微生物の力で世界を変える新素材を生み出す・株式会社林原

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パンやおにぎり、お菓子を買うとき「何が入っているんだろう?」と裏面の原材料表示に目をやると『トレハロース』という名前をよく見かけます。これ、実は食品のみならず様々な分野を支えるスゴイ素材だって知っていますか?

 

この『トレハロース』をデンプンと微生物の酵素から生み出す方法で量産化し、世界に普及させたのは、なんと岡山県の企業である「株式会社林原」なんです。今回はこの林原で新素材を研究している杉本 真智子(すぎもと まちこ)さんに理系学生のあかねが企業で研究する魅力を伺ってきました。

 

「企業で研究するって面白そう!」と思わずうなるインタビューです。

分かるとスゴイ!微生物の酵素で素材をつくる林原

裏面チェックでトレハロースを探そう

林原さんはどんな事業に取り組んでいらっしゃるのですか?

 

弊社は微生物の酵素を用いた素材づくりに取り組んでいます。代表的な商品は食品分野では「夢の糖質」と呼ばれていた『トレハロース』、化粧品分野では、本来熱や光に弱い性質のビタミンCを安定化して製品に配合しやすいものにした『AA2G®(アスコルビン酸2-グルコシド)』などがあります。

 

自然の恵みである微生物・酵素の力を活用することで独自の素材を開発し、人々の豊かな暮らしを実現するための製品を提供することが私たちの事業です。

 

『トレハロース』は聞いたことがありますが、『アスコルビン酸2-グルコシド』は初めて聞きました。私たちの身の回りではどんな製品に使われているのでしょうか?

 

『トレハロース』は自然な甘みと保湿効果を持つので、おまんじゅう・お餅・団子などの和菓子、パンやケーキ、それからお弁当類にも使われています。『アスコルビン酸2-グルコシド』はメラニン抑制や免疫力強化に効果があるので、美白美容液や化粧水などに使っていただいています。

 

本当はここで具体的な製品名もお伝えできたら、「え!あの商品に入っているの!」と驚いてもらえるんですけど…。

 

挙げられない理由があるんですか?

 

ご契約企業様とのお約束で、私たちからは積極的に言わないことになっているんです。

だから、個人としてはちょっと歯がゆい面もあります。「この商品にも、あの商品にも、それにこんな商品にも入っていますよ!」と、林原の社員としては胸を張って宣伝したい気持ちもありますが、それは抑えています。

 

自分達が作っている商品ですから、できれば自慢したいですよね。

 

でも、コンビニやデパートなど身近な売り場で商品の裏面を見ると、自分達が作っている素材名がすぐ見つかるので、アピールはできなくとも誇らしいですよ。ある先輩は岡山駅前の某ショッピングモールで小一時間ほど売っている商品の成分表示をひたすらチェックしたそうで(笑)。優に100個を超えたそうです。

 

すごいですね、私も近くのコンビニで探してみます!

 

おむつも分解できる素材に!?

素材の分析をしている様子

素材メーカーさんが数ある中での林原さんの強みとはどんなところにありますか?

 

まず、『トレハロース』を大量生産する技術を開発し、ノウハウを蓄積しているというのが強みです。さらに、弊社は素材の研究・開発から販売まで一貫して行っているため、さまざまな角度からお客様の課題解決のために手厚いサポートをできるというのも特長です。

 

営業担当者がお客様と一緒におまんじゅうをこねて製品案を考えることもありますし、製品化がうまくいかない場合に研究員が失敗のメカニズム解明のお手伝いをすることもあります。

 

今後力を入れていきたい取り組みや新素材というのはあるのですか?

 

はい、会社全体としてはSDGsに関わる取り組みに力を入れていて、例えば環境負荷の低減に向けておむつに使う高吸水性ポリマーを新素材にできないかと関連会社と力を合わせて試行錯誤しています。

 

おむつのポリマーを新素材で…!私事ですが、私が化学に興味を持ったきっかけは高吸水性ポリマーの技術に感動したからなんです。さらに改良する余地があるんですか?

 

一般的な高吸水性ポリマーは分解しにくいというのがネックなんです。赤ちゃんのおむつは日に何度も替えますよね。日本全体で考えると捨てられる量も膨大で、環境負荷がとても高くなってしまっています。これを分解しやすい素材にすることで、地球環境への負荷を下げられるのではないかと考えているんです。

 

林原はNAGASEグループに属する企業で、化学製品に強いナガセケムテックスなどのグループ企業と合同だからこそ進められているんですよ。

 

なるほど、グループ企業があるからこそ、そんな難しいことにも取り組めるんですね!

 

研究の土台は整備された環境と福利厚生

社内の職場環境や福利厚生はどうなっているのですか?

 

林原では産休・休育休はもちろん、フレックスタイム制やテレワークも導入されていて、女性も働きやすい環境が整えられていますよ。ちなみに私も小学生から幼児まで、3人の子どもを育てながら研究をずっと続けられています

 

フレックスタイム制は最近よく聞きますが、どんな内容なのですか?

 

一日の中で自分が働きたい時間をコントロールできる制度です。この制度なら定時が9時から5時半だとしても、子どもの保育園の送迎に合わせて8時出勤の4時半退勤にずらすことができます。また、子どもが熱を出して早退しないといけない場合でも、月全体で労働時間を調整もできますし、すごく助かります。


ちなみに、林原では私が入社するよりもずっと前から「パーソナルタイム」という名前で独自に規程をつくり、この制度を運用していたのだそうです。


コロナ禍でリモートワークももちろん導入されていて、子どもを見ながら研究が進められるのでこれも助かっています。

 

研究開発って、ずっと実験室にこもっているイメージを持ってました。自宅でもできるのですか?

 

自宅で行うのは主に文献検索ですね。実験の裏付けとなるデータや、次に何をするか考えるための文献を探す時に在宅勤務を使います。


研究者が実験室にこもるイメージはわかります(笑)。でも、実際は結構移動するんですよ。私も研究所で実験もしますが、工場から依頼試験を受けて、そのデータを渡すといったことがあるので、工場で打ち合わせをすることもあります。

別の部署の研究員なら営業部門と関わる人、大学と共同研究をする人、グループ会社と連携して仕事をする人、さまざまです。

 

同じ研究員でもいろんな働き方があるんですね。ちなみに、どんな雰囲気なんですか?

 

研究員というと気難しいイメージを持たれるかもしれないですけど、そんな人は全然いないですよ(笑)。相談したらみなさん真摯に聞いてくれて、フレンドリーです。


研究をしていると迷うこともあります。そんなとき気軽に相談できると、「この方向でやろうかな」と方向性を決めやすいので、とても恵まれた環境だなといつも感じています。

 

なるほど…研究員のイメージが変わりました!

 

微生物好き学生が研究員になって得たもの

企業でスケールアップした楽しさ

微生物のことになると頬がゆるむ杉本さん。

ここからは杉本さんについて伺わせてください。なぜ林原で研究員になったのですか?

 

学生時代の研究で感じた楽しさが忘れられなくて、「これを仕事にしたい」と思ったからです。

 

私は鳥取大学農学部で農芸化学を学び、大学院の農学研究科に進んで研究をしていました。食品関係、生物の細胞の代謝、有機化学、バラエティ豊かな研究室がある中で、私が選んだのは農薬化学。『農薬を生物由来の代謝産物をつかった安全性の高いものに置き換えられないか』というのがテーマでした。

 

微生物を培養して、生理活性物質を精製して、構造を調べて…。それがとても楽しかったんです。ある時、カビが作った抽出物の一つから強い匂いがするので構造を見てみたらバニリン(バニラの香りの主要成分)で、「このカビがこんなものを作るんだ!」と興奮しました。

 

学生の頃から、微生物や研究が大好きだったんですね。それで、どうやって林原と出会ったんですか?

 

私は地元が岡山なので、岡山の「農薬化学」の企業を探したのですが、あまり見つからなくて。でも、ちょっと視野を広げて「農芸化学」の分野で見たら、林原の情報が見つかったんです。

 

就活自体は幅広くしていましたが、自分の研究とすごく近いから没頭できそうで、なおかつ幅広い分野も林原には広がっていたので、「ここしかない!」と思いました。

 

確かに、杉本さんにピッタリな会社ですよね。入社してギャップや驚いたことはありましたか?

 

正直、驚くことばかりでした。まずビックリしたのは実験の丁寧さです。実験器具のピペットマンの扱い一つとっても、限界まで誤差をなくす手順を踏んでいて、「すごい、大学の外にでたらこれだけ違うんだ」と感動しました。

 

スケールも全く違うんです。大学ではフラスコサイズですが、林原では3階建てのタンクも扱っていて、かき回すだけでも一苦労です。でも、規模が小さいところから大きくなるまで見ると「大きくなったらこんな問題が起きてくるんだ!」という発見があり、「どうやって解決しよう」というワクワクが湧いてくるんです。

 

杉本さんの目にはものすごく魅力的に映っているのが伝わってきます。

 

本当に楽しいですよ。そうした試行錯誤を経て、商品がどうやって市場に出ていくかまで見ることができるのは、林原という企業で研究員になったからこそ得られた経験だと思っています。

 

微生物を育てることに没頭する日々

作業中の杉本さん(写真左)

現在はどんな業務を担当されているのですか?

 

研究所で検討段階が上がった新素材を工場レベルにスケールアップするための最適化検討を担当しています。

 

微生物の培養は三角フラスコレベルのものを、ジャーファーメンターにスケールアップします。しかし、さきほども少し話しましたが、量が増えると環境が変わってきてしまうので微生物が思ったように酵素を作ってくれなくなるなどの問題が発生します。そうならないよう、環境を整えてあげるのが私の役割です

ジャー培養装置(ジャーファーメンター)

微生物をそれだけの規模で育てるのはとても大変そうですよね。

 

そうですね。でも、生物合成のいいところは化学合成よりも多量の薬品を使わずに作れること、そして酵素の基質特異性によって生み出したい素材に絞れるので副産物が少なく収率が良いというところにあるんです。

 

もちろん培養条件によっては微生物が言うことを聞いてくれなくなったり、たくさんいすぎてごねたりと手間はかかりますが、そこはなんだか人間みたいで、子育てと一緒だなと思います。

 

うまく働いてくれずに嫌になったりはしないのですか?

 

うーん、あまりないですね。子どもと一緒で、微生物にもやっぱり好き嫌いがあるんです。よく観察して、その好きなものがわかったときはすごく嬉しいですよ。「これが好きなんだね」と与えてあげたり、「あ、これ嫌いなんだよね」って抜いてあげたり。培地検討は奥が深いです。

また培地検討の他にも微生物自身を育てることを「育種」というんですけど、私はこれがすごく好きなので入社してからずっと検討させてもらっています。

 

今まで育ててきた中で、特に印象に残っている仕事はなんですか?

 

『テトラリング®』ですね。日本応用糖質科学会という学会で発表しているんですけど、培養がとにかく難しくて。うまくいきそうだと思っては培養に問題が起こって失敗、またうまくいきそうだと思っては失敗を繰り返していました。

 

最終的に培養に成功したんですよね?どうやって乗り越えたんですか?

 

幾度となく失敗した研究報告書の情報が大量に蓄積されていたことが足がかりになったんです。今までの全部の報告書を読み込むことで「なるほど、こうしたら発泡してダメになるのか」「じゃあこの組み合わせで発泡を抑えられないかな」とステップを踏んで考えることができたので、最後には培養を成功させることができました。

 

もちろん時代やタイミングなどいろいろな要因がありますが、なんとか『テトラリング®』を上市、発売できる状態にできて良かったなと思っています。

 

失敗は無駄にはならない。すごいエピソードをありがとうございます!

 

自分に合う場所を見つけるためのアドバイス

杉本さんが楽しく活き活きと働いているのが伝わってきました。

今日は素敵なお話をありがとうございます。最後に、これから自分の進路を考えている若者へのメッセージをお願いします。

 

仕事は人生の半分以上の時間を費やすので、猛烈に没頭できるような仕事に就いてほしいなと思います。そのためにも就職活動では世界を広げる意味でも、いろんな企業に直に触れることがオススメです。

 

私は食品・銀行・アパレルなど30〜50社を「ここで働いたら自分はどんなふうに生きていけるのかな」と考えながら受けました。もちろん微生物の話をわかってくださるところはほとんどなかったのですが、だからこそ林原で「自分のやってきたことをわかってくれた!」という気持ちが際立ったのだと思います。

 

もちろん、子育てや介護など生活をガラリと変えてしまうことも人生にはあるので、そうなったときにも自分がやりたいことを続けていける福利厚生の充実も私にとって大事でした。ぜひいろんな企業を見て、自分の「ここだ!」という場所を見つけてください。

 

私も就職活動中なので、すごく参考になりました。杉本さん、本当にありがとうございました!

 

 

 

(編集:北原 泰幸)

 

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