サステナブルな食のライフスタイルを広めるメーカー企業の挑戦

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公開日 2021.11.12

持続可能な社会をどうやって実現するのか。私たちに課せられたとても大きな問いです。そうしたなかで、動物の肉に頼らない食事として、大豆ミートが注目されています。今回は、サステナブルな社会をつくるための事業を研究・開発している岩舘さんからお話を伺いました。

 

 

登場人物紹介

NPOだっぴの代表理事・志学(しがく)。聞き手として塩瀬さんから話を聞きます。

 

岩舘さん

1987年千葉県松戸市生まれ。父親の仕事の関係で小学校の大半をアフリカのケニア・ナイロビで過ごす。途上国の危険を目の当たりにする一方、人々・大自然との触れ合いが原体験となる。大学時代にはバックパッカーでインドを何度も巡り、途上国に関わる仕事がしたいと就活の際には国際協力機関を受けるも採用されず。切り口を変えて食品企業に応募、首の皮一枚で業務用食品メーカーに採用され2010年に就職。環境負荷削減、サステナブルな食のライフスタイルを広めるマーケティングや研究企画に携わり、間接的に途上国の抱える課題解決に貢献できるよう仕事に取り組んでいる。

 

サステナブルな社会を目指して

食品素材メーカーの挑戦

岩舘さんの働いている会社について教えてください!

 

BtoBの食品素材メーカーです。ヤシの木のアブラヤシっていう植物から採れるパームや、カカオ、大豆などの原料を使って、油脂素材やチョコレートやクリームなど、様々な食品素材を開発しています。それを食品メーカーさんやレストラン、コンビニなどに売っているというようなお仕事なんですね。

 

油はクリームになったり、油とカカオを組み合わせてチョコレートになったりで、アイスクリームにコーティングできる特殊なチョコレートが私たちの得意分野だったりします。

 

私が一番関わってたのは大豆で、大豆からタンパク質の部分を取り出して、一番皆さんになじみのあるもので言えば、筋肉をつけるプロテインパウダーになったりします。最近では、大豆に熱をかけてポップコーンみたいに加工すると、大豆のお肉になります。

実は昔からベジタリアンの人は大豆のお肉を食べてたりしてたんですけど、環境のことを考えると、大豆は水をあまり使わないで作れるエコなタンパク源としてかなり優秀なんですね。

 

動物のお肉は、その生産過程でかなりの量の水やエネルギーが必要なんですけど、大豆はそういう環境負荷が低いのにタンパク質が豊富なので、未来の食の希望として今期待されているのです。この大豆ミートを「いかにおいしく普及させるか」という仕事をしていました。

 

原料を加工して食品に使われる素材を作っているんですね。先ほど大豆ミートは少ない水の量で生産可能という話がありましたが、世界的に水不足が課題になっているのでしょうか?

 

はい。日本に住んでるとむしろ豪雨などが増えているので、水不足って感じがしないんですけれど、世界的には水不足や砂漠化が懸念されています。

 

2030年に水が枯渇する地域があるとも言われているので、食品も水をできるだけ使わない形で、栄養価の高くて美味しいものをっていうミッションになってるんですね。

 

未来創造研究所のミッション

岩舘さんが現在働かれている部署・未来創造研究所について教えてください。

 

未来創造研究所自体は、もう何年も前から、10年後に花開くような時間のかかる研究をする部署としてありました。この研究所の中に、マーケティング的な視点「お客様の困りごと」「将来の世の中がどうなるか」「日本人だけじゃなくて世界の人たちが何を求めるようになってくるのか」というような情報をもとに、研究企画を考える人たちが必要だとなり、マーケティング部出身の私たちが入ったのが去年なんですね。

 

そこで、壮大でつかみ掴みどころがないかもしれませんが、2050年の未来に向けて何が起きるかという未来年表を作っています。世界の人口動態がどうなるか、穀物がどのくらい、いつまで問題なく採れるかなど、色々な項目で未来年表を作っています。そこから何の研究をやるべきかを練って、研究企画計画表を作成します。

 

へぇー!

 

今、私はカカオの問題について取り組んでまして。カカオは、熱帯地域の赤道付近の限られた地域でとれてるんですけれども、ほとんどが西アフリカのガーナとかコートジボワールで取られてるんですね。

 

世界で使われている量の約7割が西アフリカに依存しているのですが、この地域は気候変動リスクが高く、2050年を考えると、カカオが採れにくい場所になりそうという報告もあります。

みんなが大好きなチョコレートを安心してずっと食べていけるようにするためには、原産地を分散させる必要があります。

 

また、西アフリカのガーナとコートジボワールは森林破壊や貧困の問題も抱えていて、カカオ農家の多くは1日1ドル以下の生活を送っています。全世界のカカオ企業・チョコレート企業が一生懸命支援してるんですけど、まだまだ解決しないんですよね。やはり、西アフリカの負担を減らすことが必要で、そのために何を研究すべきかを今考えています。

 

岩舘さんのお仕事

研究と消費者のニーズをつなげる

研究所で岩舘さんがやっているお仕事は、例えばどんなことがありますか?

 

未来がどうなるのかの調査をやっています。弊社はチョコレート企業として、農地に植林を送ったりなど様々な支援をこれまでしてきたんですけど、カカオが足りなくなるかもしれないという事態に対して、研究所としてどういう対応策があるのかを検討しています。 未来のことは分からないことも多いですが、様々な予測を調査しています。

 

例えば、2050年に気候変動によって生産適地がどう変わっていくのかを、IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の予測をベースにしたり、日本の気象庁の情報とか見たり、カカオセクターと呼ばれるチョコレート生産に関わる国際グループの人たちの予測や対応策などをバーッと調査したりしています。

 

あとは社内調査ですね。社内の中でチョコレートに詳しい人やチョコレートの研究してる人にヒアリングして、うちの中にどんな強みがあるのかを整理します。未来の情報と今の社内の情報を組み合わせて、今から○○をすべきというストーリーを作っていきます。

研究所内のメンバーを整理したいのですが、研究員の方と岩舘さんみたいな調査員の方がいらっしゃるということですかね?

 

そうですね。研究員は理科の実験室みたいに研究開発をしていて、機能性のあるチョコレートや油脂、すごいとろけるチョコレートなどを開発していたんですけど、そこに私たちマーケティングの部隊が加わり、研究とお客様のニーズ・困り事をつなげる役割を担っています。

 

それがサステナブルな食品加工につながるということですね!

 

大豆ミートを広める!

岩舘さんのこれまでのお仕事の中で印象に残っているエピソードって何かありますか?

 

マーケティングをしていた頃で、特に面白いエピソードがいっぱいあります。

 

例えば、これまで私たちは大豆プロテインをスポーツドリンクの会社に売っていたのですが、将来のことを考えて、環境負荷の低い大豆を食べる新たなライフスタイルとして「たまには牛肉とかじゃなくて大豆のお肉を食べよう」「週に一回はベジタリアンやってみよう」という市場トレンドの浸透に力を入れていくことにしました。

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動物のお肉は水とエネルギーをたくさん使うけど、大豆はちょっとエコだし体にもヘルシーっていうストーリーで。ただ正論を訴えただけでは、「大豆ミートなんて美味しくないだろう」という反応になります。それを打ち砕くために、「Plant-based Food style」と打ち出し、メディアの人たちを呼んで試食会をしました。

 

オシャレなテーブルを用意して、大豆でトンカツやカツサンドを作ったり、豆乳からチーズを作ったりしました。それで「美味しい!」と言ってもらってテレビに出てたり。

 

あとは、デパ地下のお惣菜屋さんで、「これだったら週に1回くらいはベジタリアンになっても全然大丈夫」と言えるクオリティの大豆唐揚げや豆乳のグラタンを期間限定で売って、お客さんの反応を直接聞いたりしました。楽しかったですね。BtoB企業で一般の消費者の方と接点がなかったので、外に出て行ってお客さんとコミュニケーション取れたのもよかったです。

 

岩舘さんから見える世界

ビジョンを持ちながら現実に立脚する

岩舘さんがお仕事されるなかで大切にされていることって何ですか?

 

これは最近大切にし始めたことなんですが、ビジョンを持つ、世の中をよくしたい、未来に何を残せるかということを大事にしています。

 

ビジョンを持って仕事することが大事なんですけど、これに加えて、ビジョンを持ちながらも今の現実に立脚するということがすごく大事だなと思っています。

 

詳しく教えてください!

 

ビジョンを持ちながらも、自分の今の現在地を確認して、「どういう積み上げをしていけばそのビジョンに向かっていけるか」ということを常に意識することが大事だなと思っていて。

 

マーケティングの部署にいた頃は、ビジョンや理念をもとに「会社を変革するためには○○をしなきゃダメだ」と社内に訴えながら、今まで会社がやってなかったようなことをグイグイやっていました。でも、現場の人たちの理解がなかなか得られなかったんですね。「大事なのは分かるけど、そんなこと今やる必要ある?」とか「そんなことやったら現業のお客さんが離れちゃうじゃない」とか。未来のことを言ってるマーケティングの人達と、現場を支えている人たちに溝があったんですよね。

 

それはもどかしいですね。

 

それで、「現業の人たちは分かってない」と思っていたんですけど、そうではなくて。

 

私たちが今いる現在地をしっかり認識して、地味だけどそこから丁寧にコミュニケーションを積み上げてていくこと、「ここに行くためにはこういうふうなステップアップを踏めばこっちに行けるんだよ」と、非現実的な話をしていないことを説明していくこと。当たり前なことなんですけど、こういうことが大事だと改めて分かって、今はそれを大事にしています。

2050年を脳内で描きながら、とはいえ現状では西アフリカの貧困は止まっていない。現在動いている課題と2050年までに解決しようとしている課題との緊急性の差に葛藤もあるのかなと思ったのですが、どうですか?

 

そう思います。2050年に向けて今から着々とやっていかなきゃいけないこともありますが、身近なことでやらないといけないことをおざなりにするわけにはいかないので、そこもちゃんと配慮することは必要だと思いますね。

 

なので、CSRや他の部門とうまく連携しながら、「私たちは2050年に向けて今こういうことをしてるけど、現業にもこういう問題があって、これをやっていかなきゃいけないのでうまく役割分担をやっていきましょう!」という動きは必要になってくるかなと思いますね。

 

ビジネスとしてのサスティナビリティ

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これまでの仕事を振り返って、過去の経験が活きていることって何かありますか?

 

私は入社当初、営業を4年やって、その後マーケティングから今の未来創造研究所に異動しました。営業の部署で、お客様に製品の説明したり、モノが生まれてから販売するまでのプロセスを学ぶことができたり、トラブルシューティングなど、色々と商売の構造を学んだうえで、マーケティングや未来創造研究所でビジョンを考える部署に行けたのは良かったのかなと思いました。

 

これはまさに、ビジネスの中で社会課題と向き合っていくことのバランスの取り方の難しさみたいな話ですか?

 

そうですね。「それだけやってたら会社潰れちゃうよ」みたいなこともあったりするので、やっぱり会社にいる以上は、いかに社会の役に立つことを通じて、会社の利益も上げていくかから目をそらしてはいけません。

 

なかなか矛盾する部分もあったりして難しいんですけど、それを実現するためのビジネスモデルを考えられるようになった方が合意が取れますよね。

 

だから、西アフリカの貧困問題を解決することによって生産力が高まることは、当然経済活動にも良い影響を及ぼすから、そこにつながる研究は重要ということですね。

 

ビジネスとして成功して収益が上がれば、現地の労働雇用の問題とかも解決されていきますからね。そういうビジネスとしてのサスティナビリティも大事だなと思います。

 

岩舘さんは何をつくっている人か

最後に、「岩舘さんが“生み出している/つくっている”ものって何ですか?」ということを聞きたいのですが、この質問にどうお答えになられますか?

 

かっこいい言い方をすると、技術の価値と社会の価値をつなぐ架け橋をつくっていると思います。

 

研究員の方々は、理系で科学の知識が豊富なんですけど、科学の世界で革新的なものが、必ずしも生活者の私たちをハッピーにするとは限りません。なので、私たちの生活や文化、価値観と科学をつなげる、翻訳できる人になれるように頑張っています。

 

ときに科学は暴走して、人々を不安にさせることもあると思います。とくに食品は口に入れるものなので、科学的に優れていても、仮に安全が証明されていたとしても抵抗感を覚えてしまう技術もあると思うので、そういった部分をつないで、2050年に美味しい食を届けられる世界をつくっていきたいと思います。

 

岩舘さん、ありがとうございました!

 

(編集:森分志学)

※本記事は、2021年9月28日に行われた大学生対象イベント「生き方百科ずたんっ!#05」内でのトークセッション内容を記事化したものです。

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