今回は、アーク訪問看護ステーションの富永芽生(とみながめい)さんをご紹介します。幼い頃から看護師になるために突き進んできた富永さん。初めは病院に勤務する看護師でしたが、現在は職場を変え、患者の自宅に訪問してケアをしています。訪問看護をおこなううえで富永さんが大切にしていることや、富永さんから見える業界の課題はどのようなものなのでしょうか。

目次
訪問看護の仕事
――富永さんが取り組まれている「訪問看護」とはどのようなお仕事ですか?
――利用者さんにはどのように接しているのですか?
――「お試しでやってみよう」ということは結構あるのですか?
でも、失敗もたくさんあります。
――どんな失敗ですか?
あと、小さいインシデントはよく書いています。
――インシデントとは?
たとえば、鼻から入れている経鼻栄養チューブを入れている患者様が誤ってチューブを抜いてしまった場合、インシデントに該当します。病院勤務をしていたときはよくありました。小児科にいたときは、子どもが栄養チューブを抜いてしまうと毎回インシデントレポートを書いていましたね。
「どうしたらそれが起きなかったのか」という原因や対策を追求するために、インシデントがあります。
――失敗してしまったときの乗り越え方は何かありますか?

4歳で出会った看護師が将来の夢に
――富永さんの人生の歩みを教えていただけますか?
娘が生まれたタイミングで、働き方を考えて、訪問看護の世界に飛び込みました。
――訪問看護の世界に飛び込まれたきっかけは何ですか?
無事に看護師になることができて、結婚して、娘を出産したときに、自分の使命が一つ増えました。それは「自分の子どもを一番大切にしていく」ということ。
母親が言うには、わたしは幼い頃から看護をしている人に憧れを持っていたみたいなんです。わたし自身、小さい子のお世話が好きで、保育園でも年下の子のお世話をしてたんですよ。
中学生くらいから「わたしは小児科の看護師になりたい」という強く思うようになっていました。
高校も「大学は看護学科に行くんだ」という目標を持って勉強をし、大学では子どもの支援について学びつつ、看護師になることを一心に考えていました。
すると、「夜勤がある仕事だと、娘が幼い間にそばにいられない」という悩みが出てきてしまったんです。
でも、看護師という仕事はとても好きなので、似たような仕事を探していたら、訪問看護は子どもがいてでもできるということを知りました。
「自分が幼い頃に見ていた訪問看護の看護師はこれか。やってみよう」と思って、飛び込んだんです。
学生時代の経験や人間関係が今に繋がっている
――そうだったのですね。学生時代のことを伺いたいのですが、高校時代にこれをしていて良かったと思うことはありますか?
とてもラッキーだったことはあります。高校生のときに「フィリピンの子どもたちに科学の楽しさを教えに行こう」という機会があって、それに参加できたことです。海外の子どもたちと触れ合えたことは、自分のなかで大切な時間だったなと思います。
――参加してどうでしたか?
裸足で歩いているストリートチルドレンの子たちを見て衝撃を受けました。一方で、そんななかでもとても楽しそうに過ごしている子どもたちの姿を見て、どんな境遇でもキラキラしている姿に感動しました。素敵な経験をさせてもらって、視野が広がりました。
――その経験に今のお仕事に活きていますか?
今は、いろんな人たちがいて、その人たちを否定せずに、ありのままで少しずつ受け入れられるようになっているかなと思います。
――高校時代の経験が今に繋がっているのですね!今、高校生の富永さんに声をかけるとしたらどんなふうに声をかけますか。
また、今の中高生の皆さんには、時間を大切にしてほしいなと思います。
1日1日を楽しく、友達と過ごせる時間は貴重だし、高校の3年間は戻ってこないじゃないですか。わたしは大学でできた友達との付き合いが長いんですけど、高校の友達が一生付き合う友達になる人もいると思います。
高校生の間にやったことって、未来の自分に繋がっているなと思うんですよ。なるべくチャレンジや失敗をたくさんしてほしいなと思います。

明るい笑顔で、思いを聞き入れる
――富永さんがお仕事で大切にされていることは何ですか?
とても単純ですが、ニコニコしながら訪問して仕事をするようにしています。
ブスっとして仕事している人って、周りの人もなんか嫌じゃないですか。
「めいちゃんが来てくれたら空間が明るくなったわ」とご家族に言われると「疲れた顔してちゃ駄目だな」と思いますね。
――素敵ですね!笑顔でいるなかでも、難しさや葛藤を感じる場面はありますか?
たとえば、「利用者が食べたいと思っているものを、制限したほうが回復する」みたいなケース。
「病院だったら」という視点は、そもそもお家での生活が前提ではなくなってしまう。利用者の思いや生活基準に合わせたうえで、最大限できることを考えるのが難しくなるんです。
「病院だったら」とは考えずに、利用者の気持ちに合わせていくことを考えます。
糖尿病の方にとって、食生活や内服の管理は大事ですが、生活習慣を変えるのは難しいんです。
どうすり合わせていくかを考えるときに、あまりにも看護師の視点になりすぎると、利用者との信頼関係が崩れて、関わることが難しくなるので、いつも葛藤するんです。
――葛藤したときに、何か心がけていることはありますか?
課題は人材育成の仕組みづくり
――利用者との関係性づくりが大切なのですね。訪問看護全体についても聞かせてください。業界での課題はありますか?
病院には、新卒1年目から基礎的な研修やカリキュラムがあります。技術面で学べる機会がたくさんあり、訪問看護を担当することになってもスムーズに移行しやすいです。
一方、訪問看護ステーションには、新卒1年目から勤務する方はとても少なくて、技術に関する研修がほとんどない。経験者が務めることが多かった業界ですが、最近はありがたいことに新人の方が応募してくれることが増えてきました。けれど、今はまだ研修の機会がなかなか作れなくて。未来の人材を育成する機会が少ないことが、大きな課題だと感じています。
――人材育成に関して、今取り組まれていることはあるでしょうか?
新人の立場に立つと「A先輩はこう言ったけど、B先輩はああ言った」となってしまうと、戸惑いますよね。それが解消されたら、先輩側も「新人が教えたやり方とは違うやり方をしている」といったようなことが無くなる。手順を明確にすることで、新人にとっても先輩にとっても、関係性が作りやすくなって仕事がしやすくなると思います。
――訪問看護の業界では、人手不足が問題になっていると耳にしました。その解決にも繋がりそうですね。

たとえば、ストーマ(人工肛門)といって、消化器系のトラブルがある患者様の腸をお腹の外に出して新しい排泄の出口を作ることがあります。そういった場合、皮膚トラブルを起こしやすかったり、ストーマ用の装具を管理する必要があります。そうした方のお家に看護師が訪問してケアをすることで皮膚トラブルを防いだり、状態の報告を病院側へして早めの受診を促したりすることができます。
がんの末期の方が「病院はよりも家に帰って最期を過ごしたい。」とおっしゃる場合、在宅診療の医師と連携して、お家で痛みを取りながら最期まで過ごせるように、家族様を含めてサポートをしたりもしています。