こども食堂を通して、豊かさが生み出される基礎をつくりたい

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公開日 2021.09.11

瞬く間に全国に広がったこども食堂ですが、自分が住んでいる地域にはまだない、あるけど関わったことはないという人が多いのではないでしょうか。そもそもこども食堂って何をしているところなのか、どんな人たちが関わっているのか、倉敷市でこども食堂を運営する井上正貴さんにお話をうかがいました!

 

図解5minダイジェスト

 

登場人物紹介

NPOだっぴの代表理事・志学(しがく)。聞き手として塩瀬さんから話を聞きます。

 

井上正貴さん。倉敷市で子ども食堂を運営している。

水島こども食堂ミソラ♪の活動

色々な地域の人たちが関わる

井上さんが運営している水島こども食堂ミソラ♪は、どんな人たちと関わりながら活動されているか知りたいです。

 

僕と僕の妻を含むスタッフが6人います。例えば、医療関係の組合の方や高齢者の施設で働いてる方、元保育士さん。こども食堂以外の子どもの居場所を運営してる方も関わっていますね。

 

仲間みたいな感じですね。他にはどんな人たちが関わっていますか?

 

ひとり親家庭のお母さんやお子さん。また、ひとり親でなくても経済的困窮状態にある家庭と関わっています。

 

こども食堂と言えば、子どもとの関わりをイメージしていましたが、井上さんはお母さんとの関わりが多いのでしょうか?

 

新型コロナウイルスの影響で、食堂が開けない時期が続きました。コロナ以前は、多いときで子どもが25~30人、大人もボランティアも含めて50~60人が参加していました。お母さんも含めてみんなでご飯作って食べ終わったら、子どもたちと一緒に公園でワーッと遊びます。もちろん子どもとの関わりもあるし、子ども無しではこういう繋がりは生まれなかっただろうなと思います。

 

ぜひコロナ前の話も教えてもらえれば!

 

毎回10人ぐらいボランティアが来ていました。例えば、定年間近の公務員の男性の方が「こういう楽しいイベント好きだから」と言って来てくれたり、「子育てがひと区切りついたから、子どもたちのために料理でも何でもしたいんです」っていう近所のお母さんが来てくれたりしました。

 

統合, ボランティア, 手, 木, 育つ, 自発的に, ラップ, 守ること

 

こども食堂で井上さんは子どもと何をしているんですか?

 

遊んでるね(笑)遊んだ後は料理を一緒に作ったり。

 

夏休みや冬休みは、宿題を持って来ている子を僕や近所のおじさんやおばあちゃんが見たり、一緒に考えたり。あとは、同じ水島地区にある古城池高校からボランティアの高校生が5~10人来てくれて、彼らが主催となって食堂を運営したこともあります。

 

その他には、こども食堂関係で関わっている人は誰かいますか。

 

フードバンク関係ですかね。

こども食堂の日に合わせて、僕はスーパーに食料品を取りに行っています。冷蔵品がいただけたり。個人で魚の加工品や冷凍品を届けてくれたりする人もいれば、店頭には並べないバナナをダンボール箱いっぱいに譲ってくれる企業さんもいたり。

 

あと、倉敷市社会福祉協議会とも「パントリーボックス」という活動をしています。

 

子どもと関わるときに大切にしていること

井上さんやこども食堂の皆さんが子どもと関わるときに大切にされていることや気をつけているポイントって何ですか?

 

あえて挙げるなら、「教育をしない」ですかね。上から目線で頭ごなしにならないように。

 

例えば、みんなで「手を合わせていただきます」とするときに、「はい、みんな静かに!!」とか言って強要・強制はしないです。極端な言い方をすると、僕がその場ではお父ちゃんなんですよね。僕も料理するからね。みんな慣れて雰囲気ができているから、みんなで「手を合わせて」って言ったら、「静かに」と言わなくても自然とそうなるんですよね。自然とみんなワイワイしながら、「手を合わせていただきます」って始まるわけです。

 

手, 友情, 友達, 子供達, 子供, 子供時代, 手を組んだ, 接する

 

よく大人の理想として、何か手伝いをするとか料理を一緒にやりなさいと言うけど、親ができないから家でやってる子どもがいるんですよ。生活が大変な家庭で、小学校5・6年生で家のことを手伝わざるを得ない子どももいます。それは楽しみでやってない。普段の日常として、ちょっと大変だけど家事をやってる子もいるから、こども食堂では強要しないんです。

 

来てる子どもからしても、ここもまた家族みたいなんですね。

 

昔で言うところの子ども会みたいな感じですね。

 

ボランティアで参加してくれている高校生が世代の階段が全部埋まっていると表現していて、上手いこと例えるなと思いました。お母さんが赤ちゃん連れてきて、赤ちゃんに兄弟がいて、小学生もいれば、中学生も高校生のボランティアで来て、大学生も時々ボランティアでいて。社会人もいる、主婦の方、お父さん、おじいちゃん、おばあちゃんまで本当に全部いたんですよ。家族っていうかたちを押し付けたくはないけど、遠い親戚の集まりみたいになっていればいいなと思っています。

 

まさにこの世代の階段の中で、お互い助け・助けられるという、良い相互作用が生まれてる場なんですね。水島子ども食堂ミソラ♪の場合、「子どもたちにとってこういう場所だ」と、他の人に説明してるときにはどういう説明をされていますか?

 

こども食堂も個別解があります。各地域の特性や主催者・スタッフによっても全然違います。水島こども食堂ミソラ♪という場合でいうと、持続可能な社会をこども食堂の活動を通してつくるとはっきり書いています。

 

みんなが長続きさせられる考え方や生き方、そういう価値をちゃんと引き継いでいこうと。よく話し合うことが大事だなと思うので、なるべく色んな世代が集えるようにっていうのを心がけています

 

疑似家族的な集団を意識的につくる

クリスマス, クッキー, ビスケット, 家族, ケーキ
来る子どもは、困窮世帯の子もいるしそうじゃない子もいるということですか?

 

もちろん。やっぱり色んな世帯がいてよかったねっという話をスタッフ同士でしています。来る側も、大変な世帯ばかり集まっていると来づらいと思います。色んな世帯・世代が集うことで、みんなが紛れ込めるのです。

 

色んな世代がいて、お互いに良い影響を与え合ってるんですね。

 

できるだけそうありたいです。ごった煮のようで実は、疑似家族的に色んな世代が必要だろうとあらかじめイメージして、意識的に作ってきました。

 

どうやって意識してつくっていくんですか

 

呼ぶのよ、色んな人を!

 

とてもシンプルでした(笑)

 

子どもだけ来ればいいとなれば、小学校のチラシばらまくことになりますが、ミソラ♪はそうではないのです。商店街の人や、ちょっと来たいんじゃないかと思ってる人にチラシ渡したり、話の流れで自然に「ぜひ来てください」と誘ったり。

 

みんなにとってのミソラ♪の時間

ガラス, バックグラウンド, 色, 食べ物, デザート, オレンジ, 赤
ミソラ♪は、コロナ前は何曜日の何時から何時ぐらいで開放してたのですか?

 

毎月第3土曜日の朝、10時から開けていました。9時にスタッフ全員集合で10時にボランティアの人たちが集合して10~15人ぐらいになります。11時からオープンして、子どもや大人たちが来ます。外の公園で遊んだり、漫画読んだり、宿題をする時間が1時間あって、12時にみんなで「いただきます」。だいたい1時間ぐらいワイワイ食事しながら、終わったら片付けが始まって14時には終了です。

 

そこで意図的に、大人や中高生・大学生から一言ずつ感想をもらいます。そうすると「自分はここに参加してる」「この意見は大切にされてるんだ」という気持ちになれるから参加意識が芽生えるんですよ。

 

なるほど。月1回の4時間というこの時間、井上さん的に、子どもたちにとってどういう時間だと思われますか。

 

例えばのエピソードですと、少し発達に特性の強い子がいまして。彼は家で料理をしたがるけど、あらかじめ自分が決めたメニュー以外は作らない。それに、必要なものを「買って!買って!」とこだわりが出て、お母さんが困っているケースがありました。

 

ある日のこども食堂での料理の時間、僕がその場にあるもので、例えばゴーヤがたくさんもらえたからゴーヤチャンプルーを作るということをやって見せて、その子も後ろで見ていました。その後、彼に変化が起きて、あるもので何とかすることがかっこいいと思ったのかは分かりませんが、家でそれをやり始めたんです。

 

「食べ物の大切さを理解した」とお母さんが言っていました。その子がこども食堂で食べ物を受け取るときに、お菓子を分けてくれるようになったんです。以前は自分だけだった彼が、「お母さんも食べる?」と言ってくれるようになったと聞いて、そんなことが起きるのかと驚きました。

 

井上さんが大切にしていること

やらなきゃ分からないことばかり

男の子, 子供, 子ども, 家族, 親, 泡, デニム, ジャケット, 人
皆さんがこども食堂を運営される中で、大切にしたいことは何ですか?

 

とにかく動く。やる・飛び込む・動く。

これは度胸だと思います。やらなきゃ分からないことばかりだから、できるだけ断らない。

 

なんで井上さん断らないんですか?

 

本当なんでだろうね。

 

現実はとても切実だからこそ

それって、井上さんのこれまでの生き方と何か関連してたりしますか?

 

そうかも知れない。

水島こども食堂ミソラ♪の名前に「水島」というエリア名をつけているように、僕が水島という場所の当事者なんだと思う。水島という町を調べれば調べるほど、自分は当事者なんだって理解できます。

 

こども食堂と言えば、無料もしくは定額で子どもが1人でも安心して来れる食堂という定義があります。こども食堂を最初に始めた人がそう言ってるからリスペクトしていますが、僕はおそらく子どもとほっこりした空間が作りたいわけではない。

 

もっと危機迫るものがある、と?

 

切実よ。この町に住んでて、現実を見たら本当に切実。

 

それを目の当たりにしてるからこそ、断らない?

 

だと思うなあ。困窮家庭の学習支援をしていたとき、生活保護の家庭の中に入ったらね、もう大変だったりする。お母さんが疲れ果ててる姿を見たり、お母さんから相談の電話がかかってきたら、もう一生忘れられない。

 

なるほど。それを見て見ぬふりなどできるはずもないと。

 

そう。僕だって、それで自分自身が疲れちゃいけない、自分を休ませてあげないとと思うこともあります。だけど、1回知ったらね、もう消せない。
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井上さんは何をつくっている人か

最後に、「井上さんが“生み出している/つくっている”ものって何ですか?」ということを聞きたいのですが、この質問にどうお答えになられますか?

 

「人の豊かさをつくっている」で、在りたいですね。

 

寂しさや貧しさがキーワードじゃないかと思っています。僕は孤独や貧しさを抱えた人を日々見ていて、「人が豊かさを追い求めてきた結果がこれなのか」と思うこともあります。叶うならば、自分の活動自体が豊かさを生み出していくことにつながっていくような、基礎中の基礎になりたいと思っています。[/voice]

 

それって、誰の豊かさなんですか?

 

最初は個人でいいと思います。自分はこれが幸せだなと思う体験を積み重ねていくと、自分を豊かにするリストが貯まっていく。今度は、その貯め方を自分の家族や周りの人にも伝えていく。

格差を生まない豊かさを追い求めていきたいと思っています。

 

 

(編集:森分志学)

※本記事は、2021年6月19日に行われた大学生対象イベント「生き方百科ずたんっ!#03」内でのトークセッション内容を記事化したものです。

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