CM制作の道に進みたい女子大生が元業界経験者のネイリスト・長峰まりえさんに聞いた、「好きか嫌いか」で生きる道。

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公開日 2025.10.25

「大勢の中から選ばれるような特別な経験は、私にはないんじゃないか」

 

就職活動や面接を前にすると、そのように気弱になってしまうことがよくあります。

 

今回は、そんな不安を抱えながらも、テレビCM制作の仕事に惹かれる大学生・ななさんが、元大手映像制作会社出身のネイリストに相談に行きました。先輩の生き方と言葉で、彼女の胸の不安は晴れるのでしょうか。

 

登場人物紹介

★ななさん
岡山県内の大学に通う3回生。経済学部で広告について学びながら、クリエイティブな仕事に就きたいと考えている。「コレだ!」という自分の強みを見つけられず、「都会の同世代と競争していけるのか」と不安を抱えている。

 

★長峰 真理恵(ながみね まりえ)さん
岡山県和気町でネイルサロン・扇松屋を営むネイルアーティスト。東京から7年前に移住。前職は大手CM制作会社のプロダクションマネージャー。

 

和気町のアワード受賞ネイリストは大手CM制作会社出身!?

扇松屋さんの大人個性派ネイル

長峰さん、はじめまして。東京でCM制作に関わってみたいと考えているななです。よろしくお願いします。私の憧れの生き方をしてきた方が岡山にいたなんて、驚きでした。

 

よろしくね。ななさんは、実際に映像そのものをつくる映像・CM制作会社と、広告代理店、どちらが気になっているの?

 

私は実際に制作に関わる仕事がしたい気持ちが強いです。

 

おお〜、じゃあ私と一緒ですね。少し前の話にはなるけど、株式会社TYOという会社で映像制作に携わっていたので参考になるかもしれません

 

うれしいです。きらびやかな世界にいたのに、今は和気町で小さなネイルサロンを開いているっていうところも、カッコイイです。しかも、長峰さんのネイル、短いのにすごくキレイですよね。「アワード受賞」という評価も得てらっしゃって、本当に私の理想です。
ありがとう(笑)。でも、そんなにカッコイイものでもないですよ

 

私は、東京から縁もゆかりもない和気町に引っ越してきた新参者のネイリストだったから。サロンを開業するにしてもなじみのお客さんもいないし、「そのままじゃ誰も来てくれないだろうな」と思ったんです。

 

けど、「来てくださ〜い!」って営業するのも苦手だった。だから、「ちゃんと評価してもらえる作品を作って賞という箔(はく)をつけて、お客さんの方から来てもらえるようにならなきゃ」って、必死に賞を獲りに行ったというのが本当のところなんです

 

狙って獲りに行って、実際に獲っちゃうのがすごいですよ。

 

実は私、小学校の頃から賞を追いかけるのが好きだったんですよ。兄と弟に挟まれた三人兄妹の真ん中だったから、最初は親の関心が欲しかっただけなのかもしれません。大学生のときは「この世に名を残したい」って思ってたし。中2病っぽいから言うのが恥ずかしいですけど(笑)。

 

大手の映像制作会社を就職先に選んだのも、ある程度稼げて何か「賞を取れる環境」に行きたかったから。きっと思考が単純なんです。

「国内外注目のネイリスト100」という企画で選出された長峰さん

長峰さんの「好きか嫌いか」で歩んできたキャリア

嫌いを避けて、海外へ飛び立つ

長峰さんは小さいころからネイルやCMが好きだったんですか?
いや、もともと好きだったのは舞台と映画なんです。ミュージカル鑑賞が好きな母と映画鑑賞が趣味の父の間に育って、最初は観る専門でした。だけど小学校4年生のときに「実際にやってみたいな」と思うようになって、学校のクラブ活動で演劇を始めたんです。

 

それを6年生まで続けたら「もっといろいろできたら楽しいだろうな」という思いがふくらんできて、そこで将来の夢が決まっちゃいました。

 

どんな夢だったんですか?

 

映画や舞台の美術や特殊メイクの仕事に就くことです。『シザーハンズ』って映画、知ってますか?あの作品を作ったティム・バートン監督の映画は特殊メイクや舞台装置がすごくて、大好きだったんです。演劇でも舞台の裏方が好きだったので、「じゃあ大学は日本大学芸術学部演劇学科の舞台美術コースに行こう」と。

 

すごく具体的ですね……!

 

目標をすぐ明確に決めたがる子だったんですよ(笑)

 

では、中学校は舞台芸術の道を目指して活動を?

 

いや、実は私、勉強が苦手な脳筋タイプだったので、運動ばっかりしてました。部活動のバスケに熱中していて、高校にもバスケのスポーツ推薦で行く方向で話が進んでいました。でも、高校進学をどうするか、裏では悩んでいました

 

どうしてですか?

 

推薦先が女子高だったからです。私はそれまで「好きか嫌いか」で生きてきたんですけど、正直なところ女の子同士の人間関係って、あまり好きになれなかった。だから、「頭も良くないし、高校生活を楽しめるかな」と気が進まなくて。

 

ちょうどそんなとき父親が仕事の関係でマレーシアに赴任することになり、海外受験にチャレンジすれば現地の学校に行けるかもしれないことになったんです。それで、「ええい、行ってやれ!」と思って、そちらの道を選びました

 

え、でも現地の高校ってことは相当の英語力がいりますよね!?英語は得意だったんですか?

 

もちろん猛勉強しましたよ。あとはノリというか、気持ちでぶつかりに行きました(笑)。そうしたら面接官の人も意外と優しくて、身振り手振りやフェイシャルエクスプレッション*で乗り切れたんです。きっと「この子は異文化の中でもやっていけるかな」というところを見てたんでしょうね。

 

*表情で表すジェスチャーのこと

 

海外の高校生活はどうでしたか?

 

科目選択の自由度がとても高い学校だったので、必修の英語と数学以外に物理、生物、心理学、舞台を学ぶ「ドラマ」やアート、デザインテクノロジー、ITなどを学びました。異文化交流にアートに遊びに、すごく楽しい時間でしたよ。

好きだった映画の道を嫌いにならないために

マレーシアの高校を卒業した後、大学はどうしたんですか?

 

実はこのころ、大学はアメリカのハリウッドに行きたくなってたんですよ。「映画⇒舞台・特殊メイク⇒ハリウッド!」みたいな。思考回路がストレートすぎますよね(笑)。でも、ちょうどアメリカで同時多発テロ事件が起きたころだったので両親の反対にあって、断念しました

 

気を取り直して、舞台じゃ稼げないなと思い、手に職だと日本大学芸術学部映画学科で撮影の勉強をスタートしたのですが、時間が経つにつれて映画制作への思いは徐々にしぼみはじめてしまいました

 

何かあったんですか?

 

ちょうどこのころは、漫画原作の映画が急速に増えた時期だったんです。私は舞台装置や特殊メイクをふんだんにつかった映像の世界でエンターテインメントを追求する作品が好きなんです。だからか、すでにイメージができている漫画を実写化して原作のストーリーをなぞるような作品がどうしても好きになれなくて。もちろん好きな人がいて良いのだけど、それは私の好みではなかった。

 

好きなはずだった映画のことがどんどん嫌いになる、それが嫌で仕方なくて

 

もちろん映画制作の仕事に就きたいと願ってきたわけですが、嫌いなことを仕事にしたくないじゃないですか。仕事って人生においてすごく大事だから。なので、そこでスッパリ映画の道に進むのはやめることにしたんです。

 

ずっと追いかけてきた夢を変えるのは勇気がいりますよね。

 

そうですね。でも、そうしたら新しい道が見えてきました。当時、CMの映像がすごく面白くなってきていて、カンヌライオンズ*のような世界的な広告祭で賞をとるような作品は、15秒や30秒という短時間なのにウィットに富んだ面白さがありました。

 

作品が短い分、制作期間も短いので飽きっぽい私向きだなと思って、そこからCM制作に転身したんです。

 

*1954年に設立の「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル」の通称。フランス南部のカンヌで開催される世界最大規模の広告・コミュニケーションフェスティバル。

 

選べないから「あみだで決めちゃえ!」

お子さんと遊ぶ長峰さん

せっかく入った大手CM制作会社を辞めて、和気町でネイルサロンを開くことにしたのはなぜだったのですか?

 

「子どもが欲しいな」という思いがあったからです。今は環境もかなり変わりましたが、当時は激務すぎて、私には働きながら出産・育児をできるイメージが湧きませんでした。でも、仕事はすごく刺激的だったので、ずっと続けていきたい気持ちもありました。

 

仕事を辞めて落ち着いた環境で妊活するか、子どもは諦めて仕事に打ち込み続けるか。夫と一緒に悩んだけど決められなくて、結局あみだくじで決めることにしました

 

あみだくじ??どうしてあみだに?!

 

本当に子どもも欲しかったし、仕事も大好きだったから。どちらの選択肢も良いから、選べなかったんですよ。なら、悩んでいる時間がもったいないじゃないですか。だから、あみだくじで決めちゃおうって(笑)。

 

で、「仕事辞めて妊活する」と出たので、「ちょっと仕事辞めてくる!」って次の日社長に相談に行きました。

 

すごい、即行動(笑)。

 

ありがたいことに引き留めてもらったんだけど、最後には折れてくれて、仕事辞めて妊活している間を応援したいからって、フリーランスとしてできる仕事を依頼してくれるようになりました。

 

素敵な会社と社長さんですね。そこから新たに「ネイリスト」という仕事を選んだのはなぜですか?

 

まず、まだ住む場所も決まってなかったから、技術があれば子育てをしながら自分のペースでできる仕事をしたいなと思って。前職で鍛えた映像制作技術はあったのですが、それではどうしても多忙になってしまって子育てどころでなくなってしまうだろうなと思って、他のものを考えたんです。

 

自分が培ってきたアートや作品づくりの感覚を活かせて、なおかつ自分の好きなもので、そこからスタートして仕事にできるもの。それがネイリストでした。

 

決めたらあとは思いっきりやるだけですから、必死で勉強して練習して、晴れて試験に合格して開業したーーそんな流れです

 

思い切りがよすぎます(笑)。仕事を辞めたり、いきなり開業したり、不安は感じなかったんですか?

 

不安でしたよ。でも、悩んでいる時間がもったいないから、行動しようって。でも、仕事辞めたばかりの妊活中は何していいかわからなくて、無駄に1日10キロ走ったりジムに通って筋トレしたりしてました(笑)。

 

アクティブ〜!!

悩めるななさんへ「どんな自分が好きかで考えて!」

で、ななさんはCM制作会社に就職したい気持ちがあるんですよね。どんなことに悩んでるの?

 

大手映像制作会社の世界って、すごくきらびやかじゃないですか。人気も競争率もすごいですよね。でも、「自分にはコレがある!」という実績もなくて。そんな地方の女子大生が、そもそも戦っていけるのか、不安なんです。

 

なるほどね。確かに、私が働いていたころは七次面接までありましたし、競争率が高いのは間違いない。でも、ななさんは戦えると思いますよ。三次面接官として応募者を見てきた立場として。

 

本当ですか?長峰さんは、候補者のどんなところを見ていました?

 

この子と一緒に働いてみたいな」と思わせてくれるかどうか、かな

 

CM制作の仕事は、1本撮るだけでも、100人200人の関係者と関わらなくちゃいけない仕事です。その人たち全員とコミュニケーションを取るから、ほぼ丸一日喋りっぱなしの日もあるくらい。だから、空回りせずに人ときちんとコミュニケーションが取れて、一緒にいて楽しくなるような「考え方の面白い子」を、私は選んでいました。

 

あとは「この仕事がしたい!」という意欲があるかどうか。そういうものってにじみでてくるもので、あまり実績とかは関係ないから。

 

ななさんはすごくいいと思いますよ。こうしてインタビューしにきて、物怖じせずにどんどん聞いてくれるし。

 

めちゃくちゃ嬉しいです……!でも、就職試験や面接では、それまでの人生経験ですごいことを乗り越えてきた「経験の濃さ」みたいなものが求められるのではないですか?すごいエピソードは私の中に思い当たらなくて。

 

う〜ん、そんなに特別なエピソードじゃなくていいと思いますよ。たとえば「大学時代に同じアルバイトをずっと続けた」とか。

 

そんなありふれたものでもいいんですか?

 

私は「この子に来てほしいな」と感じましたよ。どうアピールするかだと思います。それを話してくれた子は、いかにそのアルバイトが楽しかったか、嫌なこともあったけど辞めたり諦めたりしなかったことまで含めて伝えてくれました。

 

最近はあまり根性論は好かれないけど、仕事には諦めない気持ちや負けず嫌いなところも要ると私は思ってます。「この子は揉まれて乗り越えて来たんだな」と感じられたらそれで私にとってはOKで、経験自体が変わっている必要はなかったです。

 

なるほど。でも……私は飽きっぽくて。継続力がない自分にコンプレックスを感じてるんです。

 

いいじゃないですか、飽き性でも。さっき話したけど、私も飽きっぽいんですよ。飽きっぽいって、「嫌なことに気づくのが人より早い」ってことだと私は思うんです。気づいたなら、次の楽しいことに、新しいことに進んだらいいじゃないですか。飽きることは悪いことじゃないですよ。

 

でも、飽き性だとずっと浅いことしかできないのかなって思ってしまって。突き抜けた人ってずっと「何か一つのことに夢中であり続ける人」なのかなって思ってたから。

 

本当に好きになったものって、深くまで追求しますから。飽きっぽくても、ハマるものにはハマります。だから、飽きてしまったそれは「合わなかった」と解釈してもいいんじゃないかな。状況によって、変わってくるものでもありますから。

 

自画自賛して、自己肯定感を上げていいんです。私も飽きちゃったものはいっぱいありますよ。でも、いいんですよ、自分を責めなくて。「私を飽きさせるそいつが悪い」「私には合わなかった」と私は思ってます(笑)。

 

すごい(笑)。なんだか気持ちが軽くなってきました。

 

ななさんにはこうやってインタビューに来る行動力があるし、物怖じしてないし、話もわかりやすい。私だったら面接で採ってますよ。インターンに行ったりアルバイトしたり、現場に入って先に人柄を知ってもらうといいと思う。

 

私は勉強が苦手で適性検査はボロボロなタイプだったんですけど、インターンの現場では可愛がってもらえたので。本当になりたいなら、諦めないでほしいな

 

ありがとうございます……!最後に聞きたいのですが、長峰さんは、どうしてそんなに自分の軸を保って考えたり行動したりできるのですか?

 

「どういう自分が好きか」で考えてるから、かな。私はずっと「好きか嫌いか」で生きている人間なのだと思います。だからこそ、自分のことを嫌いになりたくないんです。

 

自分のことを嫌いになりたくないから、「自分のなりたい姿」になるために、どうしたらいいかをいつも考えています。好きなことをつき詰める自分と、諦めちゃう自分と、どちらが好きか。だから、そのために努力する。それだけな気がします。

 

どんな自分が好きか、どんな自分になりたいか……。ありがとうございます。どうあるべきかじゃなくていいって思えたら、なんだかスッキリしてきました。なりたい自分になるために、トライしてみようと思います!

 

良かった。応援してます!

イベント出展時の長峰さん。たくさんの応援メッセージをありがとうございました

(編集:横山麻衣子、執筆:北原 泰幸)

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