今を全力で生きる。女性起業家でメイク講師・板野早百合さん

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  • #人生を後悔しないようにチャレンジする

公開日 2024.02.28

やりたいことはあるけど、挑戦するのが怖いーー

 

きっと誰もが、そのように感じたことがあるのではないでしょうか。失敗は怖いし、未来が見えないからこそ不安になりますよね。

今回インタビューしたメイク講師・板野 早百合(いたの さゆり)さんの生き方は、その不安に立ち向かう一つの考え方を教えてくれます。「漠然とした不安で一歩が踏み出せない」と感じている人は必見!メイクや美容の世界についても知りながら、板野さんの言葉に背中を押してもらえるはずです。

 

板野さんのお仕事

★板野 早百合(いたの さゆり)さん

 

海外の技術を用いてメイク講師を行う傍ら、化粧品ブランド「Lily Beauty」を運営する。

 

多岐にわたるメイク講師としての活動

 

板野さんは普段どんなお仕事をしていますか?

私は今、主にメイク講師として活動しています。

企業主催のセミナーで就活生向けのメイク講座を行ったり、ミセスコンやボディビルコンテストが参加者に提供するビューティーキャンプで、数か月にわたり講座を行ったりしています。

 

また、個人向けマンツーマンレッスンをすることもありますね。そのほかにも、ウェディング当日の花嫁の方のメイクをしたり、オンラインでメイク座談会を開催したりもしています。

 

ミセスコンテストでメイクアップをする板野さん。

 

またメイクの講師だけでなく、自社で化粧品の製造と販売も行っているんです。

 

板野さんが立ち上げた化粧品ブランド「Lily Beauty」の商品、マジェスティックバーム。

 

すごい、とってもお仕事の幅が広くてパワフル!どんなことを目指して活動してらっしゃるんですか?

 

メイクの力で女性を応援して、元気でエネルギッシュな方をもっと増やしていきたいんです。

メイクって、本当に大きな力を持っていると私は思うんですよね。メイクをすることで意欲・活力が増すと脳科学でも証明されていますし、実際にメイクレッスンをしていても、みなさんの表情がメイクする前と大きく変わるんです。メイクが「頑張ってみようかな」とやる気を出すきっかけになるんですよ。

 

メイクをすると、お客さんの表情が明るくなる。

 

今日が人生最後の日だと思って生きる

 

板野さんが大事にしていることはなんですか?

 

今日で人生が終わってしまってもいいように、瞬間瞬間を大事にしながら生きることですね。「今日が人生最後の日だと思って生きよう」という言葉を、20代前半のころから人生のスローガンとして掲げています。

 

生きていると悩みは多いですが、もし今日で自分の人生が終わってしまうとしたら、そんな悩みよりも違うことを重要視すると思うんです。

 

例えば、誰かから心無い言葉を言われたとしても、残り少ない時間を後悔なく過ごすために「クヨクヨ気にしてないで、美味しいものを食べて気持ち良く寝よう!」と切り替えられるというか。自分には時間がないものだと思って生きるって感じですね。

 

一日一日を満足したものにするということですか?

 

まさにその通りです!もし明日も生きられたとしても、明日の自分をがっかりさせたくないんです。

 

例えば、一日の終わりに「本当はまだやることがあるけど、もう疲れたし寝てしまいたいな」って感じることもあります。それでも「今日が人生最後の日かもしれないから、終わらせておこう」と思うんです。

 

それはやっぱり、もし明日生きていたとしても「昨日これをしておけばよかったな」と思いたくないからなんですよね。後悔がないように、その瞬間を大事にしながら生きています。

 

とはいえ休むことももちろん重要ですし、誰しも怠けたくなる気持ちはあります。だから、「100頑張らなくてもいいから、10くらいまでは頑張ってみよう」って思うようにしています。自分のできる範囲で、ちょっとだけでもいいからやるようにしていますね。

仕事も人間関係も、その瞬間を大事にして納得する毎日を送りたい。

板野さんはコツコツ積み上げる努力家でもあるんですね…!すごいです。

 

まったくそんなことないですよ(笑)。こんな話をしてますが、「早起きして勉強しよう」と決めても、アラームを消して二度寝してしまうような怠け者なんです。

 

でもみんなそれぞれペースは違うし、自分自身が「今日も出来た!」って思えることが大事だと思うので、私はハードルをうんと下げて、誰でも簡単にできそうなことから始めています30秒でいいから机に座る」みたいに(笑)。

 

習慣づくりは投資と同じだと思うんです。ビジネスでも勉強でも運動でも、習慣にできたら本当に強い。だからちょっとずつでも、毎日やるようにしています。

 

板野さんのこれまで

なかなか活発になれなかった幼少期

 

現在の板野さんになるまで、どのような人生を歩んでこられたのですか?

私は8歳のときに、母親を亡くしました。その経験から「あんなに若くてもお母さんは亡くなってしまった。いつかは私も・・・」という恐怖心が生まれ、なかなか活発になれない子ども時代を送っていました。

母親の死をきっかけに、人生は有限だと身を以て知った。

母親を早くに亡くした私ですが、周囲の大人の方々が気遣って見守ってくださったおかげで元気に成長できました。でも、だからこそ「この子は大丈夫だ、何の問題もない」と思ってもらえるように振舞おうとしていた部分もあったのだと思います。波風を立てず、心の中で「おかしい」と思っていても周りの子に合わせて、悪目立ちしないようにしていました。

 

当時の私は、そんな自分があまり好きではありませんでした。自分の意見をきちんと言える友達を見ると、「どうしてあの子は素直に発言ができるのに、なんで私は思いを内に秘めてしまうんだろう」と悩んでいましたね。

 

ただ、遺品整理をしていたときに見つけた母親の化粧品は、ずっと大事に持ち続けていました。寂しくてたまに使ってみたこともあって。今思えば、メイクへの興味はあのころから始まっていたんでしょうね。

幼いころの板野さん。

 

人生を後悔しないために、今を大切にしよう

 

高校卒業後はどうでしたか?

 

中学生のときから働きたい意欲が強かったので、簿記を勉強するために商業科の高校に進みました。そして卒業後はすぐに、健康食品や化粧品を販売する会社に就職しました。

 

その会社は、新入社員の私たちにいろいろな研修や講義を受けさせてくれました。業務と関係ないことでも、自分が求めればどこまでも学ばせてくれるような環境でしたね。今考えると本当にありがたいことなんですが、何でも「やります!」と取り組んでいるうちに、気がつけばものすごい勉強量になっていました。

 

高校を卒業して「やっと勉強の期間が終わり、ようやくお金を稼ぐ側になった!」と思ったのに、かえって学生時代よりも勉強することが増えているんです。そこで人生って、一生学ばないといけないんだなと気づきましたね。正直、最初はすごく動揺して「この先自分は耐えられるのかな・・・」と不安に思っていました。

 

でも、目の前の仕事をこなしながら学び続けた経験があったから、やりたいことが出てきたときに「勉強してチャレンジしてみよう」と思えるようになったんだと思います。すごくいいきっかけになりました。

同じ会社のみなさんと。上段左から三番目が板野さん。

社会人になってそんな学びがあったんですね。板野さんが「今日が人生最後の日だと思って生きよう」と思い始めたのも、このころですか?

はい。この会社は部署異動の制度があり、製造や秘書、広告・マーケティングなど、いろいろな課で経験を積ませていただきました。楽しいけれど大変でもあって、毎日本当に一生懸命でした。そんなあるとき、自分の中で何かが吹っ切れた感覚がありました。

 

幼少期から命を落とすということが怖くて積極的に行動できなかった私ですが、いろいろな仕事にチャレンジする中で、ふと「それって悩むほどのことじゃないな」と思ったんですそして「いつ人生が終わるか分からないんだったら、後悔しないよういろいろなことをやっておいた方がいい」という思いが湧いてきました。

 

そこからは、人間関係にも全く悩まなくなりましたね。それまでは不満や意見を自分の中に抱えることが多かったのですが、「後悔しないように、思ったことは言っておこう」と伝えるようになったからです。また、同じように感謝や謝罪の言葉もきちんと伝えるようになりました。人生を後悔しないよう、毎日を全力で生きるようになっていったんです。

仕事の経験が、板野さんの価値観を変えたんですね!

 

もっと人の役に立ちたくて、医療分野へ

 

行動的な板野さんになって、すぐに今のメイクの道に進み始めたんですか?

 

いえ、この後すぐメイクの道ではなく、医療業界へ転職しました。

 

健康食品会社では、予防医学の考え方をベースに、病気になりにくい体を作るための製品を作っていたんです。でも、私の家族が立て続けに病気で入院したことがきっかけで「今病気で困っている人」の役に立ちたいと思い始めました。

 

医療関係は全くの未経験でしたが、そこから会社に勤めながら勉強を続け、無事試験に合格し、病院の看護助手として勤め始めました。

看護助手として病院に勤務。左側の手前から二番目が板野さん。

職種が大きく変わっていますが、転職するにあたって不安はなかったのですか?

 

確かに日本では転職に対する不安が根深いですよね。でもこの頃私はそうは思わなくて、ただのチャレンジとして捉えていました。「もしうまくいかなかったらまた別の場所に移ればいい」と思っていましたね。

 

やりたいことをやらずに後悔するのが嫌で、あえて根拠のない自信を持って挑戦していました。今でも、チャレンジはすればするほどいいなと思っています。

 

幼いころの夢を叶えてあげたくて

 

看護助手からどうやって今のメイク講師の板野さんへとつながっていくんですか?

 

大きなきっかけは、私が25歳のときに父親が亡くなったことです。実家で遺品整理をしていると、私が小学生のころに書いていた日記が見つかりました。なんとはなしに中を読み返してみると「化粧品会社を持つ女社長になる」という夢が書かれていたんです。そのとき、「小学生のころの自分の夢をかなえてあげたいな」と思ったんです。

 

父の死も相まって、「人間の命はいつ終わるか分からないから、好きなことをしよう」という思いも強まっていました。だから自分の気持ちに正直に、メイクや美容の仕事をしようと決心しました。

 

そこから、病院に勤めながらメイクの勉強を始めたんです。昔から海外の映画やドラマが好きだったので、ハリウッドセレブたちのメイクアップアーティストの技術を学ぼうと思い、海外に行ったりオンラインで学んだりしましたね。

海外のメイクスクールの仲間と。左から二番目が板野さん。

並行して少しずつ自分のメイクをSNSにアップし始めたところ、「このメイクってどうやってするんですか?」というお問い合わせをたくさん頂いたんです。当時は病院での勤務がメインでしたし、自分が本格的にメイク講師の仕事をするイメージももっていなかったので、副業感覚でメイク講師を始めました。

 

すごい、つながってきましたね!その後メイク講師として独立するのは大きな決断だったと思うんですが、何かきっかけがあったのですか?

 

ちょうど新型コロナウィルスが大流行していて、身の回りの人を亡くす経験をしたことが大きかったです。「やっぱり明日どうなるかは分からない。だから好きなことをしよう」って改めて思い、チャレンジすることにしました。

成功する確信はありませんでしたが、ダメだったらまた働けばいい失敗してもいいからやってみようという感じでしたね。

 

独立するにあたって感じた課題はありましたか?

 

私のするメイクは、日本ではニーズが少ないと気づいたことですね。

 

今の日本では、日常づかいのしやすい韓国メイクやナチュラルメイクのニーズが大きいですよね。でも私のメイクはハリウッドセレブがする、舞台のようなドラマティックなものなので、どうしても求められるシーンが限られてきます。

 

もちろん私のメイクも、日常に落とし込めるんです。それをみなさんに知ってもらうためにはどんな伝え方をしたらいいのか、悩みましたね。「日本で活動する以上、日本に合わせて方向性を変えたほうがいいんだろうか」と考えたこともありました。

 

でもやっぱり、「悔いを残さないように、自分の好きなことをやろう!」と思ったんです。日本で主流のメイクも自分のメイクも否定せず、両方を活かしながらやってみようと思い、方向性が定まりました。

目の前のお客様を大切にしながら、メイクをする。

メイクのプロとして常に意識するようになったのは、お客さんがメイクで大事にされていることを決して否定しないということです。メイクってとても近い距離で人と接しますよね。だからこそ、安心感や信頼感が大切です。

 

そのため、お客さんがメイクで何を大事にしているかお話をしっかり受けとめ、それからこちらの意見も伝えるということをいつも大切にしています。結果、本当に素晴らしいお客さんに恵まれました。みなさんが口コミで私のことを広めてくださったおかげで依頼も増え、今もお仕事を続けられています。

大切な仕事道具のアイシャドウパレット。

 

板野さんのこれからと、若者へのメッセージ

「今日が人生最後の日かもしれないから、後悔しないように今を生きる」という姿勢が、ずっと一貫しているんですね。

 

今の私がいるのは、これまで「今を後悔したくない!」と思って何でも挑戦してきたからだなと思うんです。「あのときの経験が今効いているな」ということがたくさん出てくるんですよね。自分の経験したことって、全部無駄にはならないなと実感しました

 

もしかすると5年後はまた全然違うことをやっているかもしれませんが、それもきっと今までのこと全部がつながってくるんだと思います。

 

そんな板野さんから若者へメッセージをお願いします。

 

一つは、時間は有限だということです。私たちはいつか絶対死んでしまう。残された大事な時間を、大切に生きてくださいね。

 

もう一つは、物事を失敗か成功かで考えないでほしいということです。「失敗したらどうしよう」と恐れる必要はなく、どんなことでも経験になります積み重ねた経験の向こうにきっと幸せがありますよ。

 

何かを「失敗だった」と思わず、やりたいことをどんどんやって、今この瞬間を楽しく生きてくださいね!

 

板野さん、今日はありがとうございました!

(編集:有澤可菜、北原泰幸)

 

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