国際問題に興味があるけれど、ニュースや新聞で見る情報は壮大すぎて、身近に感じにくい。一個人としてどんなふうに向き合ったらいいのか分からなくなったという人も多いはず。規模の大きな社会課題に、私たちができることはあるのでしょうか?
今回は難民問題という世界規模の社会課題に関心を持つりなさんが、日本の難民支援の専門家である田中さんに話を聞きに行ってくれました。
難民受け入れの課題や私たちにできることとは……?!
目次
登場人物紹介
認定NPO法人 難民支援協会 広報担当・ウェブマガジン「ニッポン複雑紀行」編集部。さまざまな形で「難民」や「難民問題」を社会に伝えることに取り組む。
日本の難民受け入れを考える
日本には難民を受け入れる義務がある
1つ目は難民の方への直接的な支援です。日本で難民として認められるために必要な難民認定の手続きのサポートを行います。また、難民の方の中には来日後に持ち金が尽きてしまい、食べるものがなかったり路上で生活せざるを得なかったりする人たちがいますので、そんな方に対して最低限の衣食住や医療を提供や仕事を探すための支援を行ったりもします。 2つ目は政策提言です。難民に関する制度は非常に複雑で、多くの問題があります。この制度を変えていくために国会議員や関係者と交渉することも、大事な取り組みの一つです。 3つ目は、社会の人たちに難民の存在を伝え、かれらのおかれている状況について理解を促すことです。
しかし、日本の難民受け入れ制度は、命の危険があって逃れてきた難民を十分に助けられる制度にはなっていないのが現状です。現行の難民認定手続きでは「誰が難民なのか」という範囲が非常に狭く、その手続きも不透明で公平性に欠けているのではないかと、難民支援協会としては課題に感じています。
難民条約における難民の定義の説明は一つですが、かなり大まかなもので、具体的な基準などを細かく定めているわけではありません。そのため、現実には各国によりその解釈は異なり、結果として「A国では認定となるが、B国では不認定となる」ということが起きていて、日本の認定基準は弁護士や研究者から「国際的には通用しない」と指摘されています。 加えて、難民申請の結果が出るまでに平均で3年ほどかかります。その間の生活をどうするのかという問題もあります。
「日本人」って誰のこと?
私たちは無意識に「日本人」「外国人」という言葉を使いますが、「日本人」の定義を問われると、ちょっと悩んじゃいますよね。髪の毛が黒くて「アジア人」っぽいこと?日本語を話すこと?
日本に住んでいる人の中には、いわゆるハーフ(ミックスルーツ)とよばれる人たちもいますよね。歴史的には在日韓国・朝鮮人の人たちも長く暮らしています。「日本は単一民族の国」だという声も聞きますが、実態を丁寧に見ていくと日本社会が多様な背景の人たちで成り立っていることがわかります。
「日本は私たち『日本人』だけの国」というような認識を実態に即して改めていく、更新していくことが、難民や外国ルーツの人のよりよい受け入れにつながっていくのではないかと思います。
収容施設の問題ってなに?
長期に渡る収容や医療体制の問題など課題は深刻で、国連からも勧告が出ているほどです。収容中に病気や自殺で亡くなった人は、2007年以降で18人いることがわかっています。実は、難民申請中の人たちも収容の対象になる場合があります。
「観光ビザで日本に来たけれど、実は命の危険があり母国から逃れてきた、助けてほしい」という訴えがあれば、難民条約に入っている日本はかれらを保護するために、難民申請の手続きを開始する必要があります。しかし、現実には一旦収容されるいうことが起きています。過去には、到着した日本の空港で収容され、1年以上収容施設から出ることができなかった方もいます。
ほかにもいろいろなパターンがあります。合法的に日本に来たものの、うまく在留資格を更新できず収容されてしまう人や、難民申請をしたものの不認定になり収容されてしまう人などがいます。収容施設の外で生活する人(仮放免)もいますが、「壁のない収容」とも言われ、働くこともできず、生きていくことが難しい状況に置かれています。
人の身柄を拘束し収容することが本当に妥当なのか、人権の観点からもう一度考える必要があると思います。現状では入管が無期限に収容することができるということも深刻な問題です。
難民問題について、今私たちにできること
難民や移民関係で言うと、X(旧Twitter)をはじめとするSNSには特に多くの誤情報・偽情報やヘイトスピーチが目に付くようになってきたと感じます。意識せずにメディアの情報を鵜呑みにすると、知らないうちに偏った考えに陥ってしまうかもしれません。
りなさんは普段どのようなメディアでニュースに触れていますか?
みなさんには様々な情報が錯綜する現代社会の中にいることを意識して、情報を主体的に受け取るようになってほしいなと思います。
移民や難民の受け入れは政治問題化しています。実際の問題は別のところにあるのに、そこから人々の目をそらすために「移民・難民の受け入れが社会の不安定化をもたらしている」と発言しているケースも、残念ながらあるでしょう。
そうした発言が特定の人や集団に何かの責任を負わせるような社会の「雰囲気」を生みだし、それが社会の分断につながるということもあるように思います。だからこそ、「なぜそうしたニュースが流れているのか」と、報道そのものの背景を考えていくことが重要です。
難民の置かれた状況を知り、想像する
しかし、難民問題は人の命にかかわる人道問題です。自分の国を追われ別の国に逃れてきた人たちの命は守られなければいけません。そして繰り返しになりますが、国際社会において難民条約に入っている日本は、受け入れたい・受け入れたくないの気持ちに関わらず、受け入れの義務と責任があるのです。
ですが、理想と現実にはギャップがあります。国内にもさまざまな社会課題があり、リソースは限られている。かならずしも、難民を助けることが他の社会課題の解決を劣後させることにつながるとは思いませんが、社会には取り組むべき課題がたくさんあります。人の命を救う人道問題であることを忘れず、現実をどれだけ理想的な形に近づけるかを考えていけたらと思います。
「そうはいっても遠くの国のことだよね……」と感じてしまうかもしれませんが、ぜひ視点を広げてみてください。私たちの日常は日本国内だけに閉じているわけではないですよね。世界中とつながっています。地球温暖化を例に考えると実感としてわかると思います。実際に、気候変動によって強制移動を強いられるいわゆる「気候難民」も深刻化しています。そう思えば、世界で起きている人道問題が自分たちと無関係ではないということが見えてくるはずです。
「難民を受け入れることで問題が起きるんじゃないか」と懸念する声もありますが、摩擦は当然起こります。絵にかいたような「共生」が初めから実現できるわけがありません。だからこそ、トラブルが起こったときにきちんと対話できる関係性を築くことが重要なんです。
異なる言語や文化の人たちと共に暮らすとはどういうことなのかを考え、ともに変化しながら新たな社会をつくっていくプロセスを重ねる努力を一緒にしていきたいと思います。
自分の立ち位置をいろいろずらしながら考えてみると、「日本人」対「難民」という図式ではないものが見えてくると思います。
(編集:有澤可菜)
日本の難民受け入れ制度に関心を持つ高校1年生。いろいろな国に行き、世界の現状を知りたいと考えている。