手話サークル学生、OHK篠田アナに手話実況について聞くなかで、囚われていた自分に気づく。

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公開日 2026.03.12

岡山放送(OHK)さんが取り組まれている手話放送について話を聞かせてもらった松田さん。

さらに、スポーツ実況を手話で行う「手話実況」について詳しくお話を伺いました。自身の手話経験とも重ねながら話を進めていくうち、松田さんの手話の捉え方に新たな気づきが生まれました…!

 

登場人物紹介

★篠田吉央さん
岡山放送のアナウンサーであり、情報アクセシビリティ推進部部長も務める。アナウンサーの仕事だけでなく、様々な手話表現を追求した番組づくりをプロデュースしている。

 

★松田さん
大学で手話サークルに入っている。自分自身でも手話を学ぶイベントを企画運営し、周囲に学びの輪を広げている。

 

ろう者と共に作る番組が、全ての人に役立つ

岡山放送の真骨頂、手話実況

岡山放送さんの「OHK 手話実況アカデミー」では、ろう者の方がリアルタイムでスポーツ実況をできるように育成をされているのですよね。その中ではどんなことを大事にされているのでしょう。

 

私は手話は聞こえない人の言語なので、手話実況も当事者がやるべきだと思っています。しかし、ろう者はそもそも「実況」を聞いたことがないので「この競技は何がポイントで、どう説明したら面白い共感を呼べるのか」というノウハウを知りません。

 

一方、テレビ局は長年そのノウハウを積み上げています。たとえばマラソンでは、ランナー個人が積み重ねてきた練習や記録の解説が入ると、人間ドラマが見えてきますよね。また、用語やルールを、当たり前のものとしてではなく、ろう者の目線に立ち返って分かりやすく伝えられるかを大事にしています。

手話実況そのものにも、何か工夫がありますか?

 

私たちの最終目標は情報を届けきることです。そのために、手話と画面上の映像を上手く使います。

 

たとえば、岡山放送で放映している「香川丸亀国際ハーフマラソン」はタイムを競う勝負なので、「5km」「10km」「15km」と、各関門の通過タイムを丁寧に伝えていくことがレースを楽しんでもらうためのポイントです。

 

しかし、数字を伝える時に手話で数字を出すと、伝える方も読み取る方も間違えてしまう可能性もあります。そこで、テレビ画面に表示される関門の通過タイムのテロップに手をかざして表現することにしました。

OHK手話実況アカデミーでの勉強会

すると、ろう者だけでなく、健常者への伝わり方にも変化が起こりました。レースが激しくなってくると、タイムを強調する手話も激しく映るため、それが熱量を示すバロメーターになっていく。聞こえない人のために尽力していたら、聞こえる人にも役立つような情報伝達ができるようになったんです。

 

聞こえない人は少人数かもしれない。でも、結果的に全ての人に役立つコミュニケーションに戻ってきた。これは、広く多くの人に届けようとするマスコミュニケーションの仕事に携わる私たちにとって、大きな学びになりました。

 

なるほど!

 

ろう者の方々は「手話で実況しようなんて思いもしなかった」と口をそろえますが、聞こえない人と聞こえる人を繋げる架け橋のような存在が岡山放送です。彼らと一緒に仕事をするからこそ気づくことがある。そこから「これが役立つのでは?」と考えた様々な取り組みを展開しています。

 

行政用語をどう伝える?防災動画にも手話

僕が見た岡山市の防災動画にも手話がついていました。

 

それも私たちが制作したものですね。防災マニュアルやハザードマップにある情報が、確実に届いているかが重要です。

 

「避難レベル3」は「高齢者等避難」で高齢者の他に障がい者や乳幼児とその避難を支援する方なども含まれています。しかし、あるろう者の方が、「高齢者等の“等”っていうのは、私たち入ってるの?」と聞いてきたことがありました。そこで、防災の行政用語の示すものがちゃんと伝わっていないことに気づかされた。「では、どうしたらいいのか」と考えた結果が、この取り組みなのです。

 

”等”というのはそういうことなんですね。僕もよく分かっていませんでした。

 

聞こえない人と聞こえる人が一緒に番組作りをして、それぞれの得意分野を活かして、結果的に双方に役立つようにしていく。こうした手話放送は、日本初・世界初にチャレンジできる、私たち制作者にとっても大きな舞台になっています。

 

デフリンピックで進化した手話実況が教えてくれるもの

手話実況体験がもたらす「相手への思いやり」

「東京2025デフリンピック」では、一般財団法人トヨタ・モビリティ基金の委託を受け、一般の方向けの手話実況の体験会も運営されてましたよね。体験会では、どんなことをされたのですか?

 

大きくは二つです。一つは、参加者が手話で手を動かすと手話の実況者として画面上に映る、テレビ局のスタジオのような体験会です。

マラソンの手話実況体験

もう一つは、マラソンやデフサッカー(聴覚障がい者がプレーする音のないサッカー)の実況における手話表現をろう者の先生から習って、聞こえない世界について理解を深めてもらう取り組みです。ハードルを下げて、関心のない人も一緒に体験できることを心がけました。

 

体験会に参加すると、どんな気づきや意識の変化があるのでしょうか?

 

「見た目は一緒だけど、色んな人が世の中にはいる、聞こえない人もいる」「自分が伝えている情報が、必ずしも相手に届いてるわけじゃないんだ」と気づいてもらえることが、大きな変化だと思っています。

 

たとえば、体験会で「講師の先生です」と子どもたちに紹介する。子どもたちは拍手します。でも、その時に「この拍手は聞こえてないんだよ」と言うと、子どもたちはハッとします。これも気づきですよね。

 

コミュニケーションで大事なことは、相手を思いやれるかどうかだと、私は思います。こうした体験を通して得た学びが、普段の聞こえる人同士のコミュニケーションにも活きてほしいなと願っています。

 

手話実況2.0が学生にもたらした「気づき」

どのくらいの方が体験会に参加したのですか?

 

1400人以上のお客さんが来場し、秋篠宮妃紀子さまも手話実況を体験されました。海外メディアの取材も受けて、「この観戦スタイルはメイド・イン・ジャパンだ」と言われた時は嬉しかったですね。

デフサッカーの手話実況体験

デフリンピックは、私たちにとっても大きな契機になりました。それを私たちは「手話実況1.0」と「手話実況2.0」として整理し直しました。

 

「手話実況1.0」は、テレビ画面の情報をバリアフリー化して、みんなに届けきるものでした。「手話実況2.0」は、届けきったその先です。届けきった先に何ができるのかを考え、みんなで一緒にワクワクする。それを新たなテーマに定めたのです。

 

その結果、これまで大切にしてきた香川丸亀国際ハーフマラソンも進化しました。手話実況観戦シートを作り、マラソンコース沿いにある小学校に配布したのです。かつてはテレビ画面の中で全て伝えきろうとしていたけど、これからはみんなで一緒にワクワクする仕掛けを作ることが必要なのではないかと考えるようになった。その意識の現れですね。

 

どんな風に使うのですか?

 

テレビ画面に出てくる手話表現がシートに掲載されているので、子ども達はそれを使って自らマラソンの手話実況ができます。加えて、シートには通過タイムも書き込めるようにしてあります。これまではテレビ局から一方通行だった情報の流れをもっと立体的で双方向的なものにしたいのです。

実際に配布された手話実況観戦シート

なるほど……。僕も手話を学ぶイベントを企画しているのですが、「知識のある側がない側に提供する」という意識がどこかにあったかもしれません。

 

その意識のスタンスは手話に限らず、色んなことにおいてもあると思いますよ。私たちは「知っている側が優位だ」とついつい考えてしまいがちですが、そんなことはないのですよね。

 

私たちテレビ局員は、手話放送があって本当によかったと思っています。ろう者という聞こえない世界で生きる人たちとコミュニケーションを取ることで「自分たちの当たり前は当たり前じゃない」という学びや気づきが生まれる。そうやって、情報伝達のスキルとマインドが高まってくる。新しい取り組みを一緒に作っていくなかでまた気づきがある。この循環は、「一緒に高まっていく」ということなんです。

松田さん、聞こえない世界で生きる人がいるということを学ぶ

ろう者という「人」が大事

僕は大学で手話サークルに所属しています。続けられている理由の一つに、手話の言語としての奥深さがあると思っているのですが、篠田さんは手話をどのように捉えていますか?

 

私たちは、手話を一つの言語だと思っています。ただそれは、「手話という言語を使う人」のことを大事にしているということ。重要なのはろう者、人なんですよ。聞こえない世界で、手話を言語として生きているろう者とのコミュニケーションを大事にしたいのです。

 

情報を伝えるだけで考えれば、健常者の手話通訳者をつければそれでよい。でも、私たちはそうはしません。基本的にはろう者に画面に出てもらい、健常者の手話通訳者が出る場合でも監修として必ずろう者についてもらいます。それは、聞こえない人とのコミュニケーションが根源にあるからです。

 

聞こえない人とのコミュニケーション、ですか。

 

私が手話放送の担当になった時、まず制作スタッフと聞こえない人たちで懇親会を開きました。 そのとき、私の隣に座ったろう者の方が言ったんですよ。

 

「私、『金バク!』を観たいんですよ。いや、観てるんですけど、楽しそうに笑ってたり何かを食べてる時の情報が、テロップがあっても一瞬だったり、断片的なように感じていて。そういうのを楽しみたいんですよ。」と。

 

それを聞いて、「そりゃそうだよなぁ」と思ったんですよ。私も彼も同じ人間。同じようにおいしいものを食べたいし、面白いことをしたいし、何か流行りのものを知りたいと思う。じゃあ、なんで私たちはそれをしていないんだろうなと。

 

これが当事者の見方であり、本当の情報だと思うんです。手話を「言語」としてしか見ていないと、こういったものには気づけない。手話を言語にしている「ろう者」とコミュニケーションするから気づけるんですよ。

 

なるほど……。そういえば、サークルで手話歌*を作るとき、サークルメンバーとろう者の方で、意見の食い違いがありました。メンバーは手話を正確につけたいと思っていましたが、ろう者の方はその表現に違和感を持たれていたのです。今振り返れば、メンバー側には、手話の「言語」の方にこだわりがあったのかもしれません。

 

*手話歌:手話ソングとも。人気曲の歌詞を手話で表現するもので、YouTubeやTikTokなどの動画共有プラットフォームで拡散されている。

 

辞書を見て手話をつけるんじゃなくて、手話歌で何をしたいの?という話かもしれません。聞こえない人たちと一緒に音楽を楽しむことが目的なわけですから。ろう者側の思いも汲み取ろうとするコミュニケーションが大事ですね。

 

私たちには文字の裏側が見えない

その後のメンバーとろう者の方とのやりとりはメールの文面で進んでいき、それにも難しさを感じました。

 

それは、よい気づきかもしれません。ろう者は文章で生きてる人たちではないので、文面では伝わりにくい。手話は手の動きと表情と口の形で伝えるので、忙しくても会って伝えようとすることが大切です。

 

同じ日本語を使っていても、伝わらないことがあるんです。あるろう者の方が「私たちは文字の裏側が見えない」と言っていました。例えば、「おにぎり」という文字を読んだ時、音としてしか伝わらないんですよ。三角形のおにぎりをイメージして欲しいなら、それを示す動作が一緒じゃないと分からない。

 

「文字の裏側が見えない」、同じことを言われました。

 

仮に相手が外国人だったら、少し丁寧に考えて、伝わるように文言を変えたりすると思うんですよ。それと比べて、ろう者は見た目は健常者と一緒で同じ日本語を使うけど、届きづらい。それを知ってほしいですね。

 

それに、聞こえない人と手話でコミュニケーションをとったとき、それが相手にどう伝わってるのかを学ばせてもらうことが醍醐味だと思いますので。

 

僕は、手話の「言語である」という部分に囚われていたのかもしれません。僕の今後の活動にどう落とし込めるか、これから考えていきたいです。

 

私たちは手話が言語だと思って『手話が語る福祉』という番組名を付けたんです。それは「言語とは何か」という問いでもあります。言語があるということは、その言語を使って生きてる人たちがいるわけで、その人たちを忘れてはならないのです。

 

手話じゃないと届かない、手話で生きている人たちがテレビの前にいるんだと、その人たちを忘れないよう、画面上に手話を出しているのです。取り組みが30年続いて、様々なアイデアが生まれてきましたが、その根源にあるのは「ろう者とのコミュニケーション」があるんですよね。これは絶対に忘れてはいけません。

 

社会人になってからも手話カフェなどに参加して、聞こえない人との関係をつくっていきたいと思っています。

 

これからもたくさんコミュニケーションをとってみてください。

 

はい!篠田さん、本当にありがとうございました!

(執筆:森分志学)

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