難民支援協会の田中さんと考える。日本の難民受け入れと私たちにできること

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公開日 2024.11.08

国際問題に興味があるけれど、ニュースや新聞で見る情報は壮大すぎて、身近に感じにくい。一個人としてどんなふうに向き合ったらいいのか分からなくなったという人も多いはず。規模の大きな社会課題に、私たちができることはあるのでしょうか

 

今回は難民問題という世界規模の社会課題に関心を持つりなさんが、日本の難民支援の専門家である田中さんに話を聞きに行ってくれました。

 

難民受け入れの課題や私たちにできることとは……?!

 

登場人物紹介

★りなさん
日本の難民受け入れ制度に関心を持つ高校1年生。いろいろな国に行き、世界の現状を知りたいと考えている。

 

★田中さん
認定NPO法人 難民支援協会 広報担当・ウェブマガジン「ニッポン複雑紀行」編集部。さまざまな形で「難民」や「難民問題」を社会に伝えることに取り組む。

日本の難民受け入れを考える

日本には難民を受け入れる義務がある

高校1年生のりなです。私は中学3年生の時にオーストラリアへ留学に行ったことをきっかけに、移民や難民について興味を持ちました。田中さんのお話を聞くことができて嬉しいです!さっそくですが、難民支援協会(JAR)とはどんなところか教えてもらえますか?

 

難民支援協会は日本に逃れてきた難民を支援する団体で、大きく分けて3つの仕事があります。

 

1つ目は難民の方への直接的な支援です。日本で難民として認められるために必要な難民認定の手続きのサポートを行います。また、難民の方の中には来日後に持ち金が尽きてしまい、食べるものがなかったり路上で生活せざるを得なかったりする人たちがいますので、そんな方に対して最低限の衣食住や医療を提供や仕事を探すための支援を行ったりもします。

 

2つ目は政策提言です。難民に関する制度は非常に複雑で、多くの問題があります。この制度を変えていくために国会議員や関係者と交渉することも、大事な取り組みの一つです。

 

3つ目は、社会の人たちに難民の存在を伝え、かれらのおかれている状況について理解を促すことです。

難民への直接の支援だけでなく、より根本的に問題解決を目指す取り組みも重要なんですね。日本の難民受け入れ制度についてはどうお考えですか?

 

日本は難民条約という国際条約に加入しています。そのため、たとえ日本の多くの人たちが「難民を受け入れたくない」と思ったとしても、難民を受け入れ保護する責任と義務が日本にはあります。

 

しかし、日本の難民受け入れ制度は、命の危険があって逃れてきた難民を十分に助けられる制度にはなっていないのが現状です。現行の難民認定手続きでは「誰が難民なのか」という範囲が非常に狭く、その手続きも不透明で公平性に欠けているのではないかと、難民支援協会としては課題に感じています。

 

日本では「難民」の解釈がとても限定的だから、本来は難民として認定されるべき人が認定を受けられないという課題があるんですね。

 

課題はそれだけではないですが、日本の難民の定義や迫害の解釈などをめぐる認定基準は非常に狭いと言わざるを得ません。

 

難民条約における難民の定義の説明は一つですが、かなり大まかなもので、具体的な基準などを細かく定めているわけではありません。そのため、現実には各国によりその解釈は異なり、結果として「A国では認定となるが、B国では不認定となる」ということが起きていて、日本の認定基準は弁護士や研究者から「国際的には通用しない」と指摘されています。

 

加えて、難民申請の結果が出るまでに平均で3年ほどかかります。その間の生活をどうするのかという問題もあります。

 

「日本人」って誰のこと?

また、制度だけでなく、日本に住む人たちの意識にも課題があると私は感じています。

 

意識……どういうことですか?

 

りなさんは先ほど、オーストラリア留学に行ったことをきっかけに難民問題に興味を持ったと言っていましたよね。それはどうしてですか?

 

オーストラリアでたくさんの国籍の人たちが一緒に暮らしていることに驚き、「日本にはどうして日本人しかいないのだろう」と疑問を持ったからです。

 

いい着眼点ですね。りなさんの言う「日本人」とはどのような人を指しますか?

 

うーん……。

 

私たちは無意識に「日本人」「外国人」という言葉を使いますが、「日本人」の定義を問われると、ちょっと悩んじゃいますよね。髪の毛が黒くて「アジア人」っぽいこと?日本語を話すこと?

 

日本に住んでいる人の中には、いわゆるハーフ(ミックスルーツ)とよばれる人たちもいますよね。歴史的には在日韓国・朝鮮人の人たちも長く暮らしています。「日本は単一民族の国」だという声も聞きますが、実態を丁寧に見ていくと日本社会が多様な背景の人たちで成り立っていることがわかります

 

「日本は私たち『日本人』だけの国」というような認識を実態に即して改めていく、更新していくことが、難民や外国ルーツの人のよりよい受け入れにつながっていくのではないかと思います。

 

そうか…「日本人」と一括りにしていたけれど、いろいろなルーツがあるはずですよね。それを意識すると見方も変わるかもしれません。

 

収容施設の問題ってなに?

日本に来た難民が拘束されてしまう場所があると聞いたのですが、本当にそんな場所はあるのですか?

 

それは、非正規滞在(オーバーステイ)になったり、国外退去を命じられるなどした外国人を収容する施設のことですね。各地方入管や空港などにある施設に加え、長期間の収容を行う施設が茨城県牛久市と長崎県大村市にあります。

 

長期に渡る収容や医療体制の問題など課題は深刻で、国連からも勧告が出ているほどです。収容中に病気や自殺で亡くなった人は、2007年以降で18人いることがわかっています。実は、難民申請中の人たちも収容の対象になる場合があります。

どういうことですか?

 

海外に渡航するためには一般的にはビザが必要ですよね。でも「難民用ビザ」なんてものはありません。そのため、観光ビザなどで日本に逃れてくる人が大半なんです。すると、ビザと実際の入国目的が異なるということで、入国審査にひっかかってしまうことがあるんですよね。

 

「観光ビザで日本に来たけれど、実は命の危険があり母国から逃れてきた、助けてほしい」という訴えがあれば、難民条約に入っている日本はかれらを保護するために、難民申請の手続きを開始する必要があります。しかし、現実には一旦収容されるいうことが起きています。過去には、到着した日本の空港で収容され、1年以上収容施設から出ることができなかった方もいます。

 

ほかにもいろいろなパターンがあります。合法的に日本に来たものの、うまく在留資格を更新できず収容されてしまう人や、難民申請をしたものの不認定になり収容されてしまう人などがいます。収容施設の外で生活する人(仮放免)もいますが、「壁のない収容」とも言われ、働くこともできず、生きていくことが難しい状況に置かれています。

危険から逃れるために日本にまで来たのに……それは悲しいですね。そうしたケースを減らすには、どうしたらいいんでしょうか?

 

非常に難しい問題ですよね。難民を適切に保護するためには、入国管理とは別に、難民保護に特化した機関が必要だと思っています。収容の問題については、外国籍の方でも人権があるという当たり前をもう一度見直すことでしょうか。

 

人の身柄を拘束し収容することが本当に妥当なのか、人権の観点からもう一度考える必要があると思います。現状では入管が無期限に収容することができるということも深刻な問題です。

難民問題について、今私たちにできること

難民の方に提供する食料。こうした支援組織に所属していない私達にできることとは。

今海外で、難民受け入れに反対するデモが起こっているとニュースで見ました。日本でも難民受け入れに反対する人がいると思いますが、私たちはどう考えて、どう行動するべきなのでしょうか?

 

まず、メディアの情報を鵜呑みにしないことが、私たちにできることの一つだと思います。正しく情報を受け取るために、「どのメディアでどのような立場の人が記事を書いているのか」をチェックする必要があります。

 

難民や移民関係で言うと、X(旧Twitter)をはじめとするSNSには特に多くの誤情報・偽情報やヘイトスピーチが目に付くようになってきたと感じます。意識せずにメディアの情報を鵜呑みにすると、知らないうちに偏った考えに陥ってしまうかもしれません。

 

りなさんは普段どのようなメディアでニュースに触れていますか?

テレビはよく見ますが。新聞はあまり読まないです……。

 

学生の一人暮らしの場合、新聞などとは縁遠くなる人も多いですよね。XやInstagramなどのSNSから、複雑な事象でも過度に単純化された情報のみに囲まれている方もいるのではないかと思います。

 

みなさんには様々な情報が錯綜する現代社会の中にいることを意識して、情報を主体的に受け取るようになってほしいなと思います。

どうしたら、そのようなメディアリテラシーを身に着けることができるのでしょうか?

 

例えば、一つのニュースに関して複数の記事を読み比べてみるのがお勧めです。また、翻訳ツールを活用して、海外での報道を見てみるのもいいと思います。複数の発信者の情報を比較してみると、ニュースが立体的に見えてくるかと思います。

やってみます…!

 

「移民や難民を受け入れることで反対運動が起きている」というニュースに話を戻すと、「反対運動の原因は本当に移民や難民なのか」と、報道の背景にあるものを考える必要があると、私は思います。

 

移民や難民の受け入れは政治問題化しています。実際の問題は別のところにあるのに、そこから人々の目をそらすために「移民・難民の受け入れが社会の不安定化をもたらしている」と発言しているケースも、残念ながらあるでしょう。

 

そうした発言が特定の人や集団に何かの責任を負わせるような社会の「雰囲気」を生みだし、それが社会の分断につながるということもあるように思います。だからこそ、「なぜそうしたニュースが流れているのか」と、報道そのものの背景を考えていくことが重要です。

よく考えないまま社会の分断を生み出す一部にならないようにすることが、まず私たちにできることっていうことですね。

難民の置かれた状況を知り、想像する

日本国内でも、難民受け入れに反対の立場の方もいますよね。

 

そうですね。「日本人だって大変な状況なんだから外国人の生活まで気にかけている場合じゃない」と。

 

しかし、難民問題は人の命にかかわる人道問題です。自分の国を追われ別の国に逃れてきた人たちの命は守られなければいけません。そして繰り返しになりますが、国際社会において難民条約に入っている日本は、受け入れたい・受け入れたくないの気持ちに関わらず、受け入れの義務と責任があるのです。

 

ですが、理想と現実にはギャップがあります。国内にもさまざまな社会課題があり、リソースは限られている。かならずしも、難民を助けることが他の社会課題の解決を劣後させることにつながるとは思いませんが、社会には取り組むべき課題がたくさんあります。人の命を救う人道問題であることを忘れず、現実をどれだけ理想的な形に近づけるかを考えていけたらと思います。

難民問題は人道問題…すごく刺さります。でも、遠い国で起きていることでもあり、イメージが難しい部分もありますよね。

 

難民は日本とは縁遠い話と思いがちですが、私たちが難民になる可能性だってゼロではないんですよ。例えば東日本大震災や福島第一原発事故で故郷を追われた人たちは、難民と重なる経験をしています。地震大国である日本に住む私たちにとって、故郷を追われるという文脈では難民問題は決して他人事ではないんです。

 

「そうはいっても遠くの国のことだよね……」と感じてしまうかもしれませんが、ぜひ視点を広げてみてください。私たちの日常は日本国内だけに閉じているわけではないですよね。世界中とつながっています。地球温暖化を例に考えると実感としてわかると思います。実際に、気候変動によって強制移動を強いられるいわゆる「気候難民」も深刻化しています。そう思えば、世界で起きている人道問題が自分たちと無関係ではないということが見えてくるはずです。

そっか……そうですね。

 

難民の方の話を聞くと、想像すら及ばない経験に言葉を失います。でも、同時に「自分達にも起こりうるかもしれない」と想像することで自分事としてし捉え、私たちに何ができるのか考えていけたらいいなと思います

 

私たちの意識が少しずつ変わっていかないといけませんね。

 

本当に。難民をよりよく受け入れられる社会になっていくためには、私たちにも変化が必要です。

 

「難民を受け入れることで問題が起きるんじゃないか」と懸念する声もありますが、摩擦は当然起こります。絵にかいたような「共生」が初めから実現できるわけがありません。だからこそ、トラブルが起こったときにきちんと対話できる関係性を築くことが重要なんです。

 

異なる言語や文化の人たちと共に暮らすとはどういうことなのかを考え、ともに変化しながら新たな社会をつくっていくプロセスを重ねる努力を一緒にしていきたいと思います。

日本人は内気な性格をしているし、異なる国籍の人に対して思いを馳せるのが苦手なのかなという印象があります。どうしたら克服できるんでしょうか?

 

それも捉え方次第だと思います。日本の難民受け入れをテーマにすれば「日本人」はマジョリティの立場かもしれません。でも、文脈が変われば誰もがマイノリティになる要素を持っています

 

自分の立ち位置をいろいろずらしながら考えてみると、「日本人」対「難民」という図式ではないものが見えてくると思います

なるほど…!「日本人」って誰のこと?という話ともつながりますね。視野を広げて難民問題を見ることで、考え方も少し変わる気がします。

 

大切にしてほしいのは、難民一人ひとりの置かれた状況を知り、想像することです。映画や小説を通じて知ることもオススメです。

 

日本に住むクルド人女子高生が主役の映画『マイスモールランド』は、まさに今回の話に出た状況が描かれていますし、実話を元にしたアニメーション映画『FLEE』は紛争、難民、人種差別、LGBTQ+など現代社会を覆う数々のテーマが内包されています。きっと、これらの作品が、難民のイメージをより鮮明にしてくれるはずです。

観てみます!自分が難民のためにできることは何か改めて考えると同時に、友達や学校の人に学んだことを伝えていきたいと思います。

 

そう言ってもらえると嬉しいです。難民受け入れに正解はありません。制度を変えることで人々の意識が変わっていくかもしれないし、有権者が難民問題により関心を持つことで政治が変わるかもしれません。

田中さん、今日はありがとうございました!

(編集:有澤可菜)

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