ミシュランガイド京都・大阪+岡山2021に、快適なレストランとして掲載された「Aimable(エマーブル)」を切り盛りする実力派料理人です。プロフェッショナルの話は「なるほど」と大きくうなずくことばかりでした。
普通の高校生が料理を生業として選び、どのようにその道を極めていったのか。一流になる道のりや料理人に必要なことは何なのか。オーナーシェフとして経営者と料理人の狭間で日々料理に向かう岸田さんにお話を伺いました。


夕飯の支度からお弁当作りやお菓子作りもこなし、家族や友人に料理を振る舞うのが好きな専門学校生。日常生活の中に常にある料理を生業にし、さらに高みを目指す料理人の思いを聞いてみたいと、インタビューに挑戦!
目次
岡山市北区にあるフレンチレストランのオーナーシェフ・岸田さん
オーナーシェフの1日は?


スタッフは11時に出勤、掃除やランチ用のセッティングをしてくれて12時からランチ営業がスタート。僕は午後2時半ぐらいまでは厨房でひたすら料理に向かいます。
片付けが午後3時半ぐらいまでかかりますから、そこから昼食を取ってようやく休憩できるんです。でも忙しい日だと、少し休憩してすぐ夜の仕込みに入ることもありますね。


オーナーシェフの僕には、日々の仕込みやメニューづくりといった料理人の仕事と、お店を回していく経営者の仕事があるんです。そのため、人件費や経費の計算などの経営面の仕事も全て自分にかかってきます。
料理人でもあり、経営者でもある


でもいろいろ買いそろえる中で、どうしてもほしい刃物類を買ってしまったんです。オープンして3ヶ月ぐらいだったのに残高が3,000円ほどになってしまって、このときばかりは焦りました。お客様が来てくださるか、外を通る人が気になって仕方ありませんでした。


お客様のご負担も増えず僕自身も納得のいく料理をお出ししたいですから、食材選びには苦労します。
料理人と経営者の両面から常に考えていかないといけないところがオーナーシェフの難しいところですね。


だから当店では、出勤時と退勤時に「お疲れ様でした」って握手するんです。お互いの労をねぎらって、次の日も気持ちよく仕事に入れるようにということです。

フレンチシェフへの道のり
褒められる嬉しさが料理の道の第1歩


でも高校生になってアルバイト先で作ったまかないが、後輩から「美味しい」って褒められたんです。それが嬉しくて料理に興味を持ちました。その頃テレビで「料理の鉄人」って言う番組が放送されていて、ちょっとかっこよかったっていうのもあります。
高校が楽しかったからこのまま就職をしたいと思わなかったし、料理以外にやりたいと思ったこともなかった。だから料理の専門学校に進むことにしました。


僕が通っていた専門学校は1年で、幸いにも卒業と同時に希望していた地元岡山での就職が決まりました。
ホテルで腕を磨く


3つの部署に分かれていて、どの部署も3人ずつぐらいだったので、すぐ料理を作らせてもらい揚げ物なんかを担当していました。
ここには3年勤めて、その次は小豆島のホテルオリビアンでフレンチと宴会の両方を担当しました。


ここの厨房では、たまにソースも作らせてもらったり肉も焼かせてもらったり、ガルニチュール(フランス料理の付け合わせ)など、一通りのことはやらせてもらって、3年ぐらいで次に移りました。


徐々に料理長の信頼も得て、メニューについて意見を求めてもらえるようにもなりました。それでも料理長ではなくいちコックなので、基本的には自分から料理を作れる機会は少ないんですけどね。でも、合間でやりたいことをやらせてもらっていました。
この頃から作りたいものが表現できる技術が身についたら、自分の店を開いても良いかなと思うようになりました。


直島で本格フレンチと格闘


また、ミシェル・ブラス*にいた日本人シェフが来られて、同じ厨房で一緒に料理に携われました。常に身近で、実際の技術を見ながら学べたことも大きな刺激となりました。
*ミシェル・ブラス:21世紀のフランス料理界を代表すると言われるオーベルジュ(美味しい料理をメインとした宿泊施設)


吉野シェフとミシェル・ブラスの料理を学べて、いろんな料理本を片っ端から読みあさって、自分の料理も進化させることができました。この時はものすごく勉強しましたよ。

ベネッセハウスでの経験が今の店のベースにはなっていて、スペシャリテ(お店の看板メニューや名物料理などシェフの得意料理)的な料理にも生かされています。料理人としての武器が増えていきました。


実はそれまではまさか店を持つなんて思ってもみなくて、直島で料理の面白さを知ってからだんだんのめり込んでいきました。


店を持って思うこと「やっぱり僕は職人だ!」


開店当初も「明日どうしよう」ということもありましたが、総じて僕は運が良くて「困ったな」って思っても大体なんとかなるんです。




料理人と経営者の相反する立場で料理を考えないといけないことがままあります。自分の店だからやりたいことが全部できるかといったらそうではないんですね。




お客様の「美味しかった」「また来るよ」という言葉や笑顔は、僕の料理とエマーブルの空間を必要としていただけたという喜びにつながります。
料理の道を目指す皆さんへ


その上で疑うこと探究心が必要だと思います。例えば、先輩から学んだことが「なぜそうするのか」と意味を理解していないとそこから発展していきません。
教えてもらったことだけが絶対正解とは限らないのでそこを疑ってみる。そして正解だと腑に落ちれば「じゃあこういうところにも使えるよね」って次に進んでいくことができるので、その探究心が必要ですね。

(編集:松田 七奈/執筆:井ノ上美恵子)


「僕は運が良いんです」と軽く言ってのける岸田シェフはフレンチレストランのオーナーシェフ。岡山市北区に「Aimable」をオープンさせて11年目、日々お客様に喜ばれる料理をと厨房に立ちます。