岡山放送(OHK)さんが取り組まれている手話放送について話を聞かせてもらった松田さん。
さらに、スポーツ実況を手話で行う「手話実況」について詳しくお話を伺いました。自身の手話経験とも重ねながら話を進めていくうち、松田さんの手話の捉え方に新たな気づきが生まれました…!
目次
登場人物紹介


大学で手話サークルに入っている。自分自身でも手話を学ぶイベントを企画運営し、周囲に学びの輪を広げている。
ろう者と共に作る番組が、全ての人に役立つ
岡山放送の真骨頂、手話実況


一方、テレビ局は長年そのノウハウを積み上げています。たとえばマラソンでは、ランナー個人が積み重ねてきた練習や記録の解説が入ると、人間ドラマが見えてきますよね。また、用語やルールを、当たり前のものとしてではなく、ろう者の目線に立ち返って分かりやすく伝えられるかを大事にしています。


たとえば、岡山放送で放映している「香川丸亀国際ハーフマラソン」はタイムを競う勝負なので、「5km」「10km」「15km」と、各関門の通過タイムを丁寧に伝えていくことがレースを楽しんでもらうためのポイントです。
しかし、数字を伝える時に手話で数字を出すと、伝える方も読み取る方も間違えてしまう可能性もあります。そこで、テレビ画面に表示される関門の通過タイムのテロップに手をかざして表現することにしました。

OHK手話実況アカデミーでの勉強会

聞こえない人は少人数かもしれない。でも、結果的に全ての人に役立つコミュニケーションに戻ってきた。これは、広く多くの人に届けようとするマスコミュニケーションの仕事に携わる私たちにとって、大きな学びになりました。


行政用語をどう伝える?防災動画にも手話


「避難レベル3」は「高齢者等避難」で高齢者の他に障がい者や乳幼児とその避難を支援する方なども含まれています。しかし、あるろう者の方が、「高齢者等の“等”っていうのは、私たち入ってるの?」と聞いてきたことがありました。そこで、防災の行政用語の示すものがちゃんと伝わっていないことに気づかされた。「では、どうしたらいいのか」と考えた結果が、この取り組みなのです。


デフリンピックで進化した手話実況が教えてくれるもの
手話実況体験がもたらす「相手への思いやり」



マラソンの手話実況体験


たとえば、体験会で「講師の先生です」と子どもたちに紹介する。子どもたちは拍手します。でも、その時に「この拍手は聞こえてないんだよ」と言うと、子どもたちはハッとします。これも気づきですよね。 コミュニケーションで大事なことは、相手を思いやれるかどうかだと、私は思います。こうした体験を通して得た学びが、普段の聞こえる人同士のコミュニケーションにも活きてほしいなと願っています。
手話実況2.0が学生にもたらした「気づき」



デフサッカーの手話実況体験

「手話実況1.0」は、テレビ画面の情報をバリアフリー化して、みんなに届けきるものでした。「手話実況2.0」は、届けきったその先です。届けきった先に何ができるのかを考え、みんなで一緒にワクワクする。それを新たなテーマに定めたのです。
その結果、これまで大切にしてきた香川丸亀国際ハーフマラソンも進化しました。手話実況観戦シートを作り、マラソンコース沿いにある小学校に配布したのです。かつてはテレビ画面の中で全て伝えきろうとしていたけど、これからはみんなで一緒にワクワクする仕掛けを作ることが必要なのではないかと考えるようになった。その意識の現れですね。



実際に配布された手話実況観戦シート


私たちテレビ局員は、手話放送があって本当によかったと思っています。ろう者という聞こえない世界で生きる人たちとコミュニケーションを取ることで「自分たちの当たり前は当たり前じゃない」という学びや気づきが生まれる。そうやって、情報伝達のスキルとマインドが高まってくる。新しい取り組みを一緒に作っていくなかでまた気づきがある。この循環は、「一緒に高まっていく」ということなんです。
松田さん、聞こえない世界で生きる人がいるということを学ぶ
ろう者という「人」が大事


情報を伝えるだけで考えれば、健常者の手話通訳者をつければそれでよい。でも、私たちはそうはしません。基本的にはろう者に画面に出てもらい、健常者の手話通訳者が出る場合でも監修として必ずろう者についてもらいます。それは、聞こえない人とのコミュニケーションが根源にあるからです。


「私、『金バク!』を観たいんですよ。いや、観てるんですけど、楽しそうに笑ってたり何かを食べてる時の情報が、テロップがあっても一瞬だったり、断片的なように感じていて。そういうのを楽しみたいんですよ。」と。
それを聞いて、「そりゃそうだよなぁ」と思ったんですよ。私も彼も同じ人間。同じようにおいしいものを食べたいし、面白いことをしたいし、何か流行りのものを知りたいと思う。じゃあ、なんで私たちはそれをしていないんだろうなと。
これが当事者の見方であり、本当の情報だと思うんです。手話を「言語」としてしか見ていないと、こういったものには気づけない。手話を言語にしている「ろう者」とコミュニケーションするから気づけるんですよ。

*手話歌:手話ソングとも。人気曲の歌詞を手話で表現するもので、YouTubeやTikTokなどの動画共有プラットフォームで拡散されている。

私たちには文字の裏側が見えない


同じ日本語を使っていても、伝わらないことがあるんです。あるろう者の方が「私たちは文字の裏側が見えない」と言っていました。例えば、「おにぎり」という文字を読んだ時、音としてしか伝わらないんですよ。三角形のおにぎりをイメージして欲しいなら、それを示す動作が一緒じゃないと分からない。


それに、聞こえない人と手話でコミュニケーションをとったとき、それが相手にどう伝わってるのかを学ばせてもらうことが醍醐味だと思いますので。


手話じゃないと届かない、手話で生きている人たちがテレビの前にいるんだと、その人たちを忘れないよう、画面上に手話を出しているのです。取り組みが30年続いて、様々なアイデアが生まれてきましたが、その根源にあるのは「ろう者とのコミュニケーション」があるんですよね。これは絶対に忘れてはいけません。



(執筆:森分志学)





岡山放送のアナウンサーであり、情報アクセシビリティ推進部部長も務める。アナウンサーの仕事だけでなく、様々な手話表現を追求した番組づくりをプロデュースしている。