時は9月初旬

 

中高生とは、ブータンでどのような活動をしているのですか?

 

ブータン国内での交流や文化・生活体験をしたほか、各生徒が設定したテーマでフィールドワークも行いました。

 

ブータンに行ったのは、島根県にある隠岐島前地域の子どもたちです。隠岐島前地域では、中高生が学校の外で探究する学習を行っていて、その一環でブータンを訪問しました。

 

私がブータンにいた2024年の夏にも隠岐島前地域から子どもたちがフィールドワークに来たので、現地で受け入れの立場も経験しました。

 

幸福の国 ブータン

ブータンって、聞いたことはあるのですが、そういえば詳しいことはよく知りません。どこにあるのですか?

 

中国とインドの間にあります。王様がいる国で、文化としてはインド系やネパール系もいます。顔立ちは日本人と似ています。私がブータンの民族衣装を着て首都を歩くと、日本人だとバレないくらい馴染めてしまいます。

 

なぜブータンなのでしょうか?

 

ブータンは、経済発展と同じくらい国民総幸福量(GNH)を大切にしている国です。実際の政策もGNHを根拠としたものが多数あります。

 

隠岐島前地域は、過疎により島が廃校の危機を迎えるなか、なんとか生徒・児童が「行きたい(通いたい)」、保護者が「行かせたい(通わせたい)」、教職員が「行きたい(赴任したい)」、地域住民が「活かしたい」と思う魅力ある学校づくり・教育の場づくりを進めてきた学校です。

 

このような背景のある隠岐島前地域の子どもたちにとって「ウェルビーイング」を重視するブータンから得られるヒントがあるはずだと、交流が始まったのです。

 

ブータンから学びながら、新しいものを作りたい

「幸福」や「ウェルビーイング」を大切にしているブータンから学んで、新しい何かいいものを作っていきたいという気持ちがあります。

 

「ウェルビーイング」な教育とは、どのようなものですか?

 

たとえば「抑圧が少ないこと」が大事だと考えています。

日本の学校には、まだまだ理不尽な校則や空気を読まないといけない風潮のような抑圧がありますよね。

 

なるほど。江森さんが「幸福」や「ウェルビーイング」を重要視するようになった背景も知りたいです。

 

私は、教科書や定期考査のない自由な校風の中高一貫校で育ちました。そこで「入試のために◯◯を我慢する」のようなことがなく、「今ここの幸せ」を大切にできる中高時代を過ごせました。それが、今の私を作る大きな糧となっています。

 

だから、1人1人が尊重されて、その場のウェルビーイングが、保障されているような状態が理想だなと思っています。

 

実は私は学校が苦手で、不登校だった時期もありました。でも、高校の時に海外留学したのをきっかけに学校だけが世界の全てではないと気づきました。それがきっかけで、国際的な活動に興味を持つようになりました。ブータンに行った中高生の中にも「価値観が変わった!」という人がいるのではないですか?

 

どうでしょう。今回ブータンに行った子たちに関しては、まだ帰国してから日が浅いので「行ってみて自分がどう変わったか」を考えるまでは至っていない気がします。

 

では、今まで出会った生徒さんの中で「江森さんやブータンと出会って人生が変わった」という人はいましたか?

 

私は、たった一度の出会いや渡航だけで人生が激変することはないのではないかなと思っています。横山さんもそうだと思うのですが、価値観の変化は積み重ねによるものだと思うので、生徒たち自身の「気づき」の積み重ねを大切にしたいと思っています。

 

生徒たちは、ブータン渡航前にも様々な経験をして成長してきています。そのような経験があってこそ、ある瞬間にいろんな経験がつながって「気づき」が生まれるんです。

 

ブータンで「気づき」が生まれる子もいれば、帰国して時間をおいて日常生活を送る中でブータンでの体験が「気づき」につながる子もいるでしょう。その気づきは私のおかげなどではないと思います。ただ、ブータンでの体験が彼らが何かを信じたり自信を持ったりするきっかけになっていたら嬉しいです。

 

キャリアをシフトさせながら、できることを増やしていく江森さんのこれまで

「自分は世界とつながっている」と実感した学生時代

高校2年生で渡航したインドにて

編集者・ライター・講師業と様々な分野で活躍される江森さんですが、子どものころはどのようなことに興味関心があったのでしょうか。

 

母が図書館司書をしていたこともあって、本や雑誌が好きな子どもでした。中高生ぐらいの頃から「世の中に発信する・訴えかける」といったことに関心がありました。

 

そう考えるきっかけがあったのですか?

 

幼少期、手塚治虫さんの『火の鳥』という漫画を読んで、世界の始まりと終わりを考えさせられたことをよく覚えています。読み終えてから「人類とか地球はこの先どうなるんだろう」ということが気になって、眠れなくなってしまうほど、衝撃を受けました。

 

多分その頃から「人類に滅亡してほしくない。自分はそのために何ができるのだろう」と考えるようになり、次第に南北問題や日本の食料自給率の低さについても関心を持つようになっていきました。

 

「世の中に訴えたい」というのは、そのような出会いから育まれたのですね。その問いは、それからどのようになっていったのでしょうか。

 

高校2年生の頃には、より強い実感を伴うようになりました。高2の夏に渡航したインドで、道端で両手首から先のない人が物乞いをしているような光景や日本でも売られているグローバルブランドの製品、経済格差を目にしたのです。

 

そこで「日本で暮らす自分の豊かな暮らしは、世界中にいる誰かを搾取してるから成り立っているんだ」ということを実感したんです。自分は世界とつながってるんだな、と。

 

幼少期の問いと、江森さんの体験が繋がったんですね。

 

これらの経験があって、大学では食糧の流通などについて学ぶ農業経済学を専攻したいと考え、進学先を探しました。

 

しかし、最終的に進学したのは農業経済学についても学べるリベラルアーツの大学です。でも、経済学の授業では山のように数式が出てきたことで挫折してしまいました。

 

実際触れてみると、より強い興味が湧いたのは社会学でした。というのも、私は数量的な研究よりも、実際にインタビューした人たちの声を分析するような研究の方が好きなことに気づいたのです。

 

課外活動では、学生が主体になっておこなう子どものためのサマーキャンプを企画運営していました。大学3年生と4年生の夏はアメリカのサマーキャンプでも働きましたよ。

 

アメリカにも行ったのですね

 

やるなら本場のキャンプを経験したいと思ったんです。そういう意味で、教育にも興味関心がありました。学校教育ではなく社会教育という分野ですが。
最初の就職先は、どのようなおしごとでしたか?

 

教育系の企業です。学生時代のアルバイトで知り合った会社の社長に誘われて入った会社で、9年ほど私立の学校の魅力づくりや広報の手伝い、探究的な校外学習のプログラムを作る仕事をしました。

 

その後、教育系雑誌の編集者として7年間高校向けの雑誌を作りました。島根県の隠岐島前高校とも、このときに教育魅力化の取り組みについて取材したことがご縁で知り合いました。

 

ちょうどその頃、岡山県の和気閑谷高校が隠岐島前高校の事例をモデルとした「高校魅力化」に取り組むための地域おこし協力隊を募集していたんです。当時の校長先生に誘っていただいたことをきっかけに、2015年に地域おこし協力隊として和気町にやってきました。

 

そこで、高校魅力化や探究型のカリキュラムを作りつつ、フリーランスで編集者の仕事も継続して行うような今の働き方ができてきました。地域おこし協力隊を卒業するタイミングの2019年には、一般社団法人まなびとという和気町のまちづくりに関する団体も立ち上げました。

 

いろんなお仕事をされているんですね。

 

そうですね。キャリアチェンジというよりは、少しずつキャリアをシフトさせたことでできることが増え、今があるように感じています。

 

会社員時代は学校教育に携わり、雑誌の編集者時代は発信をしつつ教員研修や講演にも挑戦し、和気町にきてからは社会教育の枠がグッと広がり、行政や地域づくりにも携わるようになりました。現在は、国際教育や開発教育の活動もしています。今振り返ってみると、自分は「教育」という領域を軸に生きてきたんだなと思います。

 

どの仕事も、良い世の中を作ることにつながっていると信じて

大学卒業後の就職先でデスクワーク

自分のできることを組み合わせて、それが広がっていく江森さんの生き方、とても魅力的です。

 

実は就職活動ではメディア系の企業を志望していたんです。でも、ご縁があって入った教育系の会社で、仕事の楽しさや面白さに夢中になっているうちに、いつの間にかメディアに関わるスキルが身についていきました。

 

次のキャリア教育雑誌の編集の仕事も、前職での教育業界での経験を買われて誘っていただきました。当時の私には紙媒体の雑誌の編集経験がありませんでしたが、その技量も、その会社で仕事に取り組む中で自然に身につきました。

 

和気閑谷高校勤務という現場の立場になってみると、自分がこれまで培ってきた知識と知っていること、現実の活動のギャップも感じました。でも今までの経験や人脈が積み重なって、今ここに自分がいるんだなと実感しています。

 

江森さんのお話を伺っていると、楽しく仕事をされてきたのだなと感じます。まだ私は、自分が楽しく仕事をしているイメージが湧きません。江森さんは仕事のどういった部分を楽しいと感じるのでしょうか?

 

旅をしたり、人や新しい物事と出会ったり、発信したり、やっていること自体が楽しいというのがひとつ。そして私にとっては、自分の仕事が誰かのため、世の中のためになっていると思えることが「楽しさ」かな。ほとんどの仕事はそうだと思うけど、誰かのためにならなければ仕事としては成立しません。誰かがしてほしいことを代わりにする。その対価として、お金が発生する。お仕事でいただくお給料は、誰かができないこと、誰かのためになることをしたことへの対価だと、私は思っています。

 

なるほど。

 

就活にとらわれすぎず、まずは飛び込んでみるべし!

絶景を背景にブータンの学生たちとランチ(右端)

今後の展望を教えてください

 

とはいえ、仕事にはお金につながりやすいものと、そうでないものもあります。でもそこに線引きをせずに、私の求めることをして生きていきたいです。その積み重ねが「ウェルビーイング」な生き方につながって欲しいですし、今後も様々な地を旅しながら暮らしたいなと思っています。

 

当面のビジョンとしては、1年のうち1/3はブータン、1/3和気、残り1/3はどこか別のところにいるという暮らしが理想です。

 

やはり、ブータンが好きなのですか?

 

特別ブータンだけが好きというわけではないんですよ。ただ、このような暮らし方は、私にとって理想的だなと思っています。

 

ありがとうございます。最後に、将来の仕事を考える若者に、メッセージをお願いします。

 

考えすぎずに飛び込んでみてもいいんじゃないか、と伝えたいです。就活など目先のことにとらわれすぎずに、生きてほしいですね。それから「旅はいいぞ!」とも伝えたいです(笑)。

 

旅にはよく出られているんですか?

 

そうですね。特に海外はプライベートでいった回数の方が多いです。滞在日数では、仕事で出ていた期間の方が長いのですが。海外ではなく国内でも、隣駅でもいい。旅から得られることはたくさんあると思います。

 

様々な経験が積み重なる江森さんの生き方、とても参考になりました。ありがとうございました!

江森さんが編集・寄稿した書籍

(編集:中村 暁子/執筆:高石 真梨子)

 

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