岡山県にも素敵な観光地がたくさんあります。今回は、20年間観光業界で働いた田中さんから観光についてのお話をお伺いしました。そのなかで、田中さんの働き方としてのワークライフバランスを考える話題にもなりました。女性の働き方、仕事と暮らしをどうやって両立させるのがよいかを考えたい人、必見です。
岡山大学法学部4回生。まちづくり、観光に興味があり、岡山大学まちづくり研究会や福武教育文化振興財団のインターンシップ等を通して岡山の魅力を探求。外から見た岡山を知り、より愛するために春からは県外就職にチャレンジ。
目次
観光業界に関わってきて
民間と行政、それぞれから観光と関わる
内部に関しては、組織の中で稟議を通す必要があります。他部署と連携を取る必要があるので、どこの部署とつながるのがいいのかも意識していました。簡単な言葉で言うと、敵を作らないように。でも、なれ合いになっても仕方がないので、繰り返し「これがしたい」と頑張って言い続ける。へこたれることもありましたが、そんな風にやっていました。
倉敷は美観地区中心で動いている印象だったんですけど、高知県は県全体で動いている印象を受けて、本当に一生懸命されているのを見たときに、「これって産業なんだ」「自分は旅行を売るという見方だけだったけれど、違う表現があるんだな」ということに気づきました。
遠くに離れてみて初めて「倉敷ってやっぱりいいんだな」と思いました。
本質的な魅力に触れる観光づくり
全国各地で「うちすごいよね、うちはこんないいのもがあるよ」という売り方をして、それを知ってもらうためにイベントをしているような時代でした。売り込む側の私は、イベントだけしても本質的な魅力は伝わりにくいと感じていました。物見遊山の観光ではいけない。結局、新規顧客をずっと追い求めることになって、このままでは行き詰まる。海外からインバウンドで新規顧客を求めても、伝えられるものが少ないと思っていました。
だけど、実はそこにはすごい歴史があったり、観光地の中にも人が住んでいて、その営みがとても魅力的だったりします。
歴史から紐づけられる魅力や今いる人たちの魅力が「本質的な魅力」になると思ったので、それをどうしたら伝えられると思い、記念日事業を考えました。
でもせっかくなので、「この食べ物っておいしいんだろうか」とか、「どういう人が関わってるんだろう」とか、景色も私たち観光客にとっては観光地の1つでしかないけど、そこって地元の人にとっては生活している場所でもある。そうした背景というか、景色だったり食べ物がおいしい理由だったりの「本質的な魅力」に気づけると観光って、何倍も楽しめるんじゃないかなって思いました。
他と似たような観光地に行ったとしても「同じだね」って言われないのは、その人がそこでどう過ごしたかに関係してくるなと思ったので、個人の感情に触れるようなストーリーはどうしたらつくれるかを考えました。それができると、観光地はただの観光地ではなく、自分にとっての特別感が出る。それを作っていくことがこれからの時代に必要なんじゃないのかなって思い、記念日のイベントを企画しました。
雛めぐりイベントを1カ月の期間でやっていましたが、1カ月では本質は伝わらない。イベントで生まれる感動をみんなが自分の特別感をもって365日期待できるようにするにはどうしたらよいかを考え、「子どもができました」「結婚しました」でも来たいと思えるストーリーを作りました。
女性としての働き方
苦しんだ結果の「ワークライフブレンド」
20歳のお子さんがいらっしゃるということで、お仕事がいろいろ変わられて、プライベートの確保も大変だったのではないかと思うんですけど、仕事とプライベートを両立させるのは難しかったですか?
ワークライフバランスについては、最初は無理してバランスを取ろうとしていました。「仕事は仕事、生活は生活」で分けながらも調和すると思っていたんですけど、そんなキレイに分けられるものではないことを受け入れました。どういうことかというと、お風呂に入っているときに仕事のことを考えてないかっていうと、考えているんですよね。料理しているときも何気に考えてたりとか。
そうすると、バランスを取ることより「自分って全部混ざってるな」って。バランスもとってないし、分離させることもしてないし、ごちゃごちゃ混乱する状態にもなってない、「ワークライフブレンド・融合させる」ことを作ってきたかな。苦しみながらも(笑)
例えば、仕事場から帰る前に誰かに何か依頼して帰ると、その依頼したことは自分が知らない間に相手を動かしていて、また自分に返ってくるんですよね。どのタイミングで返って来るか分からないことがあると、結局なんか気になる。
そんな状態で仕事と生活を分けようとしてしんどいんだったら、ブレンドして自分はできるんだと思うようになりました。仕事も子育てもどちらも大切だったんですよ。「自分はそういう人」っていう自分の軸をまず持つことが最初にあったから、ブレンドができたかな。
自分の軸を見つめ直す
「産休を取ると肩身が狭いな」とか「子どもがいるから早く帰ったほうがいいよね」とか言われて、「でも自分は働きたいのに・・・」と精神的に苦しい状態も正直あったんですよね。小さい子どもがいるから早く帰らせてあげたほうがいいという社内の気遣いすら、腹が立つときもありました。
でも、自分はどういう生き方をしたいのかを考えてなかったなと思います。「周りがこうだから」と言われて腹が立っている。でも、それがなぜかをあまり考えてなかった。自分の軸はどこか、自分はどうしたいのかを考えると、楽になってきたって感じです。
気持ちもそうだし頭の隙間も全くない状態では、何にもアイデアが生まれない。なので、ちゃんと寝るとか食べるとか当たり前のことをしながら、自分の隙間を必ず作ることで、いいアイデアが出たり、自分の人生をふと考えられたりとか、人のことをちゃんと見れたりできます。
なので、「自分の生き方や自分が大切にしたいものは何なのか」という軸を見つめ直すことは、まず自分を落ち着けさせないといけないと気づいて、意識しましたね。
学生たちに伝えるキャリアの話
子どもが生まれると自分の時間だけじゃなくなる瞬間があることは頭で分かってはいても、それが現実になったときなかなか思い通りにならないもどかしさは出ます。そのときは無理に全部しようとせず、軸をもとに自分がいま一番したいことは何かをしっかり考えて、捨てる勇気をもつ。
それを思い知った瞬間は、子どもができた後に何回か倒れたときでした。仕事も大変だったし、子育てで夜も寝れない時期があったので。子育ての時期は仕事でキャリアを上げていきたいと思う時期でもありますが、慌てず騒がず自分のペースで。私も焦ってたりした時期もあったんですけど、焦っでも状況は変わらないし、逆に泥沼化していくのかな。
皆さんに伝えたいなと思うのは、「変わらないから、大丈夫」。ちゃんと巡り巡ってくるから。頑張ってる分は。ぶっ倒れないように自分を見つめる時間を持ちながら頑張りましょうっていうことが伝えたいかな。
継続は力なりってことでもあって、1日は「1」でしかないけど1年経ったら「365個」貯まる。それを2年3年で考えたらびっくりするくらいの力になっているので、若い人たちにも何か継続してやっていてほしいなとは思いますね。
田中さんから見える世界
心地いいを探す
実はなっちゃんと同じくらいの年代の女の子から、「私本当に自分がどういう風に生きていけばいいのか分かんなくて。今自分探ししてるんだよ」と切羽詰まった感じで相談されたとき、ぎゅうって萎縮している雰囲気を感じたの。
おそらく、自分が萎縮していることに、分かっているようで分かっていない。そんな状態で見つかるわけもない。楽に構えて、一番は人と比べない。それから自分が心地いいと思うものは、純粋にできる・できないじゃなくて、そんなのどうでもいいので心地いいと思うものが何なのかを、素直に自分に問うということが軸に繋がる。
田中さんは何をつくっている人か
「自分にとって」は、私くらいの年代になってくると会社の中での役職や会社名、いわゆる肩書きで自分が評価されたり判断されることがあります。だけど、そうじゃない自然体でいられる、本当の自分らしい生き方は、肩書きは関係ないし、立場も関係ない中で自分はどうなのかということを、自分としては生み出していっている。今も、今までも。
それから、「社会にとって」では、ソーシャルグッドという考え方ですね。社会の課題に対して良い影響を与えている活動や商品・サービスを生み出していく。ソーシャルグッドな中小企業さんや個人をもっと増やしていきたいので、その活動を今仕事として行っています。
田中さん、ありがとうございました!
(編集:森分志学)
※本記事は、2021年12月21日に行われた大学生対象イベント「生き方百科ずたんっ!#07」内でのトークセッション内容を記事化したものです。
株式会社あさひ 取締役 / KANATA事業部 開発部長
NPO法人くらしき観光局 副理事長
民間企業、外郭団体、行政での業務経験をもつ。地域ブランディングや集客拡大戦略づくり、地域収益拡大事業の推進など約20年間で100以上の事業に携わってきた。多くの地域企業の魅力あふれる商品やサービスに触れる中で、持続する地域企業を増やすため経営の知識としてMBA(経営学修士)を取得。また、幅広い観光事業の推進と、事業運営拠点をつくるため、観光系NPO「くらしき観光局」も設立。その他、教育系企業では、様々な部署を横断するオペレーション業務を経験。私生活では1児の母。働きながらの子育てで、仕事と家庭、子育てとキャリア構築も経験。仕事も生活も分けるのではなく、自分流に混ぜて楽しむ「ワークライフブレンド」を実践中。