パンやおにぎり、お菓子を買うとき「何が入っているんだろう?」と裏面の原材料表示に目をやると『トレハロース』という名前をよく見かけます。これ、実は食品のみならず様々な分野を支えるスゴイ素材だって知っていますか?
この『トレハロース』をデンプンと微生物の酵素から生み出す方法で量産化し、世界に普及させたのは、なんと岡山県の企業であるナガセヴィータ株式会社なんです。今回は新素材を研究している杉本 真智子(すぎもと まちこ)さんに理系学生のあかねさんが企業で研究する魅力を伺ってきました。
「企業で研究するって面白そう!」と思わずうなるインタビューです。
目次
分かるとスゴイ!微生物の酵素で素材をつくる企業
裏面チェックでトレハロースを探そう
自然の恵みである微生物・酵素の力を活用することで独自の素材を開発し、人々の豊かな暮らしを実現するための製品を提供することが私たちの事業です。
本当はここで具体的な製品名もお伝えできたら、「え!あの商品に入っているの!」と驚いてもらえるんですけど…。
だから、個人としてはちょっと歯がゆい面もあります。「この商品にも、あの商品にも、それにこんな商品にも入っていますよ!」と、社員としては胸を張って宣伝したい気持ちもありますが、それは抑えています。
おむつも分解できる素材に!?
営業担当者がお客様と一緒におまんじゅうをこねて製品案を考えることもありますし、製品化がうまくいかない場合に研究員が失敗のメカニズム解明のお手伝いをすることもあります。
ナガセヴィータはNAGASEグループに属する企業で、化学製品に強いナガセケムテックスなどのグループ企業と合同だからこそ進められているんですよ。
研究の土台は整備された環境と福利厚生
ちなみに、ナガセヴィータでは私が入社するよりもずっと前から「パーソナルタイム」という名前で独自に規程をつくり、この制度を運用していたのだそうです。
コロナ禍でリモートワークももちろん導入されていて、子どもを見ながら研究が進められるのでこれも助かっています。
別の部署の研究員なら営業部門と関わる人、大学と共同研究をする人、グループ会社と連携して仕事をする人、さまざまです。
研究者が実験室にこもるイメージはわかります(笑)。でも、実際は結構移動するんですよ。私も研究所で実験もしますが、工場から依頼試験を受けて、そのデータを渡すといったことがあるので、工場で打ち合わせをすることもあります。
研究をしていると迷うこともあります。そんなとき気軽に相談できると、「この方向でやろうかな」と方向性を決めやすいので、とても恵まれた環境だなといつも感じています。
微生物好き学生が研究員になって得たもの
企業でスケールアップした楽しさ
私は鳥取大学農学部で農芸化学を学び、大学院の農学研究科に進んで研究をしていました。食品関係、生物の細胞の代謝、有機化学、バラエティ豊かな研究室がある中で、私が選んだのは農薬化学。『農薬を生物由来の代謝産物をつかった安全性の高いものに置き換えられないか』というのがテーマでした。 微生物を培養して、生理活性物質を精製して、構造を調べて…。それがとても楽しかったんです。ある時、カビが作った抽出物の一つから強い匂いがするので構造を見てみたらバニリン(バニラの香りの主要成分)で、「このカビがこんなものを作るんだ!」と興奮しました。
就活自体は幅広くしていましたが、自分の研究とすごく近いから没頭できそうで、なおかつ幅広い分野もナガセヴィータには広がっていたので、「ここしかない!」と思いました。
スケールも全く違うんです。大学ではフラスコサイズですが、ナガセヴィータでは3階建てのタンクも扱っていて、かき回すだけでも一苦労です。でも、規模が小さいところから大きくなるまで見ると「大きくなったらこんな問題が起きてくるんだ!」という発見があり、「どうやって解決しよう」というワクワクが湧いてくるんです。
微生物を育てることに没頭する日々
微生物の培養は三角フラスコレベルのものを、ジャーファーメンターにスケールアップします。しかし、さきほども少し話しましたが、量が増えると環境が変わってきてしまうので微生物が思ったように酵素を作ってくれなくなるなどの問題が発生します。そうならないよう、環境を整えてあげるのが私の役割です
もちろん培養条件によっては微生物が言うことを聞いてくれなくなったり、たくさんいすぎてごねたりと手間はかかりますが、そこはなんだか人間みたいで、子育てと一緒だなと思います。
また培地検討の他にも微生物自身を育てることを「育種」というんですけど、私はこれがすごく好きなので入社してからずっと検討させてもらっています。
もちろん時代やタイミングなどいろいろな要因がありますが、なんとか『テトラリング®』を上市、発売できる状態にできて良かったなと思っています。
自分に合う場所を見つけるためのアドバイス
私は食品・銀行・アパレルなど30〜50社を「ここで働いたら自分はどんなふうに生きていけるのかな」と考えながら受けました。もちろん微生物の話をわかってくださるところはほとんどなかったのですが、だからこそナガセヴィータで「自分のやってきたことをわかってくれた!」という気持ちが際立ったのだと思います。 もちろん、子育てや介護など生活をガラリと変えてしまうことも人生にはあるので、そうなったときにも自分がやりたいことを続けていける福利厚生の充実も私にとって大事でした。ぜひいろんな企業を見て、自分の「ここだ!」という場所を見つけてください。
(編集:北原 泰幸)