手話放送が世界から賞賛される地方メディア・岡山放送

  • #放送
  • #地方から世界へ
  • #地元にはどんな働き方があるか

公開日 2026.03.12

手話がついているテレビ放送があります。一般的には手話放送はまだ数少ないですが、岡山放送(OHK)では手話放送が増えているのです。そこには、情報アクセシビリティ推進部という存在が!情報から誰一人取り残さない社会を目指すアイデアが世界から注目を集めてます。

 

手話放送を牽引するアナウンサー兼情報アクセシビリティ推進部部長の篠田吉央さんに、大学生の松田さんが2回に渡ってお話をお伺いさせてもらいました。

登場人物紹介

★篠田吉央さん
岡山放送のアナウンサーであり、情報アクセシビリティ推進部部長も務める。アナウンサーの仕事だけでなく、様々な手話表現を追求した番組づくりをプロデュースしている。

 

★松田さん
大学で手話サークルに入っている。岡山放送(OHK)さんが手話放送に力を入れていて注目されていることを知り、取材に臨む。

 

世界から賞賛された「岡山モデル」

ろう者と番組をつくるための手話放送委員会

篠田さんはアナウンサーでありながら、新しくできた「情報アクセシビリティ推進部」の部長なんですよね。耳慣れないのですが、どのようなことをする部署なのですか?

 

情報アクセシビリティとは、年齢や障がいの有無に関わらず、誰もが必要な情報に簡単かつ自由にアクセスし、利用できることです。1993年から手話放送を続けてきたOHKでは、2022年に「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」が制定されたことを受けて、部署を立ち上げました。

 

岡山放送さんの手話放送の取り組みは、世界的にも注目されていると伺いました。

 

岡山放送の手話放送は「岡山モデル」と呼ばれ、国際賞「ゼロ・プロジェクト・アワード」を2022年と2024年の2回受賞しました。岡山放送は今、「世界の岡山放送」になっているのです。

 

どのような点が評価されているのでしょうか?

 

岡山放送ではろう者や手話通訳者と「OHK手話放送委員会」を立ち上げて、放送の手話表現を検討しています。ただ手話通訳してもらうのではなく、当事者と一緒に番組を作るのです。

 

手話放送委員会があったからこそ生まれたニュースの一つが、コロナ禍のマスクです。「今日の会議なんかうまくいかないな」と思った時、みんなマスクをしていた。これでは、口の形や表情が読み取れません。同じように、手話通訳者がマスクをしていると手話通訳が届きにくいことが分かり、全国に先駆けてこれをニュースにしました。

 

すごい!

 

総社市の記者会見では、市長の横に手話通訳者がモニターに映っています。当時、通訳者がマスクをしなかった場合、感染リスクが高いだろうという声がありました。それをクリアするためにテレビの技術を活用し、リモートで手話通訳をするモニターを導入しました。これも岡山モデルの一つです。

 

これが評判良く、今では岡山県知事の記者会見でも導入されています。ろう者と一緒に番組作りをしているから気づける、当事者の視点で切り取れる特長があります。

記者会見に遠隔で手話通訳を

手話協力として企業協賛を集める

ある放送を観ていたら番組内だけでなくCMにまで手話がついていたのでビックリした記憶があります。

 

日本中のテレビ局を見ても、CMに手話がつくことはないと思います。これは、地域の企業が手話放送を応援してくださっているから実現していること。他局からも問い合わせがあるぐらい、貴重な事例なんです。

 

どうやって企業協賛を集めているんですか?

 

手話放送に協力いただける企業・団体に対し「手話協力」として社名などを表示する方法です。テレビ画面に映る手話通訳者の横に企業名が表示されます。手話放送を続けていくためには、経費もきちんとまかなえる持続的な仕組みを作ることが私達の責任だと考え、この方法に至りました。

 

手話実況は岡山放送の真骨頂

手話実況は、岡山放送の真骨頂だと世界で言われています。スポーツ実況では、目の前で起きていることがいかにすごいかを伝えるために選手個人や歴史の情報を入れたりと、長年のノウハウが蓄積されています。

 

こうしたスポーツ実況を手話でできないかと考え、私たちは「OHK 手話実況アカデミー」を立ち上げました。全国からろう者を集めてアナウンスの研修を行い、手話実況ができるろう者を育てています。

 

スポーツの手話実況はなぜ始まったのですか?

 

ろう者の方々から「スポーツは見るものじゃなくてするものなんです」と言われて、驚いたことがあります。「だって観ても面白くないじゃないですか」と言うんです。

 

そこで、「記録への挑戦や人間ドラマを伝えたら面白い。試しに手話をつけてみよう」と提案しました。あの時の彼らの喜んでいる顔は忘れられません。美味しいものを食べたり、おしゃれな服を着てるのと同じように、ろう者がスポーツを楽しめる世界を作りたいと思いました。

OHK手話実況アカデミーでの勉強会

スポーツ実況に限らず、画面上での手話表現はろう者にもしてもらっています。ろう者の言葉である手話が仕事として社会で発揮され、収入を得てほしい。そのお金でおいしいものを食べたり、彼らが社会とつながり、循環する仕組みを作っています。

 

あらゆる人のためのテレビ局に

聞こえる・聞こえない関係なく、一緒に楽しむために

私たちは、情報を届けきることが大事だと考えています。その情報は、市役所や病院で見る手話のような情報保障は当然として、「楽しい」や「美味しい」という情報をみんなで共有したいのです。

 

「新商品が出ました」「今、桜が綺麗に咲いてます」と、みんなで楽しめる情報に、みんなが触れられるようにすることがローカルメディアとしての重要な役割だと思っています。必要な地域の情報を、必要な人たちに丁寧に届ける会社でありたいと。

 

それがあらゆる人に「届けきる」ということなんですね。
手話放送は、ろう者に限らず健常者にも影響を与えました。聞こえない人も聞こえる人も一緒に楽しめるような放送が実現されています。「For Deaf(聴覚障がいのある方々のために)」で始まった手話実況が、今では「TV For All(あらゆる人のためのテレビ)」になっていく流れを感じています。

 

すごいですね。30年間の取り組みの中で一貫して大事にしていることはなんでしょう?

 

手話を画面に出すということは、「テレビの前のろう者と一緒にテレビを共有しています。あなたのことを忘れないよ。」という私たちのメッセージです。それが、情報から誰一人取り残さないということです。

 

岡山放送さんの思いの強さを感じます。今後の展望を教えてください。

 

手話をきっかけとして、いろんな人たちに情報を届けられることを目指していきたいと思っています。 たとえば視覚障がいです。社員の名刺に点字が入っていたり、アナウンサーがコミュニティペーパー*を音声にして届けていたりします。

 

*コミュニティペーパー:地域紙やフリーペーパーなど、特定の地域やコミュニティを対象に発行される無料の新聞・冊子

 

情報が届かない人のために一生懸命届けようとすると、結果的に全ての人につながっていく。テレビ局本来の意義に還元されることを体感しています。だから「手話放送部」ではなく「情報アクセシビリティ推進部」なのです。

 

地方から、世界のどこにもないものを生み出す

最後に、篠田さんから若い世代に向けて一言いただけたらと思います。

 

困っている人たちに、今までにないアイデアで喜んでもらえる。それが仕事としてできる。こんなに嬉しいことはないと思います。

 

仕事をする時、どうしても大きなことをしたいと思いがちです。華やかな芸能人と一緒にスタジオに出るような都会のテレビ局の世界と、地方は少し違います。逆に言うと、地方だからの視点で、世界のどこにもないものを生み出して、社会に役立てる可能性があるわけです。こんなに面白いことはない。

 

地方から世界へ、ですか。

 

世界中の人が「オカヤマブロードキャスティング」と呼んでくれたり、日本だけでなく、海外から話を聞かせて欲しいと問い合わせが来る。岡山放送に入っていなかったら、できなかったと思います。

 

私はアナウンサーになりたくてテレビ局に入りました。その根本は「伝えることがしたい」なのです。今は音のない世界で伝えていますが、音声を使わないとアナウンスではないのかというと、そうではないと思います。つまり、「情報を届ける」アナウンサーという気持ちは変わらないわけです。

 

お聞かせいただき、ありがとうございました!

 

(執筆:森分志学)

TOP