手話サークルの活動に参加する大学生の松田さんは、就職活動まっただ中。
「そういえば、手話って仕事になるのかな?そうでなければ趣味として続けられるのかな?」
そんな疑問を持った彼は、県内手話通訳の大ベテランの大岡さんのもとを訪ねます。手話通訳を仕事にするための資格、仕事と報酬、手話をする上で大切にしていること、思いつく質問をどんどんぶつけます。
手話学習者から手話通訳者へ、そして手話通訳士へと研鑽(けんさん)を重ねながら手話通訳を仕事とする大岡さんは、どんなことを語ってくれたのでしょうか。手話の世界が少しだけ近くなる、とことんトークです。
目次
登場人物紹介


岡山県内の大学に通う3回生。サークルで学んでいる手話を就職後も続けたいと考え、職業としての手話通訳が気になっている。
「手話通訳者」と「手話通訳士」?手話と仕事の世界を知りたい
まずは「手話通訳者」を目指すところからはじめよう


*岡山県聴覚障害者センター:聴覚障害のある方の自立支援に向けた情報提供施設
*手話協力員:聴覚障害のある方がハローワークでの求職活動がスムーズに進められるようにコミュニケーションのサポートを行う専門職




初級講座のあと、初級・中級・上級とステップアップを重ねていきますが、上級終了後は受ける講座がなくなってしまい、そこで私は、先生に「手話を続けられる場所はないですか?」と尋ねたところ、手話サークルの存在を教えてもらうことができました。
当時の私は、「手話通訳者」という存在もよく知らなかったのです。「聞こえない人と、もっと手話でコミュニケーションを取りたい」という気持ちでサークルに入会して、手話学習を重ねていました。
その中で手話通訳をするための「資格」の存在を教えてもらって、試験合格後に今のような手話通訳者の活動をするようになったのです。


「手話通訳士」は、より専門的な知識を有する資格です。この資格があると、政見放送の手話通訳や、裁判などの司法の場でも通訳ができるようになります。
手話通訳士になるためにも、年に一回「手話通訳技能認定試験」という学科試験(7月)と実技試験(9月)で構成される試験に合格する必要があります。全国で4会場でしか受験できない上に、大変合格率の低い試験です。岡山県では昨年(2024年)10名以上が受験しましたが、合格者は1人だけでした。
手話通訳者でも充分手話通訳の現場で活動できますが、手話通訳士は、より高度な通訳活動をするための必要な資格です。


手話通訳者で生計を立てるのは難しいのが現実


同じ派遣という意味では、講演会やイベント、様々な研修会などに手話通訳者として派遣されることもあります。これは、公益社団法人岡山県聴覚障害者福祉協会が派遣事業として行っているものです。ただ、あくまでも登録なので、毎週同じ曜日・同じ時間に決まった派遣があるわけではありません。
*障害者総合支援法:障害のある人が、基本的人権のある個人として日常生活や社会生活を営むことができるように、必要となる福祉サービスなどの支援を総合的に行うことを定めた法律






派遣された講演会での手話通訳の様子
手話通訳で大事なことはなんでしょう?
手話通訳の役割は、コミュニケーションの通訳


本来であれば手話通訳なしに、お医者さんと患者さんが理解し合えたら良いのですが、手話ができるお医者さんはまだほとんどいません。ですので、手話通訳を介して患者さんの症状を理解してもらう必要がありますし、患者さんも手話通訳を介してお医者さんのお話を理解する必要があります。
私の通訳を介して双方の話が通じ合ったからこそ、患者さんが治療に立ち向かおうとしてくれたーーそのような状況になったことが、とても喜ばしいことだと思いました。




ですから、このような場合は、その人が自分で受付の人とコミュニケーションを取れるように車椅子を準備したり、車椅子を押す介助の有無を尋ねるなどのサポートをすることが望ましいと、私は思います。
それに、私達の役割はコミュニケーションの通訳です。もちろん臨機応変な対応は必要ですが、手話通訳者はコミュニケーションの通訳であってお世話係ではないという認識は大切だと思っています。
話し手の気持ちに寄り添う通訳


必須アイテムは、時計です。通訳を複数人でおこなうときには、時間で交代します。スマートフォンでも時間を確認できますが、待機しているときにスマートフォンを触っているのは誤解を招きかねないので時計を持っていきます。


ただ、話し手の気持ちに寄り添えない場面にも、時々遭遇します。


たとえば、聞こえない人が膝を指すような動きをすれば「先生、ここ押さえられています」と先生の視線が、聞こえない人に向くような言葉を選んで通訳します。お医者さんと患者さんの関係性を作ることも通訳の役割だと思うので、あえて「ここ」と言う時があります。
手話通訳者として私が同席できるのはその場かぎりで、次の受診時は別の通訳者が派遣されます。でも、お医者さんと患者さんの関係は治療が終わるまで続きますよね。そのため、お医者さんと患者さんの関係が築ける通訳者でありたいです。




このような場面で注意すべきこととして、通訳者である「私」から宣告された気持ちにさせてはいけないということです。通訳者からではなく、きちんと「先生の言葉」として受け取れるように、時には話し手(ここでは医師)に、どのような言葉で通訳するか確認することも大切にしています。



歌詞を手話通訳する様子
少しずつ見えてきた「手話」とどう付き合いたいか


そこで、自分が勉強した手話で通じるか通じないか試してみてください。もし通じなかったら「あ、通じないからちょっと別のやり方をしてみよう」と、また学習すればよいのです。ぜひ、単語だけ覚えるのではなくて、「伝えようとする気持ち」「伝えたいという気持ち」を持って手話の勉強をしてほしいなと思います。


もちろん、単語をいっぱい覚えておくのは損にはならないし、指文字も覚えておくことも役立つと思いますよ。


「宇治市の平等院ライトアップ」ー大岡さんが大学時代の友人と旅行をした際のお気に入りの1枚。水鏡が幻想的です。
(編集:明楽 香織/執筆:高石 真梨子)

手話をはじめて35年。手話通訳士として手話通訳や後輩の育成に取り組んでいる。日々の楽しみは、三人の孫の成長を見守ること。