山陽新聞記者の小川さんに聞いた「就活を前に夢が揺らいだ経験」と「その先で見つけた未来」

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公開日 2025.07.10

「作家志望だった自分が迷い流れ着いたのが、今の仕事です。でも、仕事を覚えるうちに“自分の能力を活かせる仕事”だと感じるようになりました」

 

作家になる夢を一度保留にし、地元新聞社に就職した小川耕平さんは、こう語ります。

 

似通った境遇で就活と向き合っているみなほさんが、揺らぐ夢との向き合い方や、夢とは異なる「記者」という仕事で得られた経験について、小川さんに聞いてきました。夢を追うか、現実的に就活をするか。夢とどう折り合いをつけるのか。悩める人に届いてほしい、葛藤を見つめるとことんトークです!

 

登場人物紹介

 

★小川耕平(おがわ こうへい)さん
山陽新聞の報道部で活躍する記者。入社7年目。学生時代は小説家志望で、雑誌の新人賞にも応募経験がある。

 

★みなほさん
岡山県内の大学に通う3回生。現在就活ではマスコミ業界を志望中だが、作家や漫画家になりたいという思いも胸の内に秘めている。今は夢を「諦める」べきなのか?それとも?

 

 

夢と現実の狭間で揺らいだ経験

作家志望だったものの、現実が見えて揺らいだ就活期

 

山陽新聞社の小川です。よろしくお願いします。関東の大学に進学したのですが、もともとは岡山県の出身で、就職を機にUターンで岡山に戻ってきました。記者としては中堅のポジションで、報道部という多分野を取材する部署で岡山全県を取材しています。現在29歳です。

 

小川さんは、新人賞への投稿経験もあり、就活を始める前は作家を志望されていたそうですね。

 

はい。小説を読むのが好きで、中学2年生くらいから大学2年生くらいまで、受験に専念していた高3の時を除いて、だいたい毎年応募していました。何も起きなかったんですけど(笑)。

 

実は私も作家志望で、新人賞への応募経験があるんです!同じく私も何も起こらずだったのですが(笑)。小説は、どのようなジャンルで書かれていたんですか?

 

SFのような、ちょっと不思議な世界を描いていました。中高生のときの僕は、「大学に通うころには賞を受賞していて、自分は将来作家になるだろう」という、思い込み、意識みたいなものを持っていたんです。

 

でも、大学2年生か3年生くらいの頃から、なんだろうな……ちょっとずつ「このままで良いんだろうか」「本当に自分は作家になれるんだろうか」と不安を抱くようになったんです。中高生の頃と比べて読書量は減りましたし、賞も受賞できないままで、現実が見えてきて思い描いていた将来像が揺らいでしまって。

 

一方で、他にやりたいことがあるわけではなく。そこで、就職するにしても文章に関わる仕事をしたいと思い、出版社やマスコミ業界に興味を持ちました。

 

小川さんのご経験、すごくすごく共感します。私も作家以外は考えてこなかったんですけど、新卒のこのタイミングまで来たら、「いったん作家は諦めないといけないかな」と思って、就職活動をしているんです。もしよければ「就活をしよう!」と決めたきっかけを教えてください。

 

大学2年生のときに書いた作品で、賞を取れなかったんです。そこで、執筆活動に身が入らなくなってしまって。「就活が終わったら作家活動をまた再開しよう」と思っていましたが、就活のあとは卒論、そのまま就職とバタバタと過ぎていってしまい、全然再開できませんでした。

 

だから、今の自分にとっては、夢は「諦めた」というよりも、「保留」にしている状態なんです。

 

うわ〜、本当に今の私の気持ちに近いです。でも、今は新聞記者として文章を書く仕事をしていますよね。大学生のときより書くスキルが絶対上がっているはずですし、あらためて小説の執筆にチャレンジしようとは思わないんですか?

 

そうですね。たまにあるんですけど、なかなか長続きしないなというのが正直なところです。今振り返ると、高校生くらいの頃が一番パワーがあったように思います。

 

たしかに、そうですね。自分も高校生の頃の方が良かったような気もします。

 

 

就活をしながら徐々に、記者の道へ

私も「書く仕事をしたい」と思っているので、就活先にマスメディアを選んでいるんですけれども、小川さんが就活をするときに「これだけは譲れないな」というものはありましたか?

 

正直、僕は作家志望だったのに揺らいだ結果として今の仕事に流れ着いたみたいなところがあるので、そこまで強い就活の軸は持っていませんでした。

 

でも、山陽新聞のインターンシップを受けたときには「ビビッ」と来る良い印象があって。一次試験でも、僕の感覚ではよく盛り上がったんです。当時は東京の会場で試験を受けたんですけど、本社の人事の方と後日話す機会もいただけて「ここから内定がもらえたら嬉しいな」という気持ちが、どんどん湧き上がっていきました。

 

私も合同説明会やインターンを経験中なので、その「ビビッ」とくる感覚、わかります。

 

でも、冷静に見るべき部分ももちろんあるんですよ。

 

みなほさんがマスコミ志望だというのはすごくいいと思うんですけど、マスコミの仕事はやはり多忙ですから。今の時代まったく休みが取れないなんてことはありませんが。会社によって休みの形態なども異なりますから、よくよく調べてみてください。

 

山陽新聞社は僕にとって良い会社でしたが、ほかの人にとってどうかはわかりません。「自分にとって良い会社かどうか」を考える冷静な部分も持って就活を進めてくださいね。

 

「勉強の連続だ」と語る小川さんの記者の仕事

支局・部署異動を繰り返して専門性を積み上げる

小川さんが山陽新聞社に入社して、初めて書いた記事のことを教えていただけますか?

 

恥ずかしながら、あまり記憶していないんです。取材した次の日には紙面に掲載される記事を「ストレート記事」というのですが、おそらくはじめはそうした記事だったと思います。

 

ちなみに、新聞記事の左端に初めて自分の署名が載ったのは2018年5月のことでした。

 

 

それって入社1ヶ月後ですよね。デビューって早いんですね!

 

すぐでしたね。ゴールデンウイークまで研修があって、ゴールデンウイーク明けの週からは現場で先輩と一緒に現地取材をしながら、記者のノウハウを教えてもらっていきました。だから最初の記事は先輩と一緒に取材に行って書いたものだと思います。でも、僕の場合は先輩の同行は4回ほど。その後は一人で取材に行っています。

 

それからこれまで、どんな部署でどんな仕事をしてきましたか?

 

最初の二年半を本社で過ごした後、勝英支局という美作、勝央、奈義、西粟倉をカバーする支局へ行きました。支局には、選挙の動向を取材するという大きな役割があります。そこで地域の方との関係作りを学びましたね。皆さん本当に良くしてくださいました。

 

いろいろなことを発信するのって楽しいですよね。その後は?

 

また本社に戻り、今度はまち取材班という商店街での取り組みなどを報じる部署に配属になりました。ここも、地域の人との繋がり作りが大切な部署でしたね。

 

そして今は報道部にいて、長期連載の専門チームにいます。それまでは月に20本くらい記事を書いていましたが、今の部署に来てからは3ヶ月に1本くらいのペースになっています。

 

3ヶ月に1本!月20本書いているときと、どちらが忙しいんですか?

 

微妙なところですね。今は1月にスタートする長期連載の記事を書き始めたところなんですが1本にかける取材や準備など、作り方が全く違うんです。連載の流れを整理したものを作った上で、それについて上司とやり取りを重ねて、さらに記事をブラッシュアップしながらどんどん改良していきます。

 

月20本記事を書くのは毎日書き上げる仕事なので、取材した内容を1、2時間で書き上げなければなりません。修正時間を合わせても3、4時間しか時間をかけられないんです。一方で、長期連載の専門チームでは、1本の原稿に本当に何週間もかけます。

 

百聞は一見に如かず

今こうしてインタビューにチャレンジしていて、「やっぱり友達と話すのとは違うな」と難しさも感じています。聞き方のコツって何かあるんでしょうか?

 

僕は、「面白がる」という意識がすごく大事だと思ってます。やっぱり相手に関心を持っているからこそ、質問が思い浮かんでくるものなんですよね。

 

やっぱり、自分が知りたいから質問が出てくるというか、自分の体験していないことだからこそ興味が湧いてくるというか。自分の体験しないことって、おもしろいじゃないですか。相手にしかない人生があって、それを追体験しているみたいな。そういう意識になれたら質問はどんどん出てきますし、それでしっかり相手とコミュニケーションが取れたら、相手の人物像がわかってくるんです。

 

なるほど〜。

 

先ほどお話しした長期連載でも、チームで半年ぐらいかけて濃密な取材を行います。不登校や虐待を扱うような重いテーマの中で、取材対象の子どもに「経緯や心境をいかに語ってもらうか」というところが大事なんです。

 

そのような取材の仕方にはコツがあるのでしょうか?

 

 

そうですね。相手個人に対して話を聞きたいときは、柔らかく、腰低く、オープンな雰囲気で聞くのが良いですね。逆に、行政など公的な立場のある方々のお話を聞くときは、話題について予習して、ポイントを押さえた上で質問を考えていくと上手くいきます。もし裏側の話が聞きたいなら、個人的にお話を聞きに行くっていうのもありですよね。

 

裏の話!個人的なつながりを作っていく必要もありそうですね。取材でうまくいかないことはありましたか?

 

ありましたよ。駆け出しの頃は「再取材」をよくしました。

 

たとえば、県北にいた頃に年頭所感の企画として市長や町長にインタビューに行ったんですよ。初めてで町のことをよく知らないまま漠然としたことを聞いてしまって・・・。「もう1回ちゃんとポイント押さえて取材してこい!」と先輩に言われて、再取材をお願いしました。

 

取材するための準備だけでも忙しいですよね。日々業務に必要な勉強が増えていったら、どんどん忙しくなっていきませんか!?

 

そういう面もありますが、行政の仕組みは、特に経験がものをいいますね。

 

「一般質問」や「補正予算案」という言葉をニュースで聞いたことがありますか?ああいった議会の流れや仕組み、実際の市民生活に繋がるまでの流れは、間近で実際に見てみないとわからないんです。僕も実際そうでした。

 

でも、地方の議会を見て、「議会ってこういう流れなんだ」というのが掴めてくると、村でも市でも国でも流れは全部一緒なので、応用がきいてきます。だから、ちょっとずつ経験を重ねて勉強もしていくことで、これまでなんとか対応ができてきました。

 

私は元々政治が好きなので勉強しているんですけど、知らない言葉を調べようとしたら、もっと知らない単語が出てくるんです。小川さんは難しく感じませんでしたか?

 

「百聞は一見に如かず」ですね。勉強して知った段階と、実務で1度経験した後では理解に雲泥の差がでるんです。だから、記者って最終的には体当たりなんですよ。

 

度胸や勇気がいりそうですね。

 

いります。行政の記者会見は、今でも緊張しますね。

 

僕は県北にいた期間が長く、記者クラブに所属した経験が少ないんです。それもあってか、半年ほど前に記者会見に行ったら、やっぱり声が震えてしまいました。こちらの質問意図があんまり伝わらず、先輩から「こういう聞き方だったら相手も答えやすかったんじゃないかな」とアドバイスをいただきました。経験の少ない分野については、未熟だなと感じましたね。

 

質問の聞き方って、とても大切なんですね。

 

社会が必要とする情報を発信したい

これまで働いて来て、小川さんは新聞記者の仕事を、ご自身の生業としてどのように捉えていますか?

 

「自分の能力を活かせる仕事」だと考えています。記者の仕事はアウトプット(書くこと)よりインプット(取材すること)の方が大切だと思っています。自分は学生時代、アウトプットが得意な人間だと思っていましたが、実はインプットのために人と会って話すことの方が楽しくてやりがいがあることだ、と社会人になってから感じていて。「インプットの能力が自分にもあったんだ」と、この仕事に就いたおかげで気付きました

 

今後はご自身のキャリアをどんな風に進めていきたいと思っていますか?

 

さまざまな人の人生を追体験できる記者という仕事を、なるべく長く続けたいと考えています。

 

保留にしている作家になる夢については?

 

新聞記者を続ける中で自分の書きたいテーマが見つかったとき、執筆活動を再開できればいいという意識でいます。

 

今は、「作家として有名になって生計を立てたい」と考えているのではなく、「社会が必要とする情報を発信したい」と考えています。それが叶えられるのは、新聞記者という仕事の範疇かもしれませんし、創作やノンフィクションの形になるかもしれません。記者という仕事を全うすることが、自分のやりたいことを具体化して実現させる近道のような気がしています。

なるほど・・・。夢と就活について、お話を聞く前とは違った見え方がしてきた気がします!小川さん、ありがとうございました!

 

(編集:中村 暁子/執筆:高石 真梨子)

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