国際協力に興味のある大学生、元岡山県JICAデスクの未来さんと”支援”について考える。

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公開日 2024.04.22

岡山の若者が生き方百科を活用して自分の興味を大人にぶつける。それがとことんトーク!

 

今回とことん話してきたのは、留学生のハンユーさん。ずっと興味を持っていた戦争や貧困をなくす国際協力活動について、その道の先輩・未来(みき)さんについてアレコレ尋ねます。

 

二人が最後にたどりついたキーワードは「自分の中の平和」・・・・・・!?問いが深まる突撃録です。

 

登場人物紹介

★ハンユーさん
岡山大学大学院に通う中国からの留学生。社会文化科学研究科所属。小さい頃から国際ボランティア活動に参加したいと思っていたが・・・・・・?

 

★未来(みき)さん
かつて独立行政法人国際協力機構(以下、JICA)で岡山県国際協力推進員として働いていた。現在は、岡山のシステム会社・株式会社オーリスでワクワクする世界をつくるために活動中。

未来さんの見た国際協力の世界

「貧しい=不幸」ではない

未来さん、私はハンユーと申します。実は私、小さい頃から国際ボランティア活動に参加したいと思ってきました。でも、いろいろ心配事があって、まだ参加できていないんです。

 

なので、実際の活動経験を持つ未来さんにお話を聴くのを楽しみにしてきました!

 

そうなんですね、よろしくお願いします。

 

さっそくですが、未来さんはいつから国際協力活動をしてきたのですか?

 

高校に入学して間もないころからです。たまたま実家の近くに国際協力NGO(非政府組織)があって、そこにボランティアに行くようになったのが最初ですね。そこで募金活動など、いろんな活動をしました。

どうしてNGOの活動を始めたのですか?

 

実は私、中学校時代まで家庭も学校も「自分の居場所だ」と思えていなかったんです。

 

自分の気持ちにいつもフタをしているようなところがあって、周囲との信頼関係もうまく築けていませんでした。自分自身に対しても肯定的な思いが持てず、「私にできることなんてない」と思いこんでいました。

 

でも、中3の時に担任の先生が親身になって相談に乗ってくださったことで「やれることを頑張ってみよう」と思えるようになって。それで始めたのがこの活動だったんです。

 

やってみて、何か変わりましたか?

 

はい、「こんな自分でも、もしかしたら誰かの役に立てるのかもしれない」と思えるようになっていきました。

 

それから、もっともっとこの活動を頑張りたいと思うようになって、高2進級前の3月には、NGO所属のお医者さんと一緒にカンボジアとタイを訪問したんです。

 

そこで見た現地の方々の姿に、私はものすごく衝撃を受けました。

 

どんな様子だったんですか?

 

現地の人達は私よりもずっと質素な生活をしているはずなのに、すごく活き活きしているように見えたんです。

現地の子ども達とボランティアで訪れた未来さん(左)と。

「貧しくて不幸な状況にある人達を助けたい」と思って活動してきたのに、現地の人は質素な生活だけれど決して不幸ではなかったことに気づかされました。

 

かえって私の方が幸せじゃなくて、私の方が学ぶことや受け取るべきことがたくさんあるように思えて仕方なかったんです。

 

「こんなに生き生きと笑ったことってあったかな」

「こんなにキラキラした目で夢を語ったことってあったかな」

「幸せって、一体なんだろう」

「みんなで一緒に幸せになるって、どうしたらいいんだろう」

 

そんなことを高1なりに自問自答した日々でしたね。

貧しいことが、不幸だというわけではない。それは確かに現地に行って初めて感じられることですね・・・・・・!その経験で活動への気持ちも変わりましたか?

 

そうですね。それまでは「誰かを救ってあげている自分」を感じたくてやっているような、自分本位な活動だった気がします。でも、それが「相手のためになる”本当の支援”をしたい」という気持ちに変わりました。

 

自分本位なボランティア活動・・・・・・私にも思い当たるところがあるかもしれません。

 

募金で建った学校の現実

“本当の支援”とは一体どんなものなのでしょうか?実際に活動をしたことがない私には全然わからなくて・・・・・・。教えてもらえませんか?

 

私が考えていることが答えかどうかはわからないですよ。

 

それでもお伝えするなら、お互いが自分の人生を幸せに生きていくためにお互いが協力し合うこと、それが”本当の支援”なんじゃないかなって思っています。

どういうことでしょう。

 

そもそも”支援”という考え方そのものが、「自分の中の『こんなことをしたらこの人は助かるはず』」という思いから相手に向かっていく、いわば一方向に矢印が向くような状態からスタートすると思うんです。

 

でも、「自分が正しい」と思ってしたことが相手のためになるとは限らないですよね。

 

だからそうじゃなくて、相手からもその矢印が返ってくることが大事だと思うんです。お互いが伝えあえれば、「あなたの幸せってどんなもの?」「私の幸せはこうだよ」「じゃあ、『私たち』の幸せはどんなものかな」と一緒に互いの幸せを考えられるようになるはずです。

そうした双方向の関係性を築くことができれば、”協力””信頼”という関係になっていくのじゃないかなと。

 

“本当の支援”とは、そうした協力・信頼関係のこと・・・・・・。

 

もちろん一方向的な「支援」も一時的には必要だと思います。でも、長い目線で見たときには、お互いに意思疎通が行き交い、一緒に何かに向かっていけるような関係性に移行していく必要があるのかなと。それが、本当の平和構築には大事なんじゃないかって、私は思ってます。

確かに。日常の中でも、一方的にこちらがしてあげることで相手の役に立つことって、あまり無い気がします。協力しあうから、一緒に幸せな生活に向かうことができるのかもしませんね。

 

そう思います。カンボジアに行ったとき、私はまさにそれを実感したんです。

 

何があったんですか?

 

「カンボジアの壊れた小学校の建物を建て直そう」というプロジェクトで、私は高校時代ボランティアグループで募金活動をしていました。そのお金が貯まって、現地で学校が建て直されることになったんですよ。
素敵な話じゃないですか。

 

だと思いますよね。でも、建て直した建物のお披露目セレモニーに参加するために現地に行ったら、そうではなかったことが分かってしまったんです。

 

??貧しい子ども達のために、募金で学校を作ったんですよね??

 

そうです。空港からのセレモニー会場への道中にも、同じように日本の募金で建てられた小学校がいくつもありました。どれも周りの質素な建物と比べて、明らかに目立つほど立派なコンクリートづくりの学校でした。

 

でも、そのどれもが不自然なぐらい綺麗で人気もないんです。

 

それで、不思議に思って聞いたんです。そうしたら、現地の人が教えてくれました。建物は立派だけど、中は空っぽで使われていないんだって。

せっかく学校が建ったのに使われていない・・・・・・?

 

カンボジアでは、長く続いた内戦で知識人がみんな殺されてしまったために「子ども達に教えることのできる先生がいない」状態だったのだそうです。長い内戦の中で「学校に行く」という文化そのものも失われてしまって、学校には人が集まらなくなったのだとも聞きました。

・・・・・・。

 

そんな中、「教育を受けられない子ども達のために、学校建ててあげよう!」と募金が盛んに行われた結果、小学校だけが建ってしまった。でも、それは誰にも使われず、本当の意味で役には立っていなかったんです。

 

そういう現実を今から20年前に目の当たりにして、これが”支援”の実態なんだなと思ったんです。

 

私達が支援していた学校は、現地のNGOの活動地域にあった学校で、生徒たちも先生もいました。そのため古い校舎を再建した後も学校教育の現場として活躍し、今では政府のパイロットスクールとして地域の中でも重要な役割を果たしています。

古い校舎(左)と再建した学校(右)

ただ、当時の自分は「学校がないなら学校を建ててあげよう!」という短絡的な意識しか持ち合わせていなかったので、一歩間違えたら、道中でみかけた他の小学校と同じ末路をたどっていたかもしれないと思うと、ゾッとしたのを今でも鮮明に覚えています。

 

当時のわたしは、良かれと思って行動した結果、「相手にとって何が必要か」とか、「今どういう状況か」とか、「どういうことをすれば相手の幸せに貢献できるのか」ということを置いてけぼりにしてしまった。

 

こうした在り方のままではいけないんだと、その時気づきました。

現場に行って、相手にとって何が必要なのか理解することが大事・・・・・・。

 

そうですね。行ってみないとわからないことがいっぱいあるし、そこに住んでいる人たちと直接話して聞いてみないとわからないこともいっぱいあるはずなんです。

 

再建プロジェクトに関わった小学校の開校式で、自分の決意として「一緒に未来を作っていきましょう」と記帳しました。その時の自分との約束をどうやって果たすか、それが私の人生の中で大きな命題となっていきました。

この時記帳した言葉が、未来さんの自分との約束になった。

JICAでのやりがいと苦悩 

国際協力の難しい現実が、少しずつ見えてきた気がします。未来さんは社会人になってから、JICAでもお仕事されたことがあるんですよね。そこではどんなことを感じましたか?

 

まず、大きなやりがいを感じました。

 

33歳のときから3年間勤めたJICA国際協力推進員は「地域のJICA窓口」です。青年海外協力隊への応募を検討する人、研修で岡山に来た海外の人、開発途上国でのビジネスを考える企業の人、そうした人達をサポートする大切な仕事です。

 

日本の教育現場では「開発教育」と呼ばれる世界の貧困と私たちの生活がどう関係しているかなどを伝えるワークショップなども行いました。

地域と世界をつなげるようなお仕事なんですね。

 

そうです。私は高校卒業後はカナダの大学で国際開発学を学んで国際協力への熱意を強くもっていたものの、社会人としてこの世界で仕事をできていなかったんです。だから、「こういうことがやりたかった!」と、その仕事に大きな満足感を感じました。

 

でも一方で、徐々に不安も感じるようになっていったんです。

不安?

 

はい。「私のやっていることは、あの一方的な”支援”につながってしまっているんじゃないか」という不安です。

 

国際協力推進員の業務は必要不可欠な仕事だけれど、現地に行くわけではありません。私の行動の先にいる現地の人の、顔も名前も分からない。

 

だから、私の行動は”本当の支援”につながっているのか、徐々に疑問が膨らんでいってしまったんです。

 

高校時代の話につながりますね。

 

それに「国を越えて、お互いがお互いの幸せを考えられる関係を作ろう」と色んな方に熱っぽく語る一方で、私生活では自分の身近な人と信頼関係を築けていないでいる自分もいて。そこに大きな矛盾も感じて、どんどん苦しくなっていく部分もありました。

そうか・・・・・・志の高い仕事だからこその苦しさも、あるんですね。

 

本当の国際協力はどこから始まる?

未来さんのお話のおかげで、国際協力活動の現実や難しさが少しだけ私にも分かってきた気がします。今までの経験をふまえて、国際協力活動をする人にとって大事なことは何だと思いますか?

 

そうですね・・・・・・。まず「自分の中に、平和を作る」ということに取り組む姿勢がいるのかなと、私は思います。

 

自分の中の平和?

 

はい。そもそも「平和」の定義って、人によって違いますよね。だから、「自分にとって『平和』ってどういう状態なんだろう?」ということを考えるところからはじめて、その実現のために小さな行動をしていくことが大事なのかなと。

 

たとえば私であれば、「自分自身を自分で大切にできているか」とか「明日を迎えることにワクワクできるか」とか「自分の愛する人たちのことを大切にできているか」が大切で、そうしたことを大事にできていくと、自分の心の中に安心安全な場所ができていくと思うんです。

まず、自分の心の中を平和にしていくことから始めて・・・・・・それが国際協力につながる。

 

はい。自分の平和を持っている人は「争わなくても理解し合える方法はあるんじゃないか?」と考えられるようになっていきますし、自分のように平和を感じている人を増やしていこうとしますよね。

 

それって国際協力の原点でもあって、人と人とが理解し合うためにものすごく重要なことだと思うんです。助け合いは自分を起点にして、周囲に波及していくものなんだと思います。

自分を幸せにすることから始めようっていうことですよね。私にとっての平和や幸せってなんだろう・・・・・・。すごく難しいですね。

 

そうですね、とっても難しいです。

 

だから私も「まずは自分を幸せにできる人になろう」と、今取り組んでいます。その先に、自分が大事だなって思っている人たちの幸せがあったらとてつもなく嬉しいですよね。

国際協力は、まず自分と身近な人の平和から・・・・・・。そっか、そうですよね。私もまず自分を見直してみようと思います。未来さん、今日は私の問いと向き合ってくださってありがとうございました!

自分の幸せと国際協力はつながっている。

(編集:北原 泰幸)

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