持続可能な社会をどうやって実現するのか。私たちに課せられたとても大きな問いです。そうしたなかで、動物の肉に頼らない食事として、大豆ミートが注目されています。今回は、サステナブルな社会をつくるための事業を研究・開発している岩舘さんからお話を伺いました。
目次
登場人物紹介
1987年千葉県松戸市生まれ。父親の仕事の関係で小学校の大半をアフリカのケニア・ナイロビで過ごす。途上国の危険を目の当たりにする一方、人々・大自然との触れ合いが原体験となる。大学時代にはバックパッカーでインドを何度も巡り、途上国に関わる仕事がしたいと就活の際には国際協力機関を受けるも採用されず。切り口を変えて食品企業に応募、首の皮一枚で業務用食品メーカーに採用され2010年に就職。環境負荷削減、サステナブルな食のライフスタイルを広めるマーケティングや研究企画に携わり、間接的に途上国の抱える課題解決に貢献できるよう仕事に取り組んでいる。
サステナブルな社会を目指して
食品素材メーカーの挑戦
油はクリームになったり、油とカカオを組み合わせてチョコレートになったりで、アイスクリームにコーティングできる特殊なチョコレートが私たちの得意分野だったりします。
私が一番関わってたのは大豆で、大豆からタンパク質の部分を取り出して、一番皆さんになじみのあるもので言えば、筋肉をつけるプロテインパウダーになったりします。最近では、大豆に熱をかけてポップコーンみたいに加工すると、大豆のお肉になります。
動物のお肉は、その生産過程でかなりの量の水やエネルギーが必要なんですけど、大豆はそういう環境負荷が低いのにタンパク質が豊富なので、未来の食の希望として今期待されているのです。この大豆ミートを「いかにおいしく普及させるか」という仕事をしていました。
2030年に水が枯渇する地域があるとも言われているので、食品も水をできるだけ使わない形で、栄養価の高くて美味しいものをっていうミッションになってるんですね。
未来創造研究所のミッション
そこで、壮大でつかみ掴みどころがないかもしれませんが、2050年の未来に向けて何が起きるかという未来年表を作っています。世界の人口動態がどうなるか、穀物がどのくらい、いつまで問題なく採れるかなど、色々な項目で未来年表を作っています。そこから何の研究をやるべきかを練って、研究企画計画表を作成します。
世界で使われている量の約7割が西アフリカに依存しているのですが、この地域は気候変動リスクが高く、2050年を考えると、カカオが採れにくい場所になりそうという報告もあります。
また、西アフリカのガーナとコートジボワールは森林破壊や貧困の問題も抱えていて、カカオ農家の多くは1日1ドル以下の生活を送っています。全世界のカカオ企業・チョコレート企業が一生懸命支援してるんですけど、まだまだ解決しないんですよね。やはり、西アフリカの負担を減らすことが必要で、そのために何を研究すべきかを今考えています。
岩舘さんのお仕事
研究と消費者のニーズをつなげる
例えば、2050年に気候変動によって生産適地がどう変わっていくのかを、IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の予測をベースにしたり、日本の気象庁の情報とか見たり、カカオセクターと呼ばれるチョコレート生産に関わる国際グループの人たちの予測や対応策などをバーッと調査したりしています。
あとは社内調査ですね。社内の中でチョコレートに詳しい人やチョコレートの研究してる人にヒアリングして、うちの中にどんな強みがあるのかを整理します。未来の情報と今の社内の情報を組み合わせて、今から○○をすべきというストーリーを作っていきます。
大豆ミートを広める!
例えば、これまで私たちは大豆プロテインをスポーツドリンクの会社に売っていたのですが、将来のことを考えて、環境負荷の低い大豆を食べる新たなライフスタイルとして「たまには牛肉とかじゃなくて大豆のお肉を食べよう」「週に一回はベジタリアンやってみよう」という市場トレンドの浸透に力を入れていくことにしました。
オシャレなテーブルを用意して、大豆でトンカツやカツサンドを作ったり、豆乳からチーズを作ったりしました。それで「美味しい!」と言ってもらってテレビに出てたり。
あとは、デパ地下のお惣菜屋さんで、「これだったら週に1回くらいはベジタリアンになっても全然大丈夫」と言えるクオリティの大豆唐揚げや豆乳のグラタンを期間限定で売って、お客さんの反応を直接聞いたりしました。楽しかったですね。BtoB企業で一般の消費者の方と接点がなかったので、外に出て行ってお客さんとコミュニケーション取れたのもよかったです。
岩舘さんから見える世界
ビジョンを持ちながら現実に立脚する
ビジョンを持って仕事することが大事なんですけど、これに加えて、ビジョンを持ちながらも今の現実に立脚するということがすごく大事だなと思っています。
マーケティングの部署にいた頃は、ビジョンや理念をもとに「会社を変革するためには○○をしなきゃダメだ」と社内に訴えながら、今まで会社がやってなかったようなことをグイグイやっていました。でも、現場の人たちの理解がなかなか得られなかったんですね。「大事なのは分かるけど、そんなこと今やる必要ある?」とか「そんなことやったら現業のお客さんが離れちゃうじゃない」とか。未来のことを言ってるマーケティングの人達と、現場を支えている人たちに溝があったんですよね。
私たちが今いる現在地をしっかり認識して、地味だけどそこから丁寧にコミュニケーションを積み上げてていくこと、「ここに行くためにはこういうふうなステップアップを踏めばこっちに行けるんだよ」と、非現実的な話をしていないことを説明していくこと。当たり前なことなんですけど、こういうことが大事だと改めて分かって、今はそれを大事にしています。
なので、CSRや他の部門とうまく連携しながら、「私たちは2050年に向けて今こういうことをしてるけど、現業にもこういう問題があって、これをやっていかなきゃいけないのでうまく役割分担をやっていきましょう!」という動きは必要になってくるかなと思いますね。
ビジネスとしてのサスティナビリティ
なかなか矛盾する部分もあったりして難しいんですけど、それを実現するためのビジネスモデルを考えられるようになった方が合意が取れますよね。
岩舘さんは何をつくっている人か
研究員の方々は、理系で科学の知識が豊富なんですけど、科学の世界で革新的なものが、必ずしも生活者の私たちをハッピーにするとは限りません。なので、私たちの生活や文化、価値観と科学をつなげる、翻訳できる人になれるように頑張っています。
ときに科学は暴走して、人々を不安にさせることもあると思います。とくに食品は口に入れるものなので、科学的に優れていても、仮に安全が証明されていたとしても抵抗感を覚えてしまう技術もあると思うので、そういった部分をつないで、2050年に美味しい食を届けられる世界をつくっていきたいと思います。
(編集:森分志学)
※本記事は、2021年9月28日に行われた大学生対象イベント「生き方百科ずたんっ!#05」内でのトークセッション内容を記事化したものです。