フードロスと貧困問題を解決する“コノヒトカン”を広げる・三好千尋さん

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  • #なりたい職業が自分に合っているのか
  • #周りの人を喜ばせる

公開日 2023.09.11

ネイリストから缶詰プロジェクトの代表へ転身という異色の経歴をもつ三好千尋(みよし ちひろ)さん。

一般社団法人コノヒトカンの代表として働きながら三人のお子さんを育てているお母さんです。

 

今回インタビュアーを務めるのは小学校教師を目指している大学生のしおさん。プロジェクトや三好さんが大切にしている考え方、これまでのキャリアを伺う中で「なりたい職業に自分は合っているのか」という働く前の不安への処方箋を彼女は見つけられるでしょうか…?

 

 

【コノヒトカンと三好さん】

★三好 千尋(みよし ちひろ)さん

 

今回のゲスト。ネイリスト、一般社団法人コノヒトカンの代表として働きながら三人のお子さんを育てているお母さん。長野生まれで、結婚後岡山に移住。

食と貧困の課題解決を目指すコノヒトカンプロジェクト

三好さんがされている「コノヒトカンプロジェクト」について教えてください。

 

「コノヒトカン」は本来食べることができるのに捨てられる食品を、長期保存ができ、手軽に食べられるように加工した缶詰です。フードロスと貧困問題の2つの社会問題を解決するために、立ち上がりました。現在はこの缶詰を企業や個人からの支援を募って制作し、子ども食堂や児童養護施設に配布しています。

コノヒトカン画像

混ぜるだけでも美味しく、アレンジも簡単。喜んでもらう工夫がたっぷり!

 

ネーミングには『このひと缶』から始まる絆、『この人感』に詰まった小さな料理、『この日と缶』で過ごす大切な日、『コノヒトカン』で膨らむたくさんの想いなど、たくさんの想いを込めています。

 

 

どうやって「コノヒトカン」は生まれたんですか?

 

実は、もともと缶詰を作ろうと考えていたわけではないんです。新型コロナウィルスが流行しはじめて「お店にお客さんが全く来ない……」と困り果てていた飲食店を営む友人から相談を受けて、私の経営するネイルサロンの前でお弁当販売をしてみたことがきっかけでした。

 

でも「お家でお店の味を楽しんで欲しい」とお弁当にしてみたものの、結局すごく余ってしまって。それが「せっかくの食材や料理を、必要な人にロスすることなく効率的に届けることはできないのかな?」と考える出発点になりました。

 

コロナ禍で困っている方々の思いがスタートにはあるんですね。

 

そうなんです。それから「コロナ禍だからこそみんなでできることはないかな」とプロジェクトを進めはじめました。そして、岡山県の素敵なシェフの方々の出会いから、「お客様の笑顔のために美味しい料理を届けたい」という気持ちを缶詰という保存食に込めて届ける「コノヒトカン」のコンセプトに辿り着いたんです。

 

「周りの人を喜ばせたい」が原動力

三好さんは「コノヒトカン」の活動でどんなお仕事をされていますか?

 

現在は児童養護施設や子ども食堂に「コノヒトカン」を届けるため、企業に支援をお願いする営業活動をしています。「支援していただくには?」「どの施設にお配りする?」など、1から調べて関係性をつくってきました。ESD(持続可能な開発のための教育)団体での出前授業の講師もしています。

営業活動

さまざまな場所で、さまざまな人にプロジェクトへの思いを伝える。

「コノヒトカン」が製品として出来上がるまでは、缶詰をつくる仕組みづくり、ラベルなどのデザイン、プレスリリースなどの広報、それからフードロスやSDGsの勉強と、全て手探りで周りの方の力を借りながら取り組んでいました。

 

調理現場

調理の現場での1枚。協力してくださる地元の方々がいてこそ。

 

三好さんはネイリストだったんですよね。自分の知らないことをする場所に飛び込むことは、怖くなかったんですか?

 

飛び込む前に「怖い」とは思わなかったけど、始まってしまったから後に引けなくなっちゃったというのはありました(笑)。

 

正直、失敗だらけで辞めたくなったことも一度や二度じゃないんです。実際に協力してくださるみなさんに「プロジェクトを辞めたいです」と言ってしまったこともありました。

 

でもシェフの方々が「僕らがレストランでお客様に料理を作れないでいるなか、三好さんが『保存食を作りたい』と言ってくれたことが本当に嬉しくて、僕らにとっての光だったんだ。だから、最後までやろうよ」と励ましてくださったんです。実現まで諦めずにやり遂げることができたのは、みなさんのおかげです。

シェフのみなさん

コノヒトカンに関わる岡山の素敵なシェフのみなさん

周りの人の支えがあったから走り切れた……すごいですね。

 

「自分自身がこうなりたい」という目標は私にはあまりなくて、自分が行動したら「周りの人がどうなるか」しか考えていないんです。人を喜ばせたい、料理長さんたちに喜んでもらいたい。それがずっと自分の糧になってきたのかな。それはネイリストの仕事でも同じような気がします。

 

でも、そういう気持ちに満足はなくて「もっともっと」って思っちゃう。もっと喜んで欲しくて、もっとネイルが上手になりたいって思うからどんどん高い目標が出てきちゃう。「コノヒトカン」でも、「もっとたくさんの人に届けたいな」って思いが次々湧いてくるので、まだ全然プロジェクトが完成したとは思っていないんです。

 

今後はどんなことを目指していこうとしているんですか?

 

私はみんなが「自分の好きなことで働ける環境」を作って、働く中で自己成長がはかれて、「働くってすごく楽しい!」って思える人を増やしたいんです。

だから「コノヒトカン」でも、このアイテムをきっかけに「こんなことがしてみたい!」という想いを持つ人達を増やしていくため高校生社会課題解決アイデアコンテストを開催しています。

 

 

 

第3回を迎える2024年は集大成として、運営に関わる大学生も企画運営を学べる教育プログラムとしてパッケージ化を目指しています。高校生・大学生・大人、誰でも「何かやりたい、関わってみたい!」という人はいつでも大歓迎です。ぜひご連絡ください!

1000缶プロジェクト集合写真

参加した高校生のみなさん。輝いてますね!

【三好さんのキャリアに学ぶ「就職」のとらえ方】

どんどん変わっていく三好さんのキャリア

 

私は小学校の先生を目指しているんです。でも、自分がなりたい姿になれるのか自信が持てなくて…。私が選んだ仕事に本当に私は向いているのか、それを知るヒントが欲しいんです。三好さんがこれまでどうやって仕事を選んできたのか、教えてもらえませんか?

 

私は高校1年生のときからアルバイトを始めたので、それがスタートです。家が裕福ではなかったから「やっと働ける!」って思って、コンビニやピザ屋、他にもいろんな職場を掛け持ちしていました。最初の働く理由はとにかく「生きるため」でした(笑)。

 

高校卒業間近になったころ「ネイリスト」っていう言葉が出はじめたのを知って「この仕事は絶対これから来る!」ってすぐに思いました。でも専門学校の学費が高額で手が届かず、入学はできなかったんです。

 

その学費を稼ごうと思って、地元・長野を離れてずっと憧れていた東京で働くことにしました。

 

それで、すぐに念願が叶って東京でネイリストになれた。

 

いや、それが全然叶わなくて(笑)。東京での生活費を稼ぐのが精一杯になってしまって、ネイリストの学校には入れないまま東京で出会った岡山県の夫と結婚することになりました。長野や東京で働く中でいろんなカッコイイ経営者の人達と出会っていたので、「いつか経営者になりたい」という思いもあったんですけど…。

 

それから岡山県に引っ越してきて主婦をして、3人の子どもに恵まれました。岡山に友達は全くいなかったので、子育てサークルを立ち上げたりしていたんですけど、やっぱりもっと人とのつながりや刺激が欲しくなって。そんなころに「あ、私、東京で〇百万稼いで絶対ネイリストになるって言って地元を出たのに全然叶えてないな」って思い出したんです。

 

それで、32歳のときにようやく専門学校に通い始めました。

 

すごい!お子さんは何歳だったんですか?

 

学校に通い始めた当時は0歳でした。学校卒業後は1年間ネイルサロンに就職して経験を積ませてもらい、翌年に個人事業主として独立しました。もっと人とつながりたくてその頃から異業種交流会にも行き始め、2019年11月にようやく自分のネイルサロンを持てるようになったんです。その翌年に新型コロナウィルスが流行したことで、今の「コノヒトカン」につながっていった。そんな感じのキャリアです。

 

ありがとうございます、「コノヒトカン」の前のネイリストに至るまでにもたくさんの紆余曲折があったんですね!

 

「就職」よりも大きな決断は、たくさんある

 

三好さんのお話を伺っていたら、「就職」ってもっと固定的なものだと考えていたんですけど、そうじゃないんだって思えてきた気がします。

 

学生時代よりも働きはじめてからの人生の方がずっと長いんですよね。だから安心してほしいんです。最初の就職先を決めるのは大きな決断に見えるけど、その後にはもっと大きな決断がたくさん待ってます。だから、まずは思い切ってやりたいことをやってみたらいいんだと私は思いますよ。

 

自分がどこにいたいか、どうなりたいかを決めるのは自分ですから、合わないと思ったらまた新しい場所を探せばいい。最初の決断を大きくとらえすぎなくても、きっと大丈夫ですよ。

 

ありがとうございます。少し心が軽くなって勇気が出てきました!私もいろんなこと、やってみますね!

 

はい、「コノヒトカン」でもやれることはたくさんあります。いつでも頼ってくださいね。

待ってます!

広がっていくコノヒトカンプロジェクト。「何かやりたい!」という人はぜひ!

(編集:横山麻衣子、北原泰幸)

 

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