行き場のない15歳以上の子どもたちの心と生活をサポートする

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公開日 2022.12.28

社会にある問題を様々な手法で解決しようと取り組んでいる人たちがいます。この記事では、認定NPO法人子どもシェルターモモさんが解決したい問題とその解決方法について、紐解いていきます。

 

西井 葉子さん

平成24年に認定NPO法人子どもシェルターモモへ事務局として入職。社会的養護を経験した子ども・若者を支援する「アフターケア事業」にも携わる。

 

易 美里さん

1963年生まれ。学生時代に教育実習で一人の少年に出会い、思春期の心のケアに関心を寄せる。「人が問題ではなく問題が問題だ」をモットーに2022年4月より子どもシェルターモモで主にアフターケアに携わる。

 

 

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解決したい問題

家庭で生活できない子どもを守り、自立をどのように支えるか

 

――初めに、認定NPO法人子どもシェルターモモ(以下、子どもシェルターモモ)の活動について教えてください。

 

児童養護施設という施設をご存じでしょうか。

 

児童養護施設は、さまざまな事情で自分の家で暮らせない子どもたちが生活する施設です。児童養護施設は基本的に18歳までの子どもが利用できます。私たち運営する子どもシェルターや自立援助ホームの対象はおもに、15歳からおおむね20歳のさまざまな事情で自分の家で暮らせない子どもです。

 

子どもシェルターモモでは、子どもシェルターを1か所、自立援助ホームを2か所、アフターケア相談所を運営しています。子どもシェルターは、虐待などの理由で、家庭で生活ができない子たちが緊急避難して、しばらくの間、心を休め、安心できる場所として運営しています。自立援助ホームは、子どもたちが共同生活をしながら自立に向けた準備をするお家です。アフターケア相談所は、自立援助ホームなどを退所したあとも生活支援や、学習支援、就職支援などのサポートをおこなう場所です。

 

――子どもシェルターと自立援助ホームについて、詳しく教えていただけますか?

 

はい。子どもシェルターである「子どもシェルターモモの家」は、緊急避難のための女の子用のお家です。
「今すぐ助けてほしい」と思っている子どものための緊急避難場所なので、住所は公開していません。民家をお借りしてシェルターとして運営していて、定員は5人です。間取りとしては、子どもの居室として1人1部屋を用意していて、台所やリビングなど生活できる環境を整えています。

 

自立援助ホームは、男の子用の「自立援助ホーム学南ホーム(以下、学南ホーム)」と女の子用の「自立援助ホームあてんぽ(以下、あてんぽ)」があります。どちらも定員は6人です。こちらも民家をお借りしていて、子ども1人に1部屋の居室があり、リビングなどの共有の部分もあります。

 

子どもシェルターも自立援助ホームも、24時間365日職員の誰かが交代で勤務しながら常駐しています。ご飯を作ったりお話ししたり、子どもたちと一緒に生活していますよ。
子どもシェルターは子どもたちが心や身体を休める場所という位置づけですが、自立援助ホームには自立に向けて仕事をしたり学校に行ったりして、自立に向けて活発に動いている子どももいるという違いがあります。

 

 

問題の背景と現状

法や制度の隙間を埋める子どもシェルターの立ち上げ

 

――子どもシェルターや自立援助ホームを立ち上げた背景には、どのようなことがあったのでしょうか?

 

子どもシェルターが初めてできた場所は東京なんです。児童養護施設の対象や児童福祉法の適用が「18歳まで」である一方で、最近まで成人となるのは「20歳」でした。未成年の18歳や19歳の子で「家にいられない」「家でつらい思いをしている」という子たちが、助けを求める場所がなかったんですよ。

 

日本は親の権利が強いんです。子どもが家出をすると、その子の親がどんな親であろうが、家に連れ戻されることが多い。いくら子どもが「虐待されてるんだ、もう逃げたいんだ」と声を上げても、親権という法にもとづく権利があるので、警察も周りの大人たちが「親元に帰りなさい」と言って強制的に帰されるという空気感がある。そんななかで「子どもにも権利はある」ということを見直す流れが生まれました。子どもたちを守るために、子どもシェルターが最初に東京で立ち上がり、全国で4番目に子どもシェルターモモが立ち上がったんです。

子どもシェルターモモ理事長の東弁護士は、少年事件の付き添いや弁護をしていました。15歳以上の子たちの行き場がないことに対して、どうにかする方法はないかと模索していたなかで、子どもシェルターという存在を知ったそうです。

 

既に東京で立ち上がっていたカリヨン子どもセンターの弁護士を岡山に招いて、勉強会をしようと企画しました。勉強会の会場には思いのほか人が集まって、「このことに関心のある方は結構いたんだな。岡山でも立ち上げねばならん。」となったのが子どもシェルターモモの立ち上げのきっかけです。

 

子どもシェルターモモが立ち上がろうとしていた時期は、岡山県内に自立援助ホームもまだなかったんです。シェルターは緊急避難場所です。一時的に逃げられても、その次のステップを考えると、長期的に生活をしながら自立のためにお金を貯めたり、家事を学んだり自分で生活するための心構えをしたり、いろんな準備をしなければいけない。それを担うのはシェルターではないので、自立援助ホームも必要だという声も上がりました。

 

そこから、子どもシェルターモモはシェルターと自立援助ホームの両方を立ち上げることになり、初めに準備が整った男の子用の自立援助ホームからオープンさせたという流れです。

 

子どもシェルターはまだ不足している

 

――子どもシェルターモモさんの立ち上げ期から、子どもシェルターは増えているのでしょうか?

 

子どもシェルターは、まだ全国に十数か所しかありません。運営面や経営的な難しさからなかなか数が増えませんが、全国的に必要とされています。

 

自立援助ホームは、岡山では今、子どもシェルターモモ以外に4法人が自立援助ホームを運営しています。岡山市に1つ、倉敷市に1つ、津山市に2つありますが、まだまだ足りていません。

 

認定NPO法人子どもシェルターモモさんの解決方法

子どもを尊重する関わり方

 

――自立援助ホームでは、子どもたちはどういう過ごし方をしていて、職員はどのように関わっているのでしょうか?

 

アルバイトで働いている子もいれば、高校生や大学生などの学生もいたり、外に出かけている子もいれば、ホームにいる子もいるので、過ごし方はさまざまです。

 

職員の関わり方としては、子どもたちが共有スペースにいるときに、ご飯を一緒に食べたり、お話ししたりしています。朝ご飯と晩ご飯は職員が作っています。一緒に食べることもありますが、子どもたちそれぞれの生活リズムがあるので、ホームによってバラバラです。病院に行くとなれば一緒に通院し、仕事を探すとなればハローワークなどに同行します。学校関係だと、私たちは保護者の役割もあるので、保護者懇談会に参加することもあります。

 

職員は、子ども6人分のこうした仕事に対応しなければなりません。職員だけでは手が足りないので、ボランティアの方などたくさんの人の力を借りながら運営しています。

 

時間をかけて子どもたちに経験と自信を

――子どもたちに関わるなかで大切にしていることはありますか?

 

子どもたちと「一緒に過ごす」ことを大切にして、人と人との信頼関係を構築していくプロセスを意識しています。

 

信頼関係をつくっていく経験が薄い子たちも多いんです。発達の特性がゆえに人間関係でつまづいたり、親子関係でしんどさを感じたり、本当にいろいろなものを抱えた子たちが利用しています。全員ではないし、全部というわけではないけど、親から教えてもらうようなことや、普段の生活の中で身に付けるようなことが、がさっと抜け落ちている。経験してないんだろうなと感じる子が多いんです。丁寧な関わりは、なかなか難しいけど大切にしていることです。

 

「自分の誕生日祝ってもらったのは初めて」「褒められたことがない」みたいな子たちもいます。気持ちや思い、希望を声に出せない。そうしないことが当たり前。そんななかで過ごして生き延びたことは、本当にものすごいことだと思う。

 

けれど、自分の気持ちや思いを発して受け止めてもらう経験をしていないと自信は持てないと思うんです。その子たちが失ったその機会を取り戻すことはできないし、時間はかかるかもしれないけれど、日々のなかで、なにか一つ「今日楽しかったな」とか「なんか人っていいな」と思ってもらえるような生活を積み重ねるお手伝いをしていきたいです。

 

――子どもシェルターモモさんの活動に、大学生や高校生が関わりたいと思ったら、どのような関わり方がありますか?

 

まずは、学生さんたちに興味を持ってもらうということが大事だと思っています。私たちの活動を知ってもらいたいと思う一方で、伝える難しさも感じているんです。学生さんたちに伝わりやすいように、SNSを活用して広報を助けてもらえたらとても嬉しいです。

 

利用したいという子が自分でインターネットで調べてきてくれたり、つらい思いをしている子の友達が調べて繋いでくれたりすることがあるんです。こうした機会を増やすためにも知ってもらうことは大切だと考えています。

 

(編集:森分志学)

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